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涙を流すべきではない。涙に流されるべきではない

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クロード・ランズマンという名前を聞いたことがあるでしょうか。

ホロコーストの当事者のインタビューのみで構成された、上映時間9時間30分にも及ぶドキュメンタリー映画、ショアーの監督であり、フランス系ユダヤ人でもある彼は、スティーブン・スピルバーグのホロコーストかたユダヤ人救うドイツ人を描くシンドラーのリストを批判しました。要旨としては下記のような感じ。

「涙を流すべきではない。シンドラーのリストは多くの人の涙を誘うだろう。だが、涙はカタルシスだ。感情浄化によってホロコーストの本質まで流されていってしまうのではないか。」

アテネフランセで公開された時ののチラシかパンフに掲載されていたと思いますが、なにぶん15ほど前に日本で公開された作品なので、ネット上では一次ソースは見つけられず。ただいろんな方がレビューで同様の内容を書いてらっしゃるので、だいたい合ってるはず。
http://blogs.dion.ne.jp/k_nakama/archives/10001777.html
http://www.kanshin.com/keyword/896014
http://d.hatena.ne.jp/MrJohnny/20060429

福島の原発で命がけの作業に当たっている方がいます。彼らは間違いなく日本全体のために命をかけるヒーローでしょう。ネット上でも多くの人が声援を送っています。
また被災地で懸命の救助活動に当たる方達がいます。震災何日後かに奇跡的に救助された方もいます。無念にも家族を失った人の生き続ける強い意思を書く記事も多く見受けられます。
それらの報道はきっと多くの人の涙を誘い、勇気を与えているんだと思います。

当然、彼らの活動は賞賛に値します。しかし、僕らが彼らの活躍に喝采し涙を流すことが彼らの頑張りに報いることに繋がるとは限らないと思うんです。涙を流して(流させて)カタルシスを得る(売る)ことが、本当の意味で彼らヒーローに報いることにはならないのではないでしょうか。

これから本当に必要なのは、今回の事故の問題点と原子力政策の是非、ひいては社会全体のグランドデザインを徹底的に冷静に議論していくことではないでしょうか。

そもそも、あれだけの大地震に耐えうる設計にも関わらず、津波の被害を考慮に入れていないのはなぜなのか。地震大国の日本になぜこんなに原発があるのか、電気という最重要インフラがなぜ東電という一企業が独占しているのか。
非常時の危機管理は、最悪の事態を想定しつつ、その可能性を最小化することが基本。パニックを起こしたくないから楽観的な展望を発表し続けることはリスクマネジメントとして適切なのか。

列挙すればキリがないくらい、今回の災害から反省することがある。

2004年の新潟県中越地震の際、車ごと生き埋めになった親子の救出に日本中が固唾を飲んで見守り、子供が救出された時、自らも生き埋めになる危険を克服し、少年を救出したレスキュー隊員の勇気にみんなが涙しました。その裏で山古志村などの集落が道路が寸断され孤立したことがあったが、地方の小さな集落はそもそも過疎化と高齢化によって自然災害への対応力が落ちていることを指摘したメディアはあったか。(あとその3年後の同レベルの大地震で柏崎原発の事故が起こることになる。この2004年時点で耐震基準に疑問を投げかけたメディアはあったか。)

あの時、感動の救出劇の大報道の中、何か大事なことが見落とされてなかったでしょうか。

きっとこの事故の映画化の話なんかも出てくるだろう。どんな切り口や内容かにもよるんだけど、きっとやるとすれば思いっきり「感動的な」物語に仕上げるんだろう。そして多くの人がその映画を見て涙するんだろう。

そして、本当に大事な問題は涙と一緒に流れていってしまうでしょう。

日本人の長所である危機の時の冷静さや結束力を目の当たりにして、村上龍のように僕自身日本に対して希望を持った。
けどこのあと、日本人の短所である健忘症を発揮してちゃあダメなわけで。涙というカタルシスはその健忘症を助長するだろう。
そしたらまたきっと同じことが起きる。地震も津波も日本という国は避けられないし、CO2削減のプレッシャー今まで通り原子力政策は推進されていく。そうして天災(人災かな)は忘れたころにやってくる。原発や地震に限らず「同じような構造」を抱えた問題も起きる。

お上に丸投げでOKな時代は終わる。日本で暮らすみんなが当事者意識を持って、この問題を考えないとおけない。拍手してもいいし、シンパシーを感じたっていいんだけど、それだけで終わってはいけない。

今、福島で命をかけている方々や震災の犠牲になった形に本当の意味で報いたいのなら。

追記1(3/21 15:00)
要するにこういうことが言いたかった。
http://twitter.com/#!/Tristan_Tristan/status/48709537443749888

追記2(3/21 21:50)
さっそく、感動的なヒーローの話の裏側で、こういう話が出てきた。
一部を抜粋。
現場を知らない本部の人達から、東京消防庁が現場で判断した方針を変更するよう度々要求された。
・放水は当初4時間の予定だった。その後状況を勘案し、必要に応じ再度放水することにしていた。しかし、連続して7時間放水し続けるよう執拗に要求された。結果として、7時間放水することになったが、そのため2台ある放水塔車のうち1台がディーゼルエンジンの焼き付きにより使用不能となった。
・東京消防庁にて海から放水塔車までの給水ホースの設置ルートを800メートルの最短距離で、設定していたが、遠回りにするように執拗に要求された。
・「俺たちの指示に従えないのなら、お前らやめさせてやる」の発言もあった。
http://www.inosenaoki.com/blog/2011/03/post-8bab.html

ショアー
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