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被災者と向き合った人の記録。映画レビュー「相馬看花 ―第一部 奪われた土地の記憶―」

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南相馬の映画館、朝日座でのイベント、東日本大震災復興支援上映プロジェクト「ともにある Cinema with Us」in 福島で観た映画のレビュー第二弾です。

「相馬看花 ―第一部 奪われた土地の記憶―」
公式サイト
http://somakanka.com/

以前、このブログでドキュメンタリー映画311を批判したことがあります。
http://hotakasugi-jp.com/2012/03/04/documentary-311/

あの映画の作り手たちは被災者とも被災地とも向き合っておらず、専ら自分たちの後ろめたさについて自省しているだけだからです。
報道のあり方や情報を享受することについての問いかけにはなっているかもしれないのですが、それだけです。(勿論、それも重要な問題です)
本来、報道はそうした後ろめたさを持ちつつ、責任を持って有益な情報を開示するのが役割であるはずです。しかし311はそれに失敗しているわけです。あの作品では、被災地も被災者も背景に過ぎず、カメラを回している作り手たちが目の前の現実と全く向き合えていない。ただただ物見遊山で訪れてしまった自分たちの後ろめたさをどう処理したらいいかわからないままに終ってしまっている。
役割を果たせませんでした、それを正直に見せます、なので皆さん考えてください、で通るとは思えない。
僕には居直っているようにしか見えません。
ただ、映画を見終わったときに、ここで失敗をしたジャーナリストの方々がその失敗をどう乗り越え今後に生かすのかが一番大事な点だろうとも思いました。

このドキュメンタリー映画、「相馬看花 ―第一部 奪われた土地の記憶―」の監督は311の共同監督の一人、松林要樹氏。松林監督は、311の失敗と反省、そしてドキュメンタリー作家やジャーナリストはどう被災者と被災地に向き合うべきかについての一つの良解答を、この映画で示してくれました。

映画は、3月11日に監督の自宅で大きな揺れを感じた所から始まる。そして監督が友人と食料を届けにいったところで、南相馬の市議会議員、田中京子さんに出会う。田中さんは、20キロ圏内の避難区域のパトロールを行っているのだが、カメラを持って監督も同行する。そこには、窓ガラスを割られた家がいくつもある。明らかに物盗りの仕業だ。日本人の規律正しい美談が謳われたこともあったが、現実にはやはりこういうことがある。

避難勧告が出た後も20キロ圏内に住み続けていた老夫婦を田中さんと一緒に訪れる。奥さんは足を悪くしていて、上手く移動することもできない。監督は次に来る時に何か持ってきてほしいものはありますか、と訪ねる。すると旦那さんは酒と笑顔で答える。水も止まっていて、食料確保も困難な状況でも自分の好きな酒は手放せないという。答えた時の笑顔がまたいいんですね。どんな状況でもユーモアがあるの人、というのはスゴい。
その後、本格的に20キロ圏内は警戒区域となり、住民の避難が始まる。田中さんの自宅も20キロ圏内にある。松林監督は、田中さんの旦那さんと共に夫妻が結婚式を挙げた神社へ行く。20キロ圏内であるため、復旧は全く進んでおらず、あちこちが崩れたままの神社で田中さんはまた無事に戻って来れるようにと涙ながらに祈る。

この映画では、カメラを向けられた人たちが笑顔も見せるし、涙も見せる。カメラを向ける松林監督という他者がいるにも関わらず、無防備な自分たちをさらけ出すことをためらっていない。これは監督とカメラを向けられた人たちの間に信頼関係がある証拠です。この映画に登場する人たちには、誰も「よそ行き」の発言をする人はいません。
被災者から不審な目で見られ、「僕でよければ、云いたいことを言ってください。受け止めるのが僕らの仕事ですから」と告げても何も言ってもらえなかった311の時とは大違いです。

最も印象的なシーンは、田中夫妻の自宅への一時帰宅の時の夫婦喧嘩のシーンですね。何やら旦那さんは、自分だけの大事なものをいくつも運び出そうと勝手に荷台にいろいろ積み込んでいるのですが、「連れて来るんじゃなかった」とあきれる奥さんに積み荷を降ろされてしまい、旦那さんも渋々降ろすという(笑)
どこかの元ジャーナリストに言わせると人の住む場所ではない福島の、最も線量が高いであろう場所で繰り広げられる夫婦喧嘩を見るチャンスは、世界中探してもこの映画にしかないでしょうね。

このシーンに象徴されるような人間くささが、この映画では全編に溢れています。

奪われた土地の記憶、という副題のつくこの作品ですが、故郷を奪われてもなお、ユーモアも人間らしさを失わない人間に強さにこそ焦点をあてた作品になっています。それが出来るのは監督がきちんと被災者と被災地のリアルに徹底的に向き合ったからでしょう。上澄みだけ聞きかじった程度の取材では決して撮ることにできない「リアル」をこの映画は捉えています。

山形ドキュメンタリー映画祭がこの作品を南相馬での上映に選出したのもうなずけます。監督自身は南相馬の方にこの映画を見せることは、他の地域での上映よりも格別の緊張があったようですが、地元の方にも好評でした。

観客からの質問の1つに、ジャーナリストは他人の不幸でメシを食っている。その後ろめたさに対してどう思っているのか、という質問がありました。松林監督は、そうした後ろめたさは常につきまとい、逃れることはできないが、それでも伝えるべきこと伝え続けていくことで、その責任を果たすしかない、ということを仰っていました。誠実な解答です。
そして、その解答以上にこの映画そのものが、この観客からの問いかけに対して、あるいは311という映画の残した重たい宿題に対して答えていると思います。

この映画、5月からオーディトリウム渋谷を始め、全国順次公開予定となっています。
多くの人に観ていただきたい作品です。311関連の映画作品では最も観る価値ある作品です。

なお、現在松林監督は、南相馬の伝統行事、「野馬追」を中心とした、第二部の撮影をしているそうです。

松林要樹監督の著書、「ぼくと「未帰還兵」との2年8ヶ月 「花と兵隊」制作ノート」

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