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外交危機すらショービズマインドで乗り切るアメリカ。映画レビュー「アルゴ」

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アメリカの外交史の中において中東情勢というのは今なお頭を悩ませている種です。理由はいろいろありますが、主にはイスラエルの存在と、石油です。
潤沢な石油の利権と押さえるためにアメリカ政府はイランにパーレビ王朝というアメリカの傀儡政権を作り上げるわけですが、ある時民衆の不満が爆発して暴動に発展。アメリカ大使館が占拠されるという大事件に発展します。

その際、6人の職員が秘密裏に脱出してカナダ大使館に亡命するのですが、この6人が大使館内にいないということがイラン人にバレると殺されるてしまう。かといってカナダ大使館にずっと置いておけるわけでもなく、なんとか国外脱出させねばならない。そこでCIAが考えた作戦は偽物の映画の企画をでっち上げ、そのクルーと称して6人を国外に連れ出すという、嘘のような実話を描いたこの作品は、アメリカという国はいかにショービジネス的な発想で動いている国なのかよくわかります。
この映画「アルゴ」は、ショービズ根性がアメリカの政治・外交といった部分にまで深く食い込んでいるというのを実例として示した大変希有な映画です。
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79年11月に起きたイランのアメリカ大使館人質事件は、解決に1年以上の月日を擁した大事件ですが、この大事件の水面下で起こっていた6名の脱走者の救出作戦を描いたのがこの作品。暴徒と化した民衆に大使館が占拠される直前に6人の大使館職員が脱出。名簿などはシュレッダーなどで破棄したが、もし復元されてしまった場合には、大使館内の人質の数が足りないことがバレてしまう。

6人は一般の大使館職員でアメリカ政府の中枢の秘密を知っている人たちではありませんが、そんなことは占拠した民衆には知るよりもないので、見つかれば殺されるのは確実。館内の人質も殺される可能性が高い。カナダ大使の家に逃げ込んでいたが、いずれ見つかるのは時間の問題。そこでCIAのトニー・メンデスはイランで撮影が必要とする偽物の映画の企画をでっち上げて、6人と映画スタッフのクルーに偽装して国外に逃がす作戦を立てた。

この映画のタイトルになっているアルゴとは、その偽物の映画のタイトル。内容はものすごいB級の匂いのする近未来SF作品で、砂漠やエキゾチックな建物必要とする。そこでロケハンでイラン国内に入るという筋書き。

ハリウッドのプロデューサー、特殊メイクの達人とともに脚本と選び、ストーリーボードを作り、偽物の制作発表まで行い、翌日の新聞に大きく取り上げられ、誰が見てもホントに映画が作られるんだろうという状況を作り上げます。

イラン国内に入ってから6人を映画スタッフとして教育し、脱出するまでの過程は大変スリリングで見応え十分。ややくすんだトーンの映像が79年代のニューシネマを思わせてグッド。

この映画はアメリカでは非常に高い評価を得ています。事実は小説より奇なりを地で行く物語とベン・アフレックの見事な演出が光りますが、この映画はアメリカという国において、ショービジネス・娯楽産業というのは、ただの娯楽産業ではないというのがよくわかります。

イラン革命とこの人質事件は、アメリカ近代史において重大事件の1つ。アメリカの中東政策の大きな転換点になり、反米に回ったイランを牽制するようにイラクでサダム・フセインが台頭。そういう事件の中枢で秘密裏に人質事件の問題解決にハリウッドが尽力していたという事実。
この事実を持ってしても、単なる産業規模以外でも、アメリカにとってのハリウッドのようなショービズ産業の重要さが見て取れます。実際に外交に手を貸し動かしている連中がいるということです。

また映画ではトニー・メンデスはスターウォーズを見て、この無茶なアイデアを思いつくのですが、彼にアイデアを与えたのも娯楽産業であったということになりますね。

このような荒唐無稽な作戦は日本人の僕らには、およそリアリティがありませんが、それでもこんなことを実行しようと考えてしまうマインドを持っているのがアメリカ人であり、それを実行できてしまう場所がハリウッドなんでしょう。世界中を魅了する虚構を生み出すハリウッドは、ハッタリと騙し合いの世界であり、何が事実だかわからない世界。実社会でもフェイクをこしらえることは雑作もないのでしょう。

思えば、親米だったパーレビ政権はアメリカの傀儡政権。いうなればフェイクの政権です。フェイクの政権を破られ、窮地に陥ったアメリカの外交が、フェイクの映画によってその危機を脱する。
アメリカのショービズ産業もそれを支える精神もいろんな意味で侮れない。なにしろ国家の危機を解決する原動力にもなっていまうのだから。

オスカー作品賞にはノミネートされていますが、ベン・アフレックは惜しくも監督賞にはノミネートされず。監督賞と作品賞はセットで評価されることの多いアカデミー賞ですから、受賞は厳しいかもしれませんが、ある意味ハリウッドの「勲章」とも云えるこの事件を描いたこの作品、アカデミー会員達はどのように評価するんでしょうかね。

映画アルゴの予告編はこちら。

アメリカのショー精神の根深さを描いた映画としては、ミュージカルのシカゴと、昨年公開されたハンガーゲームなどがオススメです。この映画を合わせてみるとより面白く見れると思います。
ショービジネス国家アメリカのリアルな姿か人の本質か。映画レビュー「ハンガーゲーム」

公式サイトはこちら。
映画『アルゴ』

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