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テレビコンテンツを提供する適正規模とは

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好きなインディーズバンドがメジャーの階段登るにしたがって、その音楽性を変えていくことはよくあることですね。メジャーになり、提供規模が増えれば、多くの人に好かれそうなものを提供しないといけないわけで。

音楽に限らず、コンテンツはその提供規模によって、質を変えて行かざるを得ないという現実があります。インターネットがコンテンツ流通に主戦場になるこれからの時代、コンテンツの質やタイプと適正な提供規模を考えるのは、クリエイターは常に頭を悩ませる問題になるでしょう。世界中とつながるインターネットがある日突然拡散されまくってしまうこともあるわけですから。

これからちょっと4本か5本くらい、コンテンツと提供規模について考えるエントリーを書いていきたいと思います。一回目はテレビ。

NOTTVの「あんた、誰?」が問いかけるテレビの提供規模の適正サイズ


モバイル端末専門の放送局、NOTTVで現在月曜から金曜にかけて放送中の「AKBのあんた、誰?」という番組があります。

AKB48のあんた、誰?|番組情報|日本初スマホ向け放送局 NOTTV

毎週月曜~金曜の夕方5時から放送している生放送番組「AKB48のあんた、誰?」。AKB48ファンの間では有名でも世間での認知度がイマイチなメンバーにチャンスを与える番組です。

という、コンセプトの番組なのですが、AKBの中でも一般にはあまり知られていないメンバー4人ランダムに選抜され、いろんなことにチャレンジするというものなんですが、テレビにおける提供規模の適正さを考える上で非常にユニークな例です。


まずNOTTVそのものの提供規模が狭い。現在会員数が約50万人だそうです。
NOTTVはドコモの一部のスマートフォンとタブレットにのみ対応していて、その端末を手に入れないと契約できません。その端末を持っていても別途月額基本料を支払うことで視聴可能になりますが、提供地域が地上波やBSなどど違い、全国あまねくではありません。そもそも加入へのハードルが高いので、必然的に提供規模が限定されています。

その中の一番組である「AKB48のあんた、誰?」、略して「あん誰」は目下NOTTVを代表する番組だそうです。この番組の製作体系は実にユニークでして、テレビ番組としてここまでインタラクティブ性を実現している番組はおそらく他にはないだろうというぐらい。

まず番組内容を決める企画会議をGoogle+上でファンとメンバーを巻き込む形でオープンな場で行っています。まず出演メンバーが放送の前日になるまでわからないので少人数で企画立てるよりは、メンバーについて製作者よりも詳しいファンの力を借りてやったほうがいいだろうという判断らしい。

Google+上で、このメンバーでなにやってほしいですか?と問いかけてアイデアを募るらしいんですね。それで実際に番組内容を決めて行くらしい。視聴者というかAKBのファンたちが番組作りそのものの一翼を担っている状態なんですね。
公開企画会議のスレッドはこちら。

番組の収録はアキバのAKBカフェにて毎回行われるのですが、毎回整理券を配布しての抽選によって観覧希望を募っています。しかし、当然全員入れるわけではないし、開場まで来れない人もいるので、Google+上で実況も行います。

この番組は生放送ですが、放送当日の夜中に再放送も実施しています。再放送ではその日出演したメンバーたちによる実況がGoogle+上であったりして、内容は全く同じでも生とは別の視聴体験を作り出しています。
再放送実況のスレッドはこちら。

そして番組終了後には反省会も公開されます。ファンの意見もそこにたくさん書き込まれます。放送へのフィードバックが即なされ翌日の番組作りにまた生かされていく、という形で成長してきた番組です。当初は製作サイドはAKB48に関してほとんど素人だったそうですが、製作サイドがファンに育てられてと言えると思います。

それらのやりとりはプロデューサーさんのG+アカウントで行われるのですが、フォロワーが45000人の大所帯となっています。番組作りの肝になっているのがこのフォロワーの存在なのですね。

以前、アメリカのEscape Routeという、視聴者参加型の番組を紹介したことがありますが、これも参加者がネットを介してコミュニティを作り、彼らを巻き込んでいき、番組から出される課題を解決してくという競争ゲーム型のバ番組でした。「あん誰」も同様にコミュニティをネット上に形成して、それが番組を支えている状況ですが、あん誰は、内容そのものを決める上でコミュニティの力が欠かせないものになっています。

この番組の正否をにぎっているのは健全にコミュニティ作りにあると言えると思います。番組作りはそのコミュニティから出来上がるアウトプットの一形態として存在しているのであって、(利益を生んでいるかどうかは別として)Google+での活動と番組作りも等しくコミュニティ運営に欠かせないものになっています。
あるいは、コミュニティ作りそのものの過程が娯楽コンテンツとして機能しているというべきでしょうか。
アメリカではソーシャルメディアが新しい形としての娯楽である、と認知している人が多いという調査結果もありますが、完成したパッケージとしてコンテンツを提供するだけではコンテンツの提供は十分でないのかもしれません。

少なくとも、そういう層が一定数でてきているというのはあると思います。

さて、画期的なことを行っている「あんた、誰?」ですが、こうした番組作りは、これ以上の規模、たとえば全国放送でも可能なものでしょうか。不特定多数に向けて、製作される番組で、同様の企画作りが果たして果たして成り立つのかどうか。おそらくムリな気がします。NOTTVのあの規模であるからなりたっているとも言えそうな気がしています。
そもそも、参加者が増えすぎれば今のインタラクティブ性は維持できなくなります。規模が大きくなるにつれて、ある程度、普通の番組作りにシフトせざるを得ないのかな、という気もしています。

今現在の「あん誰」のG+でのコミュニティは平和で活発そのもの。派手な炎上は全然ありません。プロデューサーさんたちのハンドリングも上手いのでしょうが、ファンもこの番組を前向きに後押ししているようです(チームADという番組のファンの有志の集まりまであるらしい)

今後、同番組は規模が拡大するにつれて、どういう方向に舵をきっていくのか大変興味深いところです。いろいろな偶然が手伝ってこの番組は今のような形態になっています。番組制作者よりもメンバーに詳しいファンの存在、NOTTVのわかりやすい看板番組を立てないからAKBを起用、しかし、一軍メンバーは使えない、NOTTV加入のハードルの高さゆえに規模が限定される。なのでその規模で考えうる最大限のインタラクティブ性を用いての番組作りが可能。加入ハードルの高さゆえにいきなり視聴者が激増することも考えにくいし。

「あん誰」は、適正な提供規模で、その規模に見合ったコンテンツの提供の仕方をできているのだと思います。では地上波テレビの適正な規模とそれに見合うコンテンツとはどんななのでしょうね。

あらかじめ、地上波テレビは全国あまねくを提供規模としないといけません。しかし、それははたしてこれからの時代、適正なコンテンツ提供の規模なのかどうか、再考の余地があるかもしれません。なぜテレビがつまらないと言われるのか、それは提供する規模の最大公約数の大きさゆえに視聴者の顔を見失っていないかどうか。あるいは最大公約数を意識しすぎて内容を薄めるようなことになっていないかどうか。

「あん誰」は明確にだれに番組を提供しているかわかる。なので声をきちんと聞けるし、ファン側もきちんと製作者が向き合っているのはわかるので、良質なコミュニティが維持できていますが、そもそも地上波の規模でそれができるかどうかわかりません。(キャズムを超えると荒れるネットサービスを見るにつけ、それはムリだろうというと思います)

テレビがもっと柔軟にその提供規模をコントロールできる性質のものなら、より個性的なコンテンツも生まれやすいかも、と思うときがあります。多分公共空間のあり方も変わってきている。多様な価値観が乱立している時代ですから、全国同じものを平等に提供されるのが公共的なあり方という考えでは難しい部分があるかもしれない。

コンテンツメーカーにとって適性規模の問題は非常に重要。「あん誰」は規模の限界を逆手にとって斬新な作り方をできた。そういう規模に応じて適切なコンテンツのあり方があるのだと思います。
逆に作りたいコンテンツのイメージがあったら、どういう規模が最適かを考え、予算を組んで出口戦略を立てていく、という当たり前のことをもっと突き詰めて考えていかないといけないですね。

今後はそういう限定の濃いコンテンツを好む傾向が顕著になる可能性があり、全国一斉に同じものを提供することが、(災害時や報道などは別として)適切なコンテンツの提供規模でないということもあるかもしれません。

ただし、放送波を出し続ける設備を維持するだけでも莫大なコストであるので、大きな提供規模の制約からテレビは逃れることはできないのかもしれません。NOTTVとて加入者50万人では赤字でしょうから。
放送の適正な提供サイズははたしてどこにあるのか、というところから再考してみると、テレビの抱える問題の何か浮かび上がってきそうなきがしています。

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