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映画レビュー「ジャンゴ 繋がれざる者」- 映画の罪のみそぎ。

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大変素晴らしい作品だった。個人的にはタランティーノの最高傑作だと思う。アメリカ史にとって、そしてアメリカの映画史にとっても重いテーマを扱っているが、徹頭徹尾娯楽に徹している。だからといっておもちゃにしてふざけているわけではない。この作品は西部劇の痛快さを少しも損なうことなく、西部劇があまり触れてこなかった暗部をさらけ出している。
ジャンゴ 繋がれざる者(監督:クエンティン・タランティーノ 主演:ジェイミー・フォックス、 クリストフ・ワルツ) [DVD]

この映画は2つのジャンルの合体作と見て取れる。西部劇とブラックスプロイテーションだ。
西部劇とはアメリカの西部開拓時代を舞台にしたカウボーイたちの活躍を描く作品。アメリカのフロンティア精神の象徴として根強い人気を誇るこのジャンルは、そのほとんどの作品は白人のカウボーイのヒロイックな活躍を描くものだ。いろんな亜流はあるが、西部劇の王道はやはりそんな感じだろう。

ブラックスプロイテーションは、主に70年代に生まれた黒人向けに制作されたB級映画のことで、白人の牛耳るハリウッドが黒人の観客を食い物にするという皮肉も込めてそう呼ばれるのだが、その内容は黒人受けするように黒人主人公は白人の悪役を痛快にやっつけるという類の作品が多かった。タランティーノの「ジャッキー・ブラウン」の主役を務めたパム・グリアーは、ブラックスプロイテーションの代表的なスターだ。

このジャンルが生まれた背景には、公民権運動後に平等な権利を獲得した黒人たちだが、急に社会全体の黒人に対する扱いが変わることもなく、そうした溜まった鬱屈もあった。実生活では不遇な扱うを白人から受けていた黒人たちがスクリーンで痛快に白人をやっつける同士たちにカタルシスを見いだしていたわけだ。
ブラックスプロイテーションというジャンルは、そうしたアメリカ社会の歪みから発生したとも言える。

かたや白人のため(西部劇)、かたや黒人のため(ブラックスプロイテーション)を融合させたのが本作。それ故異色の作品なのだが、これが異色になってしまっている事自体にアメリカ映画史の矛盾がある。
実際の西部開拓時代には黒人のカウボーイがかなりの数が存在したと言われている。実際には当時のカウボーイ4人に1人が黒人だったという説もあるらしい。彼らの多くは元奴隷であり、より自由な生活を求めてカウボーイや賞金稼ぎになったりしていたようだ。

その歴史的事実からすると実はこの映画は異色ではないどころか、正統派作品とも言ってもいい。これが異色作になってしまうのは、ハリウッドが歴史を歪めたからに他ならない。タランティーノはそのハリウッドが作ったニセの歴史に対して異議申し立てをしているのだ。

映画の時代設定は南北戦争の起こる2年前。まだ奴隷解放が現実的ではない時代に設定されている。奴隷制の腐敗も極まれりという時代にあえて設定し、ジェイミー・フォックス演じる元奴隷に暴れまわらせるという設定が心憎い。
当時の白人の見にくい滑稽な様をこれでもかと見せつけるのだが、出色なのはドン・ジョンソンが演じるビッグダディだろう。ドクター・シュルツにジャンゴを奴隷として扱わないように釘を刺された彼は、自分の奴隷に他の黒人とは違い丁重に扱うように指示する。白人と同じように扱え、ということですかと奴隷に質問されると、いや、そうではない、と返答に逡巡した結果、貧乏な白人青年に接するように扱えと謎の妥協案を示す。
さらに傑作なのが彼が所属するKKKもどき(この時代には実際にはKKKはいない)の描かれ方。お馴染みの不気味なマスクを被るのだが、作りが雑で上手く前が見えない。自分たちの愚かさも直視できないほどに盲目な馬鹿として描かれており、ドクター・シュルツの一計で爆破される。

このシーンは「映画の父」D・W・グリフィスの代表作「國民の創生」の1シーンに酷似している。というかそのままパロディにしている。この映画はグリフィスは、今に続く映像演出の基礎を確立した作品として映画史上でも最重要作品の1つであり、同時にあからさまな人種差別を賞賛している作品として物議をかもした作品だ。KKKをヒーローとして描いており、その完成度の高さゆえに強烈なプロパガンダとして機能し、消滅していたKKKが現代アメリカに復活するきっかけを作ったしまったいわく付きの作品。國民の創生に関しては町山智浩さんの連載が詳しく語っているのでそちらを参照してほしい。
<第13回>『國民の創生(The Birth of A Nation)』 « なぜ『フォレスト・ガンプ』は怖いのか ― 映画に隠されたアメリカの真実 ―

とにかくタランティーノはこの國民の創生という傑作映画が罪深いとして爆破したのだ。活動写真というキワモノの見せ物を映画という芸術に昇華された作品を爆破するとはなんて痛快なんだ!

その後の物語の中心はジャンゴの妻を奴隷商人ムッシュ・キャンディ(レオナルド・ディカプリオ)から取り戻すための主人公2人の活躍に移っていく。この奴隷商人は、自分の父の代から仕えるスティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)という奴隷頭がいる。このキャラクターの存在が物語に深みを与えている。この奴隷、表向きはキャンディの奴隷として振る舞うが裏では対等、むしろキャンディを操っているようにすら見える。ジャングとシュルツの目的が奴隷の売買ではなく、ジャンゴの妻、ブルームヒルダの奪還だと見抜く。この狡猾で利己的な男が黒人の中にもいて、それが他の者を苦しめる構図もある。単純な白人VS黒人の図式ではないところも見逃せないポイントになっている。

このように複雑な背景を持つ作品ではあるが、タランティーノがスゴいのは徹頭徹尾をこれを娯楽作品として完成させている点。かつての血湧き肉踊る西部劇と同じカタルシスが得られるところ。歴史を歪曲しなくても痛快な作品は作れることをタランティーノは証明してみせた。映画の父が作った傑作は社会に大きな混乱をもたらした作品だった。その後もハリウッドは奴隷制をきちんと描いてこなかったし、西部劇は白人のものであり続けた。陣遊佐別というアメリカ社会の歪みに乗じてブラックスプロイテーションと作ったハリウッドは、アメリカ史の罪とアメリカ映画の罪に対して真摯に向き合ってこなかった。

そうした歪んだ映画ジャンルと社会に育てられたタランティーノ(彼の育ったカリフォルニアのサウスベイ地区は黒人が多く住んでいた)がむしろその罪のみそぎのような作品を作ったことは非常に感慨深い。その深い映画への愛に敬服せざるを得ない。映画が大好きだからこそ、映画の罪に目をつぶらない。素晴らしい姿勢だ。

そして、ホントーに痛快な娯楽映画だ!色々難しいことも書いたが、気にせず楽しみまくれ!

公式サイト。
ジャンゴ 繋がれざる者 – オフィシャルサイト

ジャンゴ 繋がれざる者~オリジナル・サウンドトラック
サントラ リック・ロス サミュエル・L.ジャクソン エリーザ・トッフォリ ジェームス・ブラウン ジョン・レジェンド ブラザー・デジ ジェームズ・ルッソ アンニーバレ・エ・イ・カントーリ・モデルニ ルイス・バカロフ
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