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ヒドい映画も見捨てない映画館。映画レビュー「インターミッション」

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銀座シネパトスが閉館した。
銀座シネパトスとはどんな映画館だったか。熱心な映画ファンならお馴染みのこの銀座のど真ん中、4丁目の交差点のすぐ側の地下にある、昭和から時が止まったかのような空間にある3スクリーンの映画館。
東京中の映画館に足を運び、アメリカのLos Angelesにも住んでいろんな映画館を見てきたが、シネパトスほどヒドい立地の映画館はなかった。日比谷線に電車が通過するたびに揺れる映画館。映画のクライマックスでゴウンゴウンうるさい映画館てなんなんだと、という話だ。銀座の一等地なのに全然一等地らしくないこの映画館はしかし不思議な魅力に包まれていて、あの地下の入り口に引き寄せられるのだ。

何と言っても上映ラインナップが魅力的だった。映画なら何でもありという感じのラインナップ。溝口健二やフェリーニを特集したかと思えば、怪獣映画もやるし、スティーブン・セガールの全然沈黙してない沈黙シリーズを黙々と上映し続けていたりする。
シネパトスはどんな映画に対しても驚くほどに平等に接していた。気取って拡張高い芸術作品や斬新な作品ばかりを褒め称えたりしなかった。かといって逆方向に気取ってB級映画やカルト映画ばかり持ち上げたりもしなかった。

名作もくだらない作品も、ここにはあった。どんな映画にも価値があると本気で信じているかのようなラインナップだった。どんな映画もリスペクトしていた。
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インターミッションは大した映画ではない。でもそれがどうした。映画は映画だ。
どんな映画にも愛すべき理由はある。どれだけヒドい映画でもどこかで誰かが愛でている。

それがシネパトスの体現し続けたことだった。ならば完成度の高い芸術作品を作ってはむしろいけなかった。シネパトスはヒドい映画にすら暖かいのだ。
安いVFX、強引な展開、謎のエピソード、ちょっと無理矢理詰め込んだ社会派メッセージ。。。どれもが不格好で洗練されていない。

シネパトス閉館の理由は耐震性の観点から行政に立ち退きを命じられたからであるが、311のせいにするのも本来野暮な話だと思う。あれだけ古ければガタも来るし、ネズミも出るし、震災がなくても時間の問題だったのかもしれない。
おそらく作り手たちもその野暮さは十分にわかっている。わかっているけど、文句のひとつも言いたくなる。なぜならそのせいでシネパトスという、経営難に陥っているわけでもない貴重な映画館が失われることになったから。そんなことで怒るのはおこがましいのかもしれないと思いつつ我慢できない気持ちがあったんだろう。

インターミッションとは映画の幕間の休憩時間のこと。この映画は映画館の休憩時間に繰り広げられる妙な観客たちによる妙なエピソードで構成されている。映画は現実と同じくシネパトスが間もなく閉館になるという設定。閉館理由も同じで現実の今をそのまま舞台にしている。今を舞台にした作品をその舞台となった場所で見るのはとても不思議な感覚だ。映画の中でも日比谷線が通った時に館内が揺れるのだが、実際にこの映画を見ている最中にも日比谷線が通って揺れる。映画の中と全く同じ体験!よくよく考えてみれば究極の体感型の鑑賞体験。こういう体験は滅多にできない。そうか、この映画館にとっては不格好な揺れも魅力の一部だったんだと改めて気づかされる。その「揺れも」魅力な映画館が、2年前の大きすぎる「揺れ」をきっかけに閉館となった。皮肉な運命という他無い。でもここで上映してきた数々の映画で描かれた物語同様、人生ってそういうもんなんだろうなあ。

この映画は映画史の残るような芸術的な傑作でもなんでもない。でもシネパトスを知っている人たちにとってはそこで上映された数々の傑作と駄作とともに生涯忘れることのない「名作」だ。

全く幸せな映画館だな。リア充だ、リア充。そりゃ最後爆発もするわ。

右は鈴木支配人。鈴木さんお疲れさまでした。こんなにも愛される映画館は他にはありませんよ。
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こちらの写真の左は樋口尚文監督。樋口監督初めスタッフ・キャストの皆さんお疲れまさでした。次回作はあるのでしょうか。楽しみにしておきます。
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最後の日に寒い一日中Ustream配信していた配信スタッフの皆さんもお疲れさまでした。
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