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サッチャリズムとイギリス映画

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「鉄の女」こと英国元首相のマーガレット・サッチャー氏がお亡くなりになりました。
Margaret Thatcher in Her Own Words (CD Box Set)

福祉政策や強すぎる労働組合などにより、逼迫していたイギリス財政を立て直し、労働組合が強かった労働市場を大胆に作り変え、競争の概念を強く打ちだし、新自由主義的な経済政策を断行し、金融立国としての活路を開いた指導者サッチャー。彼女がいなければ今日のイギリスはもっと堕落した国になっていたでしょう。
巨星マーガレット・サッチャー逝く まず個人の自立を促し、英国民の他力本願を矯正したリーダー(広瀬隆雄) – BLOGOS(ブロゴス)

彼女が登場する以前の英国は組合に守られた労働者が昼間から紅茶を飲みながらお喋りして一日が終わる…そんな就業態度が当り前の、弛緩し、プライドのかけらも残っていない国に成り下がっていました。いわゆる、英国病です。

彼女はイギリス経済を立て直した功労者でありますが、同時にイギリス社会に非情な格差をもたらすこととなりました。イギリス国内におけるサッチャーの評価と複雑で
サッチャー元首相亡くなる ―今も英国に影落とす「遺産」とは(小林 恭子) – 個人 – Yahoo!ニュース

サッチャーは国営企業の大規模な民営化を続々と実行し、労働法の改正によっ て労働組合を改革した。 公営住宅の払い下げによる住宅取得を奨励して中流階級の拡大を目指す一方で、採算の取れないビジネスとなっていた炭鉱を閉鎖し、大量の失業者を生み出した。 イングランド地方北部、スコットランド、ウェールズ地方は、炭鉱閉鎖や製造業の衰退でもっとも大きな影響を受けた地域である。住民は、サッチャー政権が貧富の差を拡大させたことを忘れていない。

僕は経済、政治に関しては専門家ではありませんので、詳しい話は他の方にお譲りしますが、サッチャーの引き起こしたイギリス社会の変革はその後のイギリス映画に大きな影響を与えました。80年代以降のイギリス映画は、格差の拡大、階級の固定化などはイギリス映画の大きなテーマとなっています。

イギリス映画の大巨匠であるケン・ローチは、反サッチャリズムの代表格であり、彼は作品の中で、サッチャリズム以降のイギリスの地方で貧困にあえぐ人々の悲喜こもごもを徹底して描くことで知られています。もちろんローチの作品はそうした政治的イデオロギーに回収しきれない人間性にこそ魅力があるのですが。

コストカットのために劣悪かつ危険なビルの工事現場で働く男たちを描く「リフ・ラフ」という作品では、安全装置の故障で命を落とす男が描かれ、「ナビゲーター ある鉄道員の物語」ではかつて鉄道組合に属していた仲間の死を、クビを恐れて隠してしまう労働者の姿を描いています。

ケン・ローチ作品はその過酷な現実のリアリティと共に、溢れだすユーモアが売りなのですが、やはりサッチャリズムがイギリス社会にもたらした負の側面を抜きには語れないのだと思います。

ローチのような巨匠だけでなく、90年代に一世風靡した「 トレインスポッティング(監督のダニー・ボイルは労働者階級出身)」すらサッチャリズムとは無縁ではありません。トレインスポッティングの舞台はスコットランドですが、サッチャー政権以降、採算性の悪い炭鉱業などの閉鎖でイギリスの中でも特に大きな影響を受けた地域。メインキャラクターの悪ガキどもは、職もなく未来への希望を持つこともできず、酒とドラッグに溺れる毎日を送る。そんな先の見えない地元に見切りをつけてユアン・マクレガー演じる主人公のレントンは仲間を裏切り、一人金を持ってロンドンで行く・・・

このレントンは仲間を裏切るクソ野郎と見ることは簡単ですが、サッチャリズムが個人の独立性を促したのだとすれば、レントンの選択は極めて今日のイギリス的とも言えます。レントンの決断は、古いイギリスを捨てて、新しいイギリスを選択する象徴とも解釈できるのではないでしょうか。

イギリス映画は、巨匠の人間ドラマから、若者向けのハイブロー作品までサッチャー以後のイギリス社会の変化の影響化にあるように思います。少年がバレエダンサーを目指す「リトル・ダンサー」なども、労働組合と会社の対立を背景にしていて、主人公の父親は労働組合に所属していてストライキの真っ最中。しかし、息子の夢をかなえるために組合を裏切り、仕事にありつく選択をする。この映画はトレスポとはだいぶスタイルも印象も違う映画ですが、根底にある価値観は似た部分があると思います。あのまま父親が組合に義理立てしていたら、少年の夢は叶わなかった。

大ヒットコメディ「フル・モンティ」も失業した男たちが生活のためにストリップをやるという話でした。大爆笑できる映画なのですが、その背景は悲惨ですね。

サッチャーはイギリス経済を救い、沈みそうだったイギリス社会を立て直したことは間違いないのでしょう。しかし、国家という大箱は救ったけども、中身には混乱が多く残った。

日本にもこれからそういう時代がやってくるのでしょう。(もうやってきているか)
その時、日本映画はそうした現実をきちんと描けるのかなあ。その前にサッチャーのようないるのかどうか。

ケン・ローチのサッチャーへの言葉。この人は良くも悪くもぶれないな。

Margaret Thatcher was the most divisive and destructive Prime Minister of modern times.

Mass Unemployment, factory closures, communities destroyed – this is her legacy. She was a fighter and her enemy was the British working class. Her victories were aided by the politically corrupt leaders of the Labour Party and of many Trades Unions. It is because of policies begun by her that we are in this mess today.

Other prime ministers have followed her path, notably Tony Blair. She was the organ grinder, he was the monkey.

Remember she called Mandela a terrorist and took tea with the torturer and murderer Pinochet.

How should we honour her? Let’s privatise her funeral. Put it out to competitive tender and accept the cheapest bid. It’s what she would have wanted.

via Margaret Thatcher dies: news and reaction | Politics | guardian.co.uk

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