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楽園からの旅人。善行は信仰に勝る【映画レビュー】

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イタリアの巨匠、エルマンノ・オルミ監督の最新作「楽園からの旅人」は、美しく厳粛なムード漂う素晴らしい作品でした。

映画『楽園からの旅人』公式サイト
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あらすじはこちら参照していただきたいが、これは教会の取り壊しが決まり、薄れゆく信仰心嘆く老司祭が、その破壊の後に真の教会のあり方を見つける、というお話です。

真摯に司祭としてに仕事取り組んできて、晩年にその職を奪われる老人。今まで情熱持って取り組んできた仕事をふと振り返れば、実は空しいことだったのではないかと思う。取り壊しの夜に不法移民たちが助けを求めるやってきて、司祭は教会の本来の役割「人を救う」ことができるようになる。

全編セットで教会内部で行われる室内劇はどこか幻想的で、重厚な演劇を見ているような気分になる。

冒頭、いきなり教会取り壊されるシーンから始まる、四本足の無骨なクレーンが高く掲げられたキリスト蔵を下ろしていく。ロープを巻かれ、クルクル回るキリスト像は、もはやただの「物体」で信仰心の象徴としての威厳はまるでない。
その光景を目の当たりした老司祭は、もはや神が必要とされなくなってしまったこと絶望する。しかし、自分がやってきたこと何だったのか自問する。結果的にはがらんどうとなった教会堂のように何も残らなかった。

その夜、何者かが教会に侵入してくる。彼らは不法移民で、行き場なくこの教会に身を寄せようとしてきた。
何もなくなった教会にテキパキとダンボールで家を組み立ててゆく彼らを、老司祭はかくまうことにする。保安部隊が不法移民の捜索にやってきても追い返す。
こうしてこの司祭と教会は、その任を解かれ、機能を失ってから本当に迷える人々の「救い」となる。

教会、という場所や肩書きが重要だったのか。それは違う。司祭になったのは善行を行うためだったと司祭は言う。しかし、最後に彼は善行を行うのに信仰は必要ない、と悟る。

この教会には、ステンドグラスの天窓がある。そこには小さな穴が空いており、雨の降る夜、雨水が滴り落ちる。不法移民のなかに妊娠している女性がいるのだが、その雨水が出産時の産湯となる。もし天窓が綺麗に修繕されていたら、赤ん坊はどうなっていただろうか。取り壊されるはずの教会がここでは命を育む。

壊される教会が人々救う、という逆説が深い感動を生む。エルマンノ・オルミは信仰の形に捉われず、その善行の本質だけ見つめてみせる。そこにはキリスト教やイスラム教の宗派の対立を超えた何かがあると監督は言いたかったのだろう。

大変美しく、素晴らしい映画でした。

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