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JASRACの公取審決取り消し問題、包括契約の利便性に変わるものはあるのか

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photo credit: opensourceway via photopin cc
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JASRAC周辺はまた慌ただしくなっているようです。11/1東京高裁で他の業者の新規参入を阻む効果となっているとして、一度は無罪判決を下した審決を再び「取り消す」審決をくだしました。
JASRACは「ライバル企業を排除」 楽曲使用料の「包括徴収」めぐり東京高裁が認定

一度公正取引委員会がJASRACに排除措置命令を出し、この命令を取り消す判決を一度は出ましたが、(2012年6月)、今回再びその判決を取り消すというややこしい流れになっております。

JASRACとテレビ局などの放送事業者は著作権の包括契約を結んでいます。この契約のおかげでテレビ局は個別に楽曲の使用許諾を得る必要なく、自由に楽曲を使用することができます。著作権料は年間の売り上げの数%を一括で支払います。楽曲を利用する側に取っては非常に便利なシステムです。通常は一局ごとに使用の許諾を個別に取らなきゃいけないところをそうした過程を省略できますし、制作費の計算もしやすいですね。

しかし、この包括契約のせいで、放送事業における楽曲使用イーライセンスなどの他の著作権管理業者のシェアは1%に満たないとも云われ、ほぼJASRACの独占状態になっちゃっているんですね。包括契約は便利ですから。

しかし、当然ながら99%のシェアをJASRAC一社で持ってしまっている状況は健全とは言えないかもしれません。実際JASRACの管理を外れた楽曲が突然テレビから姿を消してしまうという状況があったりします。キャンディーズの春一番などは毎年春にはテレビで流される定番曲でしたが、作曲家の穂口さん自身が著作権を管理することになって以来、テレビではほとんど使用されていないんじゃないでしょうか。カラオケでも配信されなくなっていますし
この一曲の使用のために別に許諾をわざわざ取って、予算も切ったりするくらいなら、包括契約で使い放題のJASRACのカタログから選んだ方が早いし、余計なお金も使わなくて済んでしまいますので、こういうことが起きてしまいますね。

JASRACの包括契約には確かに弊害もありそうです。でも上述のように便利なんですね。今回物言いをつけたのはイーライセンス社ですが、同社の弁護士は(包括契約は)料理で言えば『食べ放題のビュッフェだけ』みたいなもの。アラカルトが楽しめないのはおかしい」と批判をしているそうですが、食べ放題のビュッフェもJASRACほどの選択肢があれば明らかにそっちのが選択の自由があるだろうという気がします。

包括契約の話で言いますと、JASRACの包括契約は放送事業者だけではなく、YouTubeやニコニコ動画などのネット動画サイトも結んでいます。「歌ってみた」や「弾いてみた」やボカロの既存曲のカバーなどが合法的に許されているのは各事業者が包括契約を結んでいるおかけでもあります。これをアラカルトにしてしまったら大変でしょう。(今回争われているのはあくまで放送事業者との包括契約です。念のため)

今回の判決で考えないといけない点は包括契約が独占にあたるとして、それに変わる使用側の利便性を損なわない形での著作権管理と使用許諾のスキームが作れるのか、という点になるかと思います。

この点で音楽プロデューサーの山口哲一さんのブログが参考になります。
いまだタイトル決めれず: JASRACの審決取消で、新聞が書かなかったこと。 〜キーワードは、デジタル技術活用とガラス張りの徴収分配

■キーワードは「デジタル技術を活用した、ガラス張りの徴収分配」

 実は、本件の問題点、放送局の著作権使用料の包括契約については、解決の道筋は見えている。キーワードは「デジタル技術を活用したガラス張りの徴収分配」。2009年設立のCDC(著作権情報集中処理機構)を中心に、NTTのオーディオフィンガープリント技術を活用して、放送で使われた楽曲をサーバーに貯めて、クローリングを行って、全曲を割り出してのデータ制作が始まっている。CDCを中心に、NTTDATAなどが協力をして、全曲データを作成、分配データには使用されている。近年は精度もあがり、データ量も増え、かなりの確率で、楽曲が特定できる。放送局からの使用報告が簡単になり、正確な使用データができるのだから、一石二鳥だ。

包括契約はどの楽曲が何回使用されたかの正確は計算はせずに年間のテレビ局の総売上の数%JASRACに支払う、というやり方。これに対してデジタル時代のデータベース技術とクローリング技術を用いて、正確にどの楽曲が何度使用されたかを割り出してより正確な透明性のある計算方式に移行すべきという提案です。

こうした新しい著作権管理のスキームが今回の東京高裁の判決から生まれるのかどうか、今後の注目点です。
むげに包括契約を悪者にしてもしょうがないので、こうした現実的な提案が各事業者から出てくる事が望ましいですね。その新方式の提案もないまま、包括契約だけ放棄せよというのは乱暴ですな。

包括契約と利便性の話ではこちらの記事も参照してください。
孤独のグルメの音楽著作権とJASRACフリーと包括契約の話。ユーザーが利用しやすい音楽の在り方とは

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