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「ドラッグ・ウォー 毒戦」レビュー、中国暗部を見事に描いた娯楽アクション大作

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まずはこの香港版の予告編を見てください。カッコ良すぎてしびれます。

しかし、日本版の予告編の方が、内容の把握はしやすいです。

香港ノワールの巨匠、ジョニー・トーが初めて香港ではなく中国本土で撮影した今作。表現規制の厳しい中国ですが、実際いくらかの手直しを迫られたようでもありますが、それでもなお中国の暗部を見事に描いてみせています。

爆発した工場から逃げた麻薬組織の幹部テンミンが病院に運びこまれ、麻薬密売人であることがわかり拘留される。麻薬組織撲滅に並々ならぬ執念をもやす公安警察のジャン警部は、彼に中国では麻薬の製造は死刑だと告げる。アヘン戦争などもあり、アヘンによって国が滅んだ歴史を持つ中国では覚せい剤に対する罪が重い。香港出身であるジョニー・トーが本土で制作する映画の1本目にドラッグを題材にしたことは非常に興味深い。アヘン戦争によってイギリスに割譲された香港と本土の関係はここを無視しては語れない。

テンミンは、死刑への恐怖からジャン警部に協力を申し出る。密売の大物への潜入捜査に協力する代わりに減刑してほしいと申し出る。こうして切れ者の警部と麻薬密造の幹部との、大陸を牛耳る麻薬組織への潜入捜査が始まり、血で血を洗う抗争が始まる。

麻薬は中国では死刑になるほど罪が重いですが、それでもその密売に手を染める人がいます。テンミンの密造工場で働いているのはろうあ者の兄弟。社会保障もきちんと整備されておらず、他に働き口も無い中で、テンミンに拾われ麻薬密造に従事するようになった人々です。急激な経済成長の中で役割を見いだせない彼らのような存在は、他に選択肢もなかったのでしょう。
しかし、ジョニー・トーはこのろうあの兄弟に物語の中で意外な役割を与えました。公安警察の特殊部隊がこの工場を急襲しますが、なんと重装備に身を包んだ2人に返り討ちにされます。そして工場をたれ込んだ裏切り者(テンミン)を殺すために公安警察潜入捜査班VS麻薬組織の戦いに身を投じ壮絶な銃撃戦を展開します。一般的には社会的弱者とされ、搾取される対象として描かれがちな存在に大胆なアクションの見せ場を用意するあたり一味違います。弱者を弱者として描いて社会批判するのではなく、弱者自身に武器を取らせて闘わせる。国家権力も裏組織の後ろ盾もないこの2人が、バッタバッタとなぎ倒していく様は壮快の一言です。

死刑をなんとか免れようと必死の画策をするテンミンは、作品を通してただ生き残るためだけに執念を燃やします。なぜそこまでして生き延びたいのか明示されません。ただ生存本能に従っただけなのか。。。生きるためなら人はどこまでも汚くなれる。そのことを示して人間の強さや渋とさを描いてみせます。

エンディングも本当に「容赦」ないの一言。恐るべしジョニー・トー。

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