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ろくでなし子さんの逮捕について

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ろくでなし子さんの逮捕、という報道が先日ありました。
3Dプリンタで性器の造形を出力できるデータ配布 漫画家「ろくでなし子」逮捕 – ITmedia ニュース

容疑は「わいせつ電磁的記録頒布の疑い」。ご自身の性器をかたどった3Dプリンタ用のデータを配布したことでの逮捕とのこと。

ろくでなし子さんは、「女性器=猥雑」というレッテルを覆すための創作活動を標榜していたので、今回の逮捕は大変悔しい思いをしているだろうと思います。
女性アーティスト・ろくでなし子が語っていた本音 「女性器は現実。汚いものとして嫌ってる風潮が疑問だった」|ウートピ

今回の事件を考える上ではいくつかのレイヤーに分けて考えてみます

わいせつの基準についての議論は時代にあうように進めるべき

まずは表現規制の問題。
日本の性表現規制は、ご存知の通り、性器を直接に描写することを禁じています。アダルトビデオのモザイク文化はこの規制が発祥ですが、刑法175条には「徒に性欲を興奮又は刺激せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し善良な性的道義観念に反する」ものをわいせつを定義しています。日本ではなぜか社会通念上、性器を直接的に写真などで描写することがこれに該当するという解釈になっているので、局部にモザイクをかける必要があります。法律の条文に局部がダメとかかれているわけではなく、わいせつの解釈の問題ですね。
集団的自衛権と憲法の関係ではありませんが、法の解釈は時代とともに変化していくものです。事実、91年以前は、陰毛、いわゆるアンダーヘアの露出もわいせつにあたると判断されていましたが、解禁されヘアヌードなる単語も登場しました。しかし、わいせつに関する議論はこれ以降停滞したままです。もう23年も前のことです。この間、表現を巡る環境、性に関する考え方も大きく変わっていると思いますが(具体的には無修正の動画も写真も大量にネットにある時代に)、法的なわいせつにかんする議論が先に進んでいません。
少し前には写真家のレスリー・キーさんの逮捕もありましたが、いい加減ここは解釈の変更が必要ではないでしょうか。

現物はよくて3Dデータがなぜダメなのか

第2に3Dデータという特殊性。ろくでなし子さんは自身の性器をかたどったアート作品をすでに多数公表しており、その際には特に逮捕もされていません。彼女の完成した作品はわいせつにあたらないが、その前段階の3Dデータはわいせつにあたるという判断になりました。これはなぜなのか。今回の逮捕はあくまで「電磁的記録」をわいせつだとしたもの。
キャンプファイアの支援を募るページには、3Dスキャンの説明動画も貼られていますが、この技術を使ったのだとすると、性器の石膏をつくり、それを3Dスキャンしたということになります。
わたしの「まん中」を3Dスキャンして、世界初の夢のマンボートを作る計画に支援を!Cocl

ろくでなし子さんは、普段の創作活動から石膏でかたどったものを基に作品を展示しています。3Dデータか実物か、違いはその程度にしかないのでは?
ちなみに女性器の石膏をかたどったものを販売して逮捕されたという事例は以前にも存在します。日本の場合、物体であっても精巧ならわいせつ性を認め得るということですね。
ニュース7 女性器をかたどった石膏を販売。わいせつ物頒布容疑で男を書類送検(警視庁) – 荻上チキ・Session-22

そもそも猥雑なものは規制されるべきか

芸術かポルノか、という問いはしばしばこの手の事件が発生したときに出てくる対立点ですが、そもそもポルノであれば規制されるべきなのか、という議論もあります。
僕は基本的に成人であれば、愚行権も含めて他者の自由を侵害しない限り、自由な選択が尊重されるべき、という考えの人間ですが、この立場から言えば芸術ならば救われるべきで、猥雑なポルノは規制されるべきという考えには支持できません。しかし権利には見たいものを見る権利と見たくないものを見ないですむ権利、両方とも尊重されるべきですので、それの実現にはゾーニングとレイティングの徹底しかないです。
今回のろくでなし子さんの場合、ネットでお金を出した人にのみ、提供する形でしたが、キャンプファイアという、年齢認証などもない一般に誰でも利用可能な場所で展開していたので、ゾーニングという観点からすると微妙なラインかもしれませんが。

わいせつ物頒布等の罪は、基本的に具体的な被害者のない犯罪であり(頒布そのものでは被害者はいない。当然盗撮とかなら、その行為に対して被害者はいる)、社会の秩序に対する罪という考え方ですが、彼女の活動が本当に社会の秩序のとってよくないかどうかは、しっかりと考えた方がいいでしょう。
むしろ無理にでも性器を隠すことにどういう意味があるのか、時代に合わせて議論しないといけないと思います。

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