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ヒロは決して闇落ちしない。『ベイマックス』レビュー。

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ベイマックスを見た。公開前から宣伝の方向性について疑義を呈され、興行成績はどうなるのかなと思って見ていたら大ヒットのようで。宣伝が日本人の琴線に触れたのか、口コミで本来の魅力が伝わったのかわからないが、客層は小学生くらいの子たちから中高生、若いカップル、大人もいて幅広い層を取り込めているな、という印象。結果だけ見れば完全に成功といえる。

正直な感想を言うと、大変面白かった。そしてディズニー映画を見ていつも感じることでもあるが、物足りなかった。物足りない部分と面白かった部分は一部重なる。そのポイントは、世界のアニメーションの頂点であるディズニー/ピクサーの個性であって制約でもある。

The Art of ベイマックス(ジ・アート・オブ ベイマックス)

宣伝では隠されているこの作品の魅力は、ヒーロー戦隊、ロボット、エキゾチック(だけど今回は欧米作品によく見られる不自然さを感じなかった)な背景など、日本のサブカルギミックをふんだんに用いている点。製作総指揮のジョン・ラセターを始め今のディズニーのスタッフの日本カルチャーへのリスペクトが感じられる。
しかし、それでいて日本のアニメでは全くなく、完全にディズニーの作品として仕上がっている。兄の忘れ形見であるベイマックスと仲間たちと共に敵に立ち向かい、これを倒す。その過程の少年の成長を描き、最後は敵の悲しみすら癒す形でハッピーエンド。兄を殺された悲しみや憎しみは抑制ぎみに描かれる。ヒロにとってベイマックスと共に戦うのは、癒しの過程でもある。ケアロボットだからね、ベイマックスは。

ネタバレになってしまうが、この物語の骨格は兄を殺された少年がその敵役を打倒するという形になっている。しかもその敵役も娘を理不尽に奪われた悲しみを背負っている。ここだけ抜き出すとかなり血なまぐさく感じるが、本編からはそうしたどす黒い感情はほとんど感じられない。あんな形で兄を失ってもヒロは闇落ちしない。ここがディズニー作品の魅力であり、僕が面白いと同時に物足りないと感じる部分でもある。

金儲けのための実験で娘を失った男の復讐のとばっちりで死んだ兄を持つ少年、という設定はナルトのサスケ並に悲惨な境遇だし、日本の作品ならこの展開は闇落ち待ったなしじゃなかろうか。ベイマックスにはヒロの復讐との葛藤の描写はほんの数分しかない。日本のアニメならこれが物語の柱になってもおかしくない。(そういう描写に踏み込めるのが日本のアニメやマンガの大きな魅力だと思う)

しかし、ディズニー作品にそんな物語はほとんどの人は求めないし、ディズニーブランドにはやはりそぐわない。全世界の子どもから大人までターゲットにせなばならない彼らにはそういうテーマを扱うこと自体難しいだろう。それがディズニーの制約であり、多くの人を惹き付ける魅力にもなっている。

実際僕も、ディズニー映画にそんな暗い話を求めていない。そういうニーズは日本のアニメやマンガで十分に満たせるしね。

(でもそんなディズニーも2014年はマレフィセントという悪役の悲しみを描く物語を作ってきた。ただし実写だが)

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