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『バケモノの子』王道展開のハシゴを外したのはなぜか

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バケモノの子 オフィシャルガイド

勉強しろ、という楔のメッセージを打ち込んだのはなぜなんだろう

今作で細田守監督は、宮﨑駿引退後のヒットメイカーの座に就いたと言っていいだろう。勢い良くヒットしている。すでに興行収入は27億円を突破して最終興行収入は70億と予測されている。魔女の宅急便や紅の豚の成績を超えそうだ。宮崎監督引退後(本当に引退するのかわからないけど)、日本映画の牽引役として細田監督には期待できそうだ。

さて、本作「バケモノの子」だが、少年の成長譚である。強くなりたいと願う少年が師匠に出会って強くなる話である。要するに王道である。
前作「おおかみこどもの雨と雪」は母と子の物語だったが、今度が父と子の物語だ。子は親にまなび、親もまた子に学ばされる様を躍動感を持って描いている。

強くなりたいと願う九太は偶然出会った熊徹に弟子入りするが、弟子など取ったことにない熊徹はどう教えたらいいかわからない。最初から才にあふれていた熊徹はできない者の立場にたって何かを教えることができないのだ。そのうち九太は、熊徹の一挙手一投足を真似始める。親から学ぶことは、面と向かって教えられたことよりも、親を観察した結果獲得するものの方が多い。そうしてひ弱な少年九太はたくましく成長していく。

孤独な少年がその境遇をバネに強さを求めて成長する。少年漫画などでは王道とも言えるストーリー展開だ。そうして手にした強さで大きな悪を討ったり、大事な人を守ったりするのがここからの展開だろうと予想していたが、中盤から九太は世の中の広さを知るために、人間の世界に戻り勉強をしたがるようになる。
この展開は随分唐突だった。もしかしていくつかのシーンをカットしたのかもしれないと思った。
井の中の蛙は確かによくない。が、人間の世界に身を寄せるところもなく、バケモノの世界で、熊徹の背中を見て成長した九太は勉強の価値をどこで見出したのだろう。

この展開によって、本作は少年の活躍劇としてのストレートなカタルシスを放棄したように見える。夏休みにこういう映画を見に来る少年は勉強のことなど忘れて夢を見たいと思うものではないかな。映画館に来てまで勉強しろとか言われるのは、僕が小学生だったらツラい。

もちろん複雑な現代社会は、真っ直ぐな上昇思考は挫折しやすいので、いろんなことを知る・学ぶことは大事なことだ。

細田監督は公式サイトのインタビューで、本作の着想のきっかけをこう語る。

3年前の前作『おおかみこどもの雨と雪』公開後、僕に息子が生まれたことが、やはり一番大きなキッカケかもしれません。前作では「子どもを育てるお母さんというのは大変な思いをして育てている、それが素晴らしい」という映画がないな、というのが着想のキッカケでした。今回考えたのは「子どもがこの世の中で、どうやって成長して大きくなっていくのだろう」ということ。自分自身が親となって実感したことでもあるのですが、子どもというのは親が育てているようでいて、実はあまりそうではなく、もっと沢山の人に育てられているのではないかなという気がするのです。父親のことなんか忘れて、心の師匠みたいな人が現れて、その人の存在が大きくなっていくだろう。そうしたら、父親、つまり僕のことなんて忘れちゃうかもしれない(笑)。それが微笑ましいというか、それぐらい誇らしい成長を遂げてくれたら嬉しいなということを自分の子どもに対して思うのです。子どもが沢山の人から影響を受けて成長していく様を、この映画を通して考えていきたいです。そういう映画はあるようでないと思うので、そこが凄くチャレンジではないかと思います。

なるほど、九太は熊徹の他にも多々良や百秋坊などいろんなバケモノと接して成長していく。熊徹以外の人から学ぶ機会も多かったであろう九太は、そこから広く学ぶことの重要性を得たのかもしれない。熊徹とともに旅をして、賢者からなにやら深いことも学んでいる。本作はたんなる腕っ節の強さだけが強さではないんだという事を説こうとしている。

しかしながら、本作のカタルシスあるシーンは、やはりアクションシーンだったりする。熊徹と猪王山の戦いだったり、最期のクジラと九太との戦いであったり。知性が腕力を凌駕するという描写があるわけではなかった。クライマックスで勝負を決めたのは、熊徹の父としての愛であったし、それは大変感動的なのだが、勉強の大切さは伝わっただろうか。

知性が腕力を凌駕する、というタイプの作品はそれほど多くない。誰もがメジャーアニメですぐに名前が出るのはルパン三世くらいか。(コナンとかは知恵比べなので少し違うかな)ルパンの場合、悪知恵と言うべきかかもしれないが、巨大な敵に対して少人数で勝ちを拾うルパンが頭を使って相手を出し抜く様はとても爽快だ。要するに、知恵を使って敵をくじくような描写があってもよかったんじゃないか。

基本的に、少年たちは勉強が嫌いだ。夏休みなら尚更だろう。そんな時期の少年たちに学ぶことの大切さを伝えるには、もう一工夫必要な気がする。

それでもなお、本作は2時間観客を魅了する力があるのだが。欠点があってもそれを補うアニメーションのカタルシスがあるのは確か。大きな欠点があっても、とにかく観る人を魅了できるパワーがあるというのもすごいことだ。思えば宮﨑駿監督もそうだったなあ。

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