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その選択に「納得」できるか。『クリード チャンプを継ぐ男』

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好きなことで自己実現か、才能を活かすことをやるべきか

フェイスブックで知ったのだが、しくじり先生でお笑い芸人のおかもとまりさんがこう言っていたそうだ。
『「自分に向いていない好きな事」を努力するよりも
「自分に向いているけど嫌いな事」を好きになる努力をしよう!』

また、大好きな書き手のBar Bossaの林伸次さんが新年早々、内田樹さんの言葉を引用して、同様のことを書いておられる。孫引きだが一部引用。
2年前に書いた個人的な話です|林伸次|note

>コナン・ドイルがシャーロック・ホームズの連作を書き続けたのは「書いてくれ」という読者の強い要請があったからです(本人はもう書くことにうんざりしてたらしいです)。でも、書こうと思えばいくらでも書けるから、それが際だった才能だということにコナン・ドイル自身は気がつかない。それよりは、心霊主義の伝導の方を「神が定めた自分の天職だ」と思っていた。「天職がある」という信憑は、かの天才の判断さえ曇らせたのです。
>天才でさえ勘違いするんですから、われわれ凡人が「本当にしたいこと」や「自分の天職」で勘違いすることはまず不可避である。

多分、そういうもんだと思う。このお2人方の主張は全く正しいと思う。見果てぬ夢に固執するのも人生の視野が狭いからで、道は1つではないのだから、と。
中川淳一郎さんのこの本の主張も、とても説得力がある。夢追い人の大半は悲惨な人生を送っていることは僕も知っている。映画業界にも多い。

夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘 (星海社新書)
中川 淳一郎
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好きになれない仕事で評価されて「納得」できるか

本作「クリード チャンプを継ぐ男」は、名作ロッキーシリーズの新章である。主人公はロッキーの宿敵・アポロ・クリードの息子、アドニス。自分が生まれる前にアポロは死に、施設を転々としていたところをアポロの妻、メアリー・アンに引き取られた。やがて順調に成長し、豪邸に住み、高級車に乗り、大手金融会社に務め、若くして昇進も勝ち取った。血のつながっていないメアリー・アンに自慢の息子と愛され、会社にも必要とされる存在になった。外部評価は最高の状態である。このままそのレールを走っても良き人生をおくれるように見える。

本作のストーリー構成は、ロッキー1作目に酷似しているが、主人公の環境は大きく異る。ロッキー・ボルボアはゴロツキであり、ボクシング以外に秀でた才はなかったが(しゃべりはウィットに富んでるけど)、アドニスには学もあり、無数の選択肢がある。世界チャンプの父を持つとはいえ、だれも彼をトレーニングしようとせず、周囲にボクシングを勧める者はいない。しかし、アドニスは安定した生活を捨てて、「見果てぬ夢」を選択する。

アドニスがボクシングを選ばずに会社に残り、昇進を受け入れていても、彼は充実した人生をおくれただろう。愛する人とも出会い幸せで豊かな家庭も築けただろう。

しかし、「納得」はするだろうか。

おそらく、この手のタイプは納得しないと思うのだ。もしボクシングの道を選ばなかったら、どこかで自分で許せなかったのではないかと思うのだ。

逆に彼が、例えば一生ものの重症を負い、リングに立つことも、かつての道に戻ることもできなくなったとしたらどうなるのか。おそらく、後悔もするだろうし、自分の選択に悔やむ瞬間もあるだろう。

しかし、彼が努力をやりきったとしたなら、自分で決めた道を自分の足で進んでの結果だとしたら、「納得」はするのではないかと思う。

アドニスには幸運にもボクシングの才にも恵まれた。だから成功したのかもしれない。だたこいつは、才能がなかったとしてもこの道を選んだんじゃないか。ロッキーVSアポロの映像に自分を重ねてシャドーボクシングする姿を見てそう感じた。彼の心どころか肉体までもがボクシングを欲していた。わずか1シーンでそれを描く素晴らしい演出だった。

周囲のアドバイスに耳を傾け、幸せも成功もつかむ道は確かにある。ただ、それでは「納得」しない面倒くさい男が時にいる。これはそんな男の話だ。

これに心底感動した僕もきっと面倒くさい人間なんだろうなあ。アドニスほど才能がないとわかっていても。

P.S
小池一夫さんも良いことを言う。そうそう、そういうことだよね。

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