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クドカン新作『TOO YOUNG TO DIE!』の公開延期は本当に必要なのか

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クレームはまだないけど、公開延期らしい

クドカンこと宮藤官九郎の久々の映画監督作品「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」の公開延期が決まった。

クドカン新作「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」が公開延期 : 映画ニュース – 映画.com

作品の一部に軽井沢スキーバス転落事故を連想させるシーンがあるとして、映画配給・製作会社の東宝とアスミック・エースは20日、2月6日に予定されていた映画「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」の公開を延期すると発表した。

この作品は、修学旅行中にバスの転落事故によって死んでしまった高校生が、現世に転生するために地獄の鬼とロック対決するというコメディ。修学旅行でのバス事故、という点が、軽井沢のスキーバス事故を想起させるということで、自粛することになったようだ。

以下のリンクに予告があるが(公式サイトからは予告が外されている)、確かにバスが崖下に落ちるシーンがある。
TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ 2015 映画予告編 – YouTube

さぞ、クレームがたくさんあったのだろうと思ったが、産経新聞の以下の記事によると、そういうわけではないらしい。
【軽井沢スキーバス転落】事故連想させる? 映画公開を延期 「TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ」 – 産経ニュース

アスミック・エースによると、15日の事故発生当初は、予告編を見た人からの抗議もなく、「バス事故が主軸の作品ではない」として静観する方針だった。しかし、19日になって、「今、この作品を見ると、観客がこちらの意図しない感情を持ってしまう可能性がある」という意見が出され、宮藤監督らの了承を得た上で、同日深夜に公開延期を決定したという。

この記事が正しければ、どこからも文句は出ていないが、内部の意見だけで引っ込めたということになる。「観客がこちらの意図しない感情を持ってしまう可能性」を理由として挙げている。だが、そもそも映画を見た観客が作り手の意図しない感情を抱くことは常にある。

僕もこの予告編は映画館やネットで何度か見ていて、バス事故のシーンがあるのは知っていたが、軽井沢の事故のニュースを聞いた後、この映画を思い出すことはなかった。特別強く想起させるほど印象的かというとそうでもない。長瀬智也の鬼の方がはるかに強烈な印象を残す。
むしろ、公開延期のニュースを聞いて、ようやく両者が紐付いた。

「成熟した対応」とはどんなものだろう

映画は、テレビと違い、ふいに電源を入れたら目に飛び込んでくるようなものではない。見たいという意志を持った人が映画館に出向いてお金を払ってようやく見れるものだ。バス事故を思い出したくない人は、わざわざ出向かなくともよい。公開延期という処置は果たして本当に必要なのだろうか。

折半案というわけではないが、こういうのはどうだろう。
この映画には、バス事故を想起させるシーンが一部に含まれている旨を告知して、理解のある人のみ観賞するように呼びかける。予告編も事故のシーンを抜いて差し替えたうえで、事故を想起させるシーンがあるとテロップを前が後ろに挟む。見たい人と見たくない人双方に配慮して、選択できる方が、より「大人な対応」と言えないだろうか。

映画とは全く関係ないが、最近バズフィード日本版が正式にサービスを開始し、編集・倫理ガイドラインを公表している。US版の日本語訳だが、これがなかなかわかりやすく良くできている。
BuzzFeed編集・倫理ガイドライン

中でも僕は、このポイントに惹かれた。

引用への抗議:記事中で公開された引用文について、情報提供者が抗議してきた場合、記者と編集者は、取材メモや録音の内容を再度確認し、その苦情が正当かどうかを判断します。苦情が正当と認められたら、その引用を更新し、訂正記事を出します。情報提供者が、個々の引用の内容ではなく、情報提供者自身の記事中での書かれ方について抗議している場合は、編集者がその苦情が正当かどうかを判断します。

つまり、仮にクレームが発生したからと言って、即座に記事を引っ込めるのではなく、そのクレームに正当性があるのか見極める作業が必要だ、と言っている。事なかれ主義ではない、とても良いガイドラインだと思う。「成熟した対応」というのはこういうものではないかな。

現在の映画というメディアには、残念ながらと言うべきかテレビほどの公器としての存在感はない。日本テレビが「明日、ママがいない」を放送した当初、赤ちゃんポストを持つ慈恵病院から放送中止要請が正式にあったが、作品の意図の社会的意義を信じて最後まで放送した。

作品の公開を引っ込めてしまうほどの配慮は果たして本当に必要なのだろうか。
最も本作は、特別な社会的メッセージを強く押し出した作品ではないだろうし、見て面白がってもらうための作品だ。今このタイミングでの公開ではバス事故のシーンのせいで面白がれないかもしれないという危惧はあるのかもしれない。公開時期を改めた方がより一層面白がれるということであれば、公開延期という措置もありといえばありかな。

早く見たいと思っていた僕は、そう自分に言い聞かせているわけだが。

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