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アカデミー賞:多様性と芸術性をともに模索する重大な局面へ

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ノミネート作品以外のことで騒がしい今年のオスカー

今年のアカデミー賞は、そのノミネート作品の話題以上に多様性の問題で盛り上がっている。2年連続で20人の男女合わせたノミネート者が全員白人だったとしてオスカーをボイコットしようと呼びかける者も出てきた。
“白すぎる”オスカー:ウィル・スミスもボイコット宣言。視聴率、オスカーの“価値”への影響は?(猿渡由紀) – 個人 – Yahoo!ニュース

有色人種だけでなく白人であるマイケル・ムーアまでボイコットすると言いだしている。
マイケル・ムーアも“白すぎる”オスカーをボイコット|ニュース@ぴあ映画生活(1ページ)

これを受けて、映画芸術アカデミーは改革案を発表。2020年までに女性会員や少数人種を倍増するとのこと。
米アカデミー、少数派会員倍増へ – 共同通信 47NEWS

オスカー会員は一度なると生涯会員でいられるのだが、それも廃止すると発表。まあ、この制度ゆえに現在老人の会員が多いというのはあるだろう。今後はいちど投票権は10年で区切るらしい。
Oscars: Academy Ends Lifetime Memberships, Announces Other Initiatives to Increase Diversity – Today's News: Our Take | TVGuide.com

ともかくアカデミー側の発表はなかなか迅速なものだと思う。現在の会員構成を公表していないとは言え(ロサンゼルス・タイムズ紙の12年の調査では、約6千人の会員のうち94%が白人で77%が男性らしいが)、数値目標をとりあえず出したのはよかったのではないか。

本音ではこう思っている人もいる

米国芸術アカデミーが、迅速に多様性に向けて動くと発表したのは本当によっかたと思う。ここでムキになって今年と昨年はオスカーに値するパフォーマンスを見せた俳優が白人だけだった」とか言いだしていたら余計に揉めていたろう。

しかしこれは難しい問題である。現状アメリカも白人の俳優が数としては多いので、どうしても確率論的には白人が多く選ばれてしまう。今年ノミネートの俳優の作品はまだ見る機会がないのだが、昨年ノミネートの俳優たちのパフォーマンスはいずれも素晴らしいもので、評価に値するものだった。(グローリー/明日への行進で、キング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォは候補に入ってよかったと思うけど)

実際にはこのように思っている人は多いのではないか。
今年「さざなみ」という作品で主演女優賞候補となっているシャーロット・ランプリングは、今回のボイコットを「白人に対するレイシズム」と批判し「オスカーはそのパフォーマンスによってのみ評価されるべき(nominations should be based on the performance.)で、黒人俳優が最終リストに載るにふさわしいパフォーマンスを示せなかったのでは(perhaps the black actors did not deserve to make the final list)と正直に語ってしまっている。(Charlotte Rampling launches attack on Oscar boycott as anti-white racism | Daily Mail Onlineから引用)

今回、オスカー候補として名前が挙がっていたのは、「クリード チャンプを継ぐ男」で主役を張ったマイケル・B・ジョーダン、作品賞候補で「ストレイト・アウタ・コンプトン」あたりか。クリードは作品の顔とも言うべきスタローンが40年ぶりにノミネートを果たし、ストレイト〜の方は脚本賞
候補となっている。ただその脚本家が白人であるというのがまた物議をかもしているのだが。

数年前、オスカーを獲った黒人奴隷の映画

批判されたここ2年の直前、2014年のアカデミー賞で最も輝いたのが黒人だった。作品賞は黒人奴隷の過酷な運命を描いた「それでも夜は明ける」で監督のスティーヴ・マックイーンと主役のキウェテル・イジョフォーは揃ってノミネート、ルピタ・ニョンゴは助演女優賞を獲得した。ちなみに監督賞は「ゼロ・グラビティ」のアルフォンソ・キュアロン。彼はメキシコ人である。2014年のオスカーはダイバーシティが花開いたかに思われたものだった。わずかに2年で真逆の展開になってしまった。

スティーヴ・マックイーンは、今回のオスカーを巡る議論に関してこう語っている。

McQueen said, “This is exactly like MTV was in the 1980s. Could you imagine now if MTV only showed music videos by a majority of white people, then after 11 o’clock it showed a majority of black people? Could you imagine that happening now? It’s the same situation happening in the movies.”
意訳:これは80年代のMTVの状況によく似ている。今MTVが黒人でなく、白人ばかりのミュージック・ビデオだけを放送するなんて想像できるかい?同じことが今映画業界にも起こっているんだ。

マックイーンは、80年代にデビッド・ボウイが白人音楽ばかり流すMTVを批判したことを引き合いにMTVの例を出しているのだが、彼はアカデミーのみを批判せず、産業全体の構造に目を向けるべきだと語る。

“the real issue is movies being made,” he said. “Decisions being made by heads of studios, TV companies and cable companies about what is and is not being made. That is the start. That is the root of the problem.”
意訳:本当の問題は作られる映画そのものにある。どの映画を作るか決定するのは、スタジオの首脳陣、テレビ会社にケー物TV会社だ。そこにこそ問題がるんだ。

(上記の2つの引用はいずれも Steve McQueen on Oscar Diversity: ’12 Years’ Director Weighs In | Varietyから)

今が重要な局面になることを期待しているとマックイーンは語る。

オスカーが多様性にばかり配慮して、人種間の調整機関になってしまったら、オスカーの価値はなくなるだろう。しかし、多様性を失ってもオスカーの価値は損なわれる。アカデミー賞は慎重かつ大胆に歩を進めなくてはならない。

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