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note問題でネット時代におけるコンテンツって何なのか改めて考える

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「あんなのは映画じゃない」という批判

映画ファンの方や専門家などで気に入らない映画を貶めるときに「あんなのは映画じゃない」という言い方をされる方がいる。その方にはその方なりの映画の定義があるのだろうけど、社会全体でこれは映画で、あれは映画じゃない、というはっきりした定義はない。映画館で上映されていれば映画なのかな?ぐらいの漠然としたイメージぐらいしか存在していない。もちろん映画研究もそれなりに歴史を重ねているので、研究者や作家の間では映画とは何か?というのはあるにはあるが、映画もその議論もいまなお進行形で進化しているものだと思うし、特に現代は変化のスピードが速い。今はODS(Other Digital Stuff)といって音楽ライブや落語やオペラなども映画館で見られる時代になった。では落語を撮影した動画を映画館で上映したら映画になるのか?と言えば何か違う気もする。

ただ、お金を払って映画館で「作品」を楽しむお客さんにとっては、それが何であるのかなどどうでもいいことなのではないか。その「コンテンツ」がお金を払うに値する濃密な体験さえ提供してくれれば。僕自身は、一般的に「映画」と呼ばれるものを映画館で見るのが一番濃密なコンテンツ体験なのだが、嗜好の多様化した現代では必ずしも誰しもにあてはまるものではない。お客さんが映画よりもより良い体験ができるコンテンツがあるなら積極的にウチの映画館でもやりたいと思うし。実際、Perfumeのドキュメンタリーなどはファンの方にはとても好評だったし。

ネット上にあるモノは、何がコンテンツで何がコンテンツじゃないのか

ネットの発展によって、何かを発表するコストはぐんと下がり、コンテンツらしきものの数は飛躍的に増大した。無料でブログを開設して小説を発表もできるし、電子書籍もあるし、動画サイトも無料で映像をアップできるし、まあ発表するだけならほとんど無料でできるようになったわけだ。でもなんでも無料でできてしまうのでマネタイズの問題がでてきて、本気でコンテンツで食っていこうとするクリエイターはどう生きていけばいいのかが深刻な問題になってきた。文化を育てるためにもここは避けて通れない議論だ。

さて、ここからが今日の本題。
株式会社ピースオブケイクの運営する「note」が最近賑わっている。良くも悪くも賑わっている。ユーザーとクリエイターをつなげると標榜しているこのサイトは、文章でも音楽でも写真でも絵でも簡単にアップロードして課金設定をすることができる。くるりなどの大物ミュージシャンも早くから参加しているし、田中圭一さんが漫画をここで発表していたりもする。

当初は漫画や音楽など、多くの人が「作品」と同意しやすいものが多かったnoteだが、最近ここで「〜の稼ぎ方教えます」的な「コンテンツ」(かっこ付きで表現します)でエラく稼いでいる人たちがでてきて、これはnoteが規約で禁止している情報商材にあたるのでは?との議論が起きている。

ブロガーがnoteで売っているお金儲け情報は、完全に情報商材 – 斜め45度からの理説

イケダハヤトがハマったnoteというプラットフォームの危険性 – 踊るバイエイターの敗者復活戦

有名どころのちゅうはやの2名以外にもたくさんいる。2人の成功を見て参入したのかどうかよくわからないが、増えているんじゃないかな。「#小遣い稼ぎ」とか「#副収入」とか「#せどり」とかそんな類いのハッシュタグが散見されるし。

僕自身の興味は情報商材の定義や線引きではなく、ユーザーとクリエイターを繋ぐと称するnoteにとって、何が作品で、どんな人がクリエイターなのか、だ。株式会社ピースオブケイクは、このnoteというシステムで、どんな人を支援したいと考えているのだろう。

代表の加藤貞顕さんは、そのへんどう考えているのだろうか。以下のインタビューがヒントになるかもしれない。

—プロ・アマチュア問わずいろんな方がnoteを使っていますが、クリエイターの定義はどのようにお考えですか?
加藤:インターネットの時代というのは綺麗ごとではなく、全員がクリエイターだと思うんですよね。人気とか面白さとかいろんな差があるんですけど。
オフショア開発インタビュー |ピースオブケイクが切り開くコンテンツの未来|「書籍の再発明」を目指すnote (3/7)フランジア

全員がクリエイターだそうだ。ということは情報商材屋もクリエイターということなのだろうか。あるいはこれは全員がクリエイターになれる可能性を秘めている、というような意味かもしれない。このインタビューはこう続いている。

全員が売れるコンテンツを1個はできると思っています。みんなね、今までで一番自分が恥ずかしかった話を書けばいいと思うんですよ。これは絶対売れるはずです。「書けないレベル」のやつじゃないとダメですよ。
でも、プロのクリエイターっていうのはそういうことをしているんですよね。売るということはクリエイティビティを引き出す意味合いもあって、プロは商売だから仕方なく、すごく恥ずかしかった話とか、自分の中の醜い心に踏み込んで唸りながら毎日書いて出してるわけですよ。自分の根本のところに踏み込んでやる、クリエイティブワークってそういうものだと思うんですよね。

ここに加藤さんのイメージするクリエイティブなものが現れているのだと思う。僕も同感。そうやって踏み込んだものじゃなければ、消費する人に濃密な体験を与えられるわけがないのだから。それができる人がクリエイターで、そういう人たちが作ったものが作品だと加藤さんは根本のところでは考えているんだと思う。

果たして「#小遣い稼ぎ」や「#副収入」などのハッシュタグで見られるようなnoteの投稿はクリエイティブなものとして加藤さんは捉えているのだろうか。ならばわざわざ規約で情報商材を禁止したのはなぜなのか、ということにもなる。元々どんな人達を支援するためのプラットフォームだったのだろうか。

これから始まる月額課金への危惧

僕は以前、夜間飛行で家入一真さんのメルマガを購読していたことがあって、月額料金を支払っていたんだけど、月に4,5回配信されるはずのメルマガが1本も送られてこなかったことを指摘したことがある。
週刊(だったはずの)有料メルマガが一ヶ月間配信されなかった件

当時、夜間飛行はメルマガの配信ポリシーなども公表しておらず、各著者の配信管理もきちんと行えていなかったので、家入さんのような事件が起きたのだけど、僕の指摘を受けてこのようにポリシーを公表するようになった。
メルマガの配信ポリシーについて > The Book Project 夜間飛行 | 受信箱に本が届く

noteには月額課金のシステムもすでにあるが、利用できるユーザーは限定されている。上記のメルマガの例のようなことは今すぐは起こらないだろうと思うが、一般解放するつもりはあるようだ。

一般開放した後、夜間飛行と同じ徹を踏むのは絶対に避けて欲しいと思う。コンテンツ課金をもっと手軽に、とおっしゃっているので間にnote運営が入ることはなく、ユーザーとクリエイターが直接契約する形になるのだろう。ピースオブケイクはあくまで場を提供するだけ。規約にもある通りなのだろう。

2.取引契約

noteにおいてクリエイターが有料または無料でデジタルコンテンツを販売またはファンクラブを運営する場合は、クリエイターとユーザーとの間において直接契約が成立することになります。POCはクリエイターにコンテンツ販売およびファンクラブ運営の場を提供する立場になります。POCは、当該契約について契約の当事者とはならず、当該契約に関する責任は負いません。したがって、当該契約に際し万一トラブルが生じた際には、ユーザーとクリエイターとの間で解決していただくことになります。ただしPOCは当事者間のトラブルに関し、その解決に向け最大限努力します。
ご利用規約|note

今後、無配信で課金だけ成立、なんてことのないようにしていただきたいと思う。

でも、プラットフォーム側は場の提供だけです、コンテンツ配信管理はクリエイターの仕事です、とは言うんですけど、手数料という利益をそこから得るわけですよね。規約にもトラブルを最大限解決する努力はうたっているのだけれど、月額課金の場合は特に配信管理に関して運営が本当にノータッチで大丈夫なのか気になる。

というのも、以下のような記事を見つけたから。noteで月額配信を行っているUQiYOという音楽ユニットのYuqiさんと加藤さんの対談なのだが、気になった点を引用する。

Yuqi:すでに数名入ってくださってるんですよね。正直すごく驚いたし、ありがたいですよね。「年間12万だよ? 大丈夫?」って。運用を始めてすぐの頃は、あまり提供すべきコンテンツをアップできない時期もあって、「ササエ」に入ってくれた人と実際会ったときに、「回ってなくてすみません!」って言ったら、「余裕なかったら何もしなくていいよ」って言ってくれて。逆に帯を締め直しましたね。

加藤:そういう人たちはきっと、何かをしてほしいわけじゃないですよね。むしろ、いい音楽を作ってくれれば、本人たちが元気に楽しくやってくれれば、それが一番大きいんじゃないかな。相撲のタニマチに似た感覚じゃないかなと思うんです。
UQiYOと加藤貞顕に学ぶ、ネット時代の作り手とファンの繋がり方 – インタビュー : CINRA.NET

この会話はミュージシャンとファンの間に交わされた会話なら美談でいいのかもしれないが、プラットフォーム運営側がこれを美談として紹介していていいのだろうか。月額10000円に足るものを提供できていないけど、課金はされる。でもファンは納得してるからいいじゃん、と手数料徴収してる運営側が言うのは、ちょっと危なかっかしいのでは。

でないと有料メルマガの二の舞になるのでは。

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