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『ディアーディアー』は密度の濃い人間ドラマだった

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多くの監督に助監督として寵愛されている菊地健雄監督の「ディアーディアー」を見た。派手さはないが脚本が良くて芝居が良い。シニカルな人間ドラマであるが、見終わった後は案外スッキリする。特段何か解決したわけでもないのに割と吹っ切れたような爽快感がある。

舞台は群馬の山あいの町。かつてこの土地にはリョウモウシカという幻の鹿がいたらしい。(架空の鹿です。念のため)子供の頃その鹿を発見した3兄妹は、町で一躍時の人となるが、結局鹿は見つからず、3兄妹の目撃情報は嘘扱いされることに。その事件以後、ギクシャクした人生を歩むことになった3兄妹はバラバラの人生を歩むことに。20数年後に父の危篤をきっかけに3人が久しぶりに地元で顔を揃えるが、田舎の狭い人間関係のなかでもがき苦しむことに。田舎の人間関係は学校時代のヒエラルキーをひきずる、というがそうした狭苦しいステレオタイプな描き方なのだが、幻の鹿をキーにして展開させて寓話的に仕上げているので、わかりやすくていい。

画角はスタンダードサイズ。最近見た「サウルの息子」でもスタンダードサイズを用いているが、サウル〜はこの狭い画角がフレームの外に広がる光景を想像させるように仕向けていて、狭い画角が効果的に使われていた。本作の場合は、狭い田舎の人間関係をそのまま象徴するかのように画面に緊張感を与えていた。スタンダーサイズは狭いので、映画ならではのダイナミックさに欠けるのだが、引き締まった画面なので緊張感を保てる。スタンダードサイズ、もっと流行ってもいいんじゃないかな。

3兄妹を演じた桐生コウジ、斉藤陽一郎、中村ゆりがとてもいい。鹿のせいで人生狂ったとそれぞれ思っているわけだが、人生うまくいかないのを他人のせいにしてしまう癖が染み付いている感じがとてもリアルに表現している。妹役の中村ゆりさんはダメなのに可愛かった。多分目の前にいたらオレはコロッと騙されるような気がする。突っ張って一人で生きてます、みたいな顔してるのに割と依存体質。ああいう人に弱いです、私。
次男の斉藤陽一郎は、もうベテランと言っていい年齢なのに、いい意味を円熟味を感じさせない芝居をしていてすごい。なんか若手俳優みたいなオーラがでている。
長男役の桐生コウジも良い。なんというか「我慢してる」表情が似合う。

田舎を舞台に、くずれた兄弟の人間関係を描くという点で、西川美和監督の「ゆれる」と共通点が多いかもしれない。

こういう密度の濃い人間ドラマはいい。見入ってしまった。

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