故アッバス・キアロスタミの写真集『Images, Still and Moving』

hotaka-sugimoto 2016年7月19日

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過日亡くなったアッバス・キアロスタミ監督の写真集「Abbas Kiarostami: Images, Still and Moving
」を買ってみた。

訃報を聞いてすぐ買ったのだけど、届いたのは本日（7/20）。わりと時間がかかったので海外からの取り寄せだったのかもしれない。英語とドイツ語で文章が書かれているのだが、出版されたのはドイツ。キアロスタミとドイツってあまり馴染みがない。そもそも日本では写真家としてのイメージもあまりない。だけど、パリのポンピドゥー・センターやニューヨークのMOMAなどで写真展を開催したこともあるし、実は日本でも写真展を開催したこともある。
この写真集はドイツのルール大学ボーフム、ヴィースバーデン、ケムニッツの３箇所の美術館で写真展をやった時のものを掲載したもの。
２章構成になっていて、最初の章は1978年から2004年にかけて撮影された『Snow White』と題されたモノクロの雪景色。撮影された場所は、イランから300~700キロほど離れた山岳地方のようだ。雪の中の立っている木を撮影した写真ばかりなのだが、一連の写真に特に繋がりはないようだ。
もう１章の方は2006年と2007年に撮影された『Rain and Wind』。こちらの方が映画のキアロスタミを知っている人なら馴染みが深い写真かもしれない。キアロスタミは車が好きだったが、この章は雨の日に車の中から見た風景を撮っている。とはいえ風景はほとんど見えず、雨の水滴がついた窓を写しているような感じだ。かなり激しい雨と風の日に撮影しているようで窓一面水滴なのだが、風景が見えそうで見えない画作りはキアロスタミの映画にも通じるものがある。フォーカスも窓につく水滴にあてている。

キアロスタミは写真を撮ることは映画を撮ることとは別物のように捉えていたようで、このように語っている。

With film, everything is prepared and organized ahead of time. Each shot, though independent, also depends upon the shots that precede and follow it. the filmmaker has an idea in his mind and, during the shooting, he endeavors to make the scene correspond to the vision he has imagined. This is not the case in photography, particularly landscape photography. Sometimes an isolated and abstract image upsets the continuity of the photographer’s mind and invites him to pause, make a choice and release the shutter. Nothing is foreseeable in advance….
意訳：映画は全て、時間に沿って準備されオーガナイズされています。個々のショットは独立していても繋がりがあります。映画監督は心の中にあるアイデア具現化しようと努力するものです。これは写真の場合は当てはまりません。特に風景写真の場合は。時折、隔絶した、抽象的なイメージが写真家のマインドの連続性をひっくり返し、ポーズをとり、シャッターを切るよう誘うのです。事前に予測可能なものはそこにはありません。

キアロスタミの映画はとても自然に見えて、偶然撮れたのかと見紛うこともあるくらいだが、その実ものすごい計算して撮影している。ある意味「作為」の塊だが（にもかかわらず全くそう見えないのがすごいのだけど）、キアロスタミにとって写真はその真逆でインスピレーションにまかせてシャッターを切る、というような感じらしい。

しかし、映画を見ても感じることだが、絵心があるというか、写真にも映画に見られるような絵画的のような美しさが見られる。なかなか素敵な写真集だ。

キアロスタミは他にいくつか写真集を出しているので、時間をかけて集めてみようと思う。