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『トランボ』ジョン・グッドマン演じるB級映画プロデューサーの頼もしさ

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ハリウッドの恥部「赤狩り」

アメリカ映画界にとって、赤狩りは歴史の恥部というべきものなのだが、そのハリウッド自身の手が何度か映画の題材にもなっている。
ロバート・デ・ニーロ主演の「真実の瞬間(とき)」やジョージ・クルーニーが監督した「グッドナイト&グッドラック」などは赤狩りと戦う作家やジャーナリストを真正面から描いた作品だが、赤狩りが作品中に登場する作品となればもっと多くの作品の名前が挙がるだろう。
赤狩りは、自由をなにより尊重するアメリカで起こった、表現の自由に対する重大な危機だった。ハリウッドの歴史を紐解いてみると案外表現の自由は常に保障されていたものでもなく、赤狩りの他、ヘイズ・コードなど表現を大幅に規制するシステムが過去存在していた。
そうした表現規制は自然と淘汰されたわけではない。それに対して異を唱えた人たちがいて、戦って自由を勝ち取ったのだ。

参照記事:【児童ポルノ改正法案問題】社会倫理と表現規制の先行事例としてハリウッドのヘイズコードを再考してみる

赤狩りに反対した急先鋒となった映画人たちはハリウッド・テンと呼ばれる。その中心人物であった脚本家ダルトン・トランボの半生を描いたのが本作だ。本作を見ると自由は自然と空から降ってくるような恵みではなく、苦しい戦いを経て勝ち取るものなのだと改めて痛感する。

金儲け主義のB級映画プロデューサーがトランボを救う

ダルトン・トランボは自身の原作を、監督と脚本担当で映画化した「ジョニーは戦場へ行った」やスタンリー・キューブリック監督、カーク・ダグラス主演の「スパルタカス」や「ローマの休日」の脚本家として有名だが、赤狩りの洗礼にあってから長い間偽名での仕事を余儀なくされた。名作「ローマの休日」はイアン・マクレラン・ハンター名義での執筆で、トランボの名前でアカデミー賞に名前が刻まれたのは1993年になってからのことだ。本作はそのローマの休日以外にも家族を養うため、そして表現の自由のため偽名にて創作活動を続けるトランボの姿を描いている。
映画の歴史に興味ある者には興味深いエピソードが満載の本作だが、特に面白いのはトランボが出所してからB級映画の脚本を数多く量産するくだりだろうか。ジョン・グッドマン演じる低予算のB級映画を量産する社長が、一流の脚本家であるトランボを安く使えるということで重宝するわけだが、「アメリカの理想を守る映画連盟」などの圧力にもくっせず非常に頼もしい。スター俳優の主演禁止の条項などをちらつかせ、脅迫する連盟の使いに対して「ウチの映画には元々スターなんか出てねえ」と追い返す様は大変に痛快。
ジョン・グッドマン演じるキング社長は映画愛で映画を作っているのではない。映画は彼にとって純粋に金儲けのための道具でしかない。アメリカの理想も彼には興味がない。しかし、そういう男がトランボの苦境を救う。
赤狩りの加担する者の中には理想のためにそれを行う者もいただろう。何しろトランボたちを苦しめる組織はジョン・ウェインも所属する「アメリカの理想を守る映画連盟」である。思想とは時に厄介なものだ。当時、彼らにとってはそれが正義だったのだろう。今でも金のためではなく、善意でおかしな主張をする人はいる。
金の亡者は信用できると言いたいわけではない。キング社長は人として「適度」に汚れている。だから安心できる。

ハリウッドは自らの犯した罪もエンタメ映画としてこうして活用する。そのふてぶてしさは反省できるという誠実さもあれば、なんでもビジネスにしてしまうショービズ根性ゆえというのもあろう。それがハリウッドの強さなのだ。金儲けの心もじつは大切なのだ。

P.S この映画を見た後、あなたは「農婦とエイリアン」というキーワードを検索したくなるだろう。

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