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「レッドタートル ある島の物語」はジブリの今後を占う作品になるのか

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スタジオ・ジブリが初めて外国人監督を招いて製作された「レッドタートル ある島の物語」は、日本を代表するアニメーションスタジオ、スタジオジブリが参加して製作されている。映画の冒頭、おなじみのトトロのロゴマークが映される。しかし、その後に続く本編映像は、今までのジブリ作品とは全く異なるトーンのものだ。日本のアニメ作品ではお目にかかる機会のないタイプの作風に面食らった観客も多いのではないか。

本作の監督は、オランダ出身のマイケル・デュドク・ドゥ・ビット。長編映画の監督を務めるのはこれが初めて。今までは短編アニメーションを中心に監督していたが、「岸辺のふたり」がアカデミー短編アニメーション賞を受賞したことをきっかけに鈴木敏夫氏が長編をやってみないかと声をかけたのが製作のきっかけという。
本作はスタジオ・ジブリが製作に参加しているものの、実際の作業はほぼイギリスで行われているようだ。エンドクレジットを観てもジブリスタッフの名前はほとんどでてこない。鈴木敏夫氏と高畑勲氏ぐらいだろうか。(iMDbではジブリからの参加者は6人となっているが、事実かどうか確認できてない)
なので、作品全体の趣としては、ヨーロッパのアートアニメーションという雰囲気の作品だ。日本ではそうした作品は、ミニシアターでしか上映されないが、本作は全国のシネコンでそれなりの規模で公開されている。配給も最大手の東宝だ。今までのジブリの実績からすれば、東宝もある程度のスクリーンを確保しないといけないのだろうが、東宝が全国展開するタイプの作品では、明らかにない。このてのアニメーションを初めて観た人もかなり多かったのではないだろうか。

少し脇道にそれるが、今年は「父を探して」や「ソング・オブ・ザ・シー 海のうた」など優秀なアニメーション映画が他にも公開されているので、機会があれば是非見てほしい。12月にはロシアのユーリー・ノルシュテイン監督の作品のデジタル・リマスターも上映される。

レッドタートルはセリフが一切ないという、挑戦的なスタイルを取っているが、非常にシンプルなストーリーなのでわかりやすい。漂流していた男が無人島に流される。男は何度もいかだを作り、島から脱出を試みるが、何度も失敗する。そんなある日、大きな赤い亀、そして不思議な女と出会う。自然の恐ろしさと美しさを静謐なタッチで描き、神話やお伽話にもありそうな物語だ。
セリフがないこともそうだが、印象的な余白をたくさん持った作品で、想像力を刺激する。また美しい絵が動くことそれ自体の快楽もふんだんに持っている作品だ。非常に質の高い作品で、カンヌのある視点部門で特別賞を受賞するのもうなずける。

ジブリは海外でも大きな人気を持っているが、宮﨑駿の引退後、事業モデルの転換を迫られている。今回のように企画にだけ参加して、自社で製作をまかなうとは別の道を今後は模索するのだろうか。
鈴木敏夫氏は、「現在、宮崎駿が短編で挑戦している手描きとCGの融合や、今回のように企画にだけ参加するなど、今後しばらくは流動的な製作が続くことになる」と語っているそうだが、こうした作品への参加が、日本アニメの裾野を広げることにつながればいいなと思う一方、日本市場においては確実に苦戦するので、日本でのプレゼンスは落ちていくのだろうか、と危惧もする。「思い出のマーニー」の米林宏昌監督も鈴木敏夫氏の後継者と目されていた西村義明氏もジブリを離れている。
スタジオジブリは、以前から海外の優秀なアニメーション作品を日本に積極的に紹介する活動も行っていた。イグナシオ・フェラーレス監督の「しわ」やミッシェル・オスロ監督の「夜のとばりの物語」を配給協力するなどしていたが、そうした活動をさらに一歩踏み込んで、今回は共同製作で参加したということなのだろう。そういう意味では、宮﨑駿の引退後の試行錯誤の段階ではあるのだろうが、以前からやっていたことの延長線上にあるとも言える。
このてのタイプのアニメーション作品の市場は、日本においてはとても狭いが、広げていくことができればジブリはそこでも先駆的存在になれるのかもしれない。

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