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3Dの凋落とセカンド上映としての4D映画

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昨今、映画館の上映形態の多様化が進んでいる。大作・話題作になると、2D、3D、IMAX、4DX/MX4D、立川に行けば極上爆音上映などもあり、どの形態で見るのがよいか迷ったこともある人もいるだろう。映画館の上映形態は、サイレント、モノクロ、カラー、シネスコやもう死んだ技術だが、シネラマなど技術の進化によっていろいろ出てきて、それぞれに別個の上映体験があった。

現在でも主流のは、2D上映なわけだが、少し前はこのデフォルトが3Dになっていくのでは、という議論があった。しかし、どうもその雲行きが怪しい。ジェームズ・キャメロンのアバターの興行的大成功、さらにアート表現としての3Dを追求したアルフォンソ・キュアロンのゼロ・グラビティの成功で3D時代は遠くない未来に訪れるのでは、と思われていた。

しかし、ここ数年の3D上映の売上は芳しくない。日本に限らず米国や英国でもその成長には陰りは生じてきている。対して、3Dよりもひとつディメンションが多い(と表現すべきなのかどうかわからないが)4DX/MX4Dは日本においてはユニークなポジションを確立しつつあるようだ。4DX/MX4Dはそのアトラクション的観賞体験が、通常観賞とは特に差別化されており、ヒットした話題作を後から4DX化するケース、さらには昔の名作のリバイバル上映に用いられるケースも出てきた。

4DX/MX4Dはいわゆる「セカンド上映」で活用されるポジションを得つつあるかもしれない。セカンド上映は主に封切り時に見逃した人向けの需要であったが、これからは封切り時の上映は別の観賞体験を与えるものとして変わっていくのかもしれない。

3D映画の凋落

昨年、こんなニュースがあった。

3D映画の人気低下でRealD売却 : 映画ニュース – 映画.com
2003年設立のRealDは、3D映画のシステムと専用メガネを提供するサービスにより、2万7000スクリーンと世界で最も普及していることで知られている。しかし、昨今は3D上映の人気下降の影響で売り上げが落ちており、今年の第2四半期は790万ドルの損失を計上している。

上記の記事通り、RealIDは世界で最も普及している3Dシステムだ。日本でもイオンシネマや109シネマズなどシネコンチェーンにも幅広く導入されている。売却にいたった要因は、ずばりで3D映画の人気低下と記事は指摘している。

イギリスのテレグラフでは、より詳細に3D映画の人気低下について統計的事実も交えた記事を出している。2014年の記事であるが、2015年も2016年も3D映画の世界的ヒットもなかったので、現在もこの統計から得られる結論は有効だろう。
The charts that show why Hollywood needs to forget about 3D movies – Telegraph

テレグラフでは、2008年から2013年(アバター公開の前年からゼロ・グラビティ公開年)までの3D映画のリリース本数と、3D上映が全体の興行成績に占める割合をグラフにしている。3D映画の本数は2011の47本がピークであるが、興行成績の方は2010年をピークに減少している。2011年から2013年にかけては上映本数は別段減少しているとは言えないのだが、興行成績の方は芳しくない。
またニューヨーク・タイムスではアメリカにおいてもやはり2010年をピークに3D上映の売上が減少に転じていると報じている。

テレグラフの記事には、売上の減少のグラフ以外にも注目すべき点がある。記事は、3Dが観客に与える感情的リアクションは、2Dと比べてそれほど大きく異なるものではないという心理学的実験を紹介している。
ユタ大学では、4つの映画を2Dと3D両方で見せて、より強い生理的反応を示すのはどちらのフォーマットかを観察する実験を行った。その結果は2Dも3Dも観客に与える感情的反応に目立った違いは見られないというものだった。

得られる感動や興奮がほぼ同じであるのなら、重たい眼鏡を装着せねばならず、鑑賞料金も高い3Dを選択する道理は少ない。今年のゴーストバスターズのような特殊なギミック(映像の一部はスクリーン上にはみ出るFRAME BREAK)がこれからも開発されていく可能性はあるが、今夏3DシェアNo1のゴースト・バスターズでも43%のシェアで過半数には達していない。
よほど、3Dに特化した作品が出てこない限り、3D上映の苦戦は続くだろう。そうした作品が登場したとしても、その作品が個別に盛り上がることがあるかもしれないが、大きなトレンドを作るに到れるのかは疑問だ。ゼロ・グラビティの3D技術は相当なレベルに達しているが、あれも個別の作品の評価に留まっている。

セカンド上映で別の体験を提供する4D上映

3Dの人気低迷を尻目に4DX/MX4Dの4D上映は独自のポジションを築きつつある。先日ルパン三世 カリオストロの城がMX4Dで上映されるというニュースがあったのだが、こうした活用が4DX/MX4Dの活きる道かもしれない。

「ルパン三世 カリオストロの城」MX4D化、来年1月に全国で上映 – コミックナタリー
「ルパン三世 カリオストロの城」は、1979年に「ルパン三世」の劇場用長篇第2弾として公開されたアニメ。宮崎駿の初監督作品としても知られ、世界中にファンを持つ。MX4D版は2014年に公開されたリマスター版をベースに制作。動き、振動、風、ストロボなどの特殊効果によって臨場感を演出する最新の体感システムによって、名シーンの数々がどのように蘇るのか。

カリオストロの城は何度もテレビでも放映され、リバイバル上映も多数行われている。それだけ根強いファンの多い名作であるのだが、MX4D化は初めて。通常の観賞とはまた違う体験を提供できるだろう。

こうした動きはこれだけではなく、話題になった作品を後から4DX/MX4D化するケースが昨年から目立つようになってきた。リピーターを数多く生んだガールズ&パンツァー 劇場版や、応援上映で一躍有名になったKING OF PRISM、劇場版遊戯王も熱心なファンに後押しされる形で封切りから数ヶ月の後に4DX上映が実現している。
ガルパンにいたっては、また4DX上映を行うらしい。
まだまだ作戦継続です! 「ガールズ&パンツァー劇場版」の4DX復活上映が決定 – ねとらぼ

背景には2つある。1つは、2Dで制作された作品に多くのリピーターを生むような現象が起きた場合に、イベント感のある体験を提供することでさらなる集客をはかるということ。もう1つは2D作品を4dx/MX4D化するのは、3D化よりもコストや制作の手間の視点からもハードルが低いことだ。

1つ目の点に関しては、体験した方の率直な感想を読むとわかりやすいだろう。

映画体験はライブとなるか? 4DX版「ガールズ&パンツァー 劇場版」に見る劇場版アニメの未来|ギズモード・ジャパン
砲撃による揺れや被弾の衝撃なども座席の揺れとして表現されますが、視覚や音響効果も相まって「まるで自分が作中内のキャラクターと同じ体験をしている」気分になります。

すると、こう思うわけです。「一年生チームはこんなにすっごい衝撃を受けてたんだなぁ」とか、「カール自走臼砲の衝撃やっべぇえぇ」とか、「さすが17ポンド砲、威力が違うぜ」とか。映像と音響で表現されている衝撃が五感で体験できることで、もっともっと作品の世界観に没入できるんです。

2つ目に関してだが、2D作品を3D化する場合、上映素材を作り直す必要がある。2D作品の3D変換技術も向上しているので、それでも仕上げの段階に戻り、3D上映用の素材を作成し直す必要はある。
対して4DX/MX4Dは上映素材がデジタルであれば素材に手を付ける必要はない。4D専門の演出家がシナリオ分析などを経て演出が加えられるのだが、作品完成後に後から効果をかぶせる形で制作されるのが主流だ。加えて現在では、その演出のクオリティチェックも国内でできるようになってきているので、導入のハードルはかなり下がっている。(知ってるようで意外と知らない!4D映画ってどうやって作るの? | Ciatr[シアター]” target=”_blank”>かつては開発本社でしかプログラム修正ができなかった)

3D上映は2D上映とその感情的体験において、現状では差別化ができていない。だが、4DXとMX4Dは明確に違う体験を提供できている。全ての作品で効果を発揮するフォーマットではないだろうが、熱心なファンを獲得した作品を後から4D化してセカンド上映で活用していく興行形式は定着していくかもしれない。(立川シネマシティや、塚口サンサン劇場が提供する爆音系の上映形態も同様)

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