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「奇蹟がくれた数式」は数学者から見える驚くべき世界を教えてくれる

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数覚とは何か

『数覚』という言葉があるのをご存知だろうか?数学の世界というのは多分に論理的なものだというのが、多くの人が抱いているイメージであろう。しかし、数覚とは人、さらには動物全般には数に対する感覚が備わっているとする研究だ。実際、数学の定理が正しいと認められるには、論理的な証明が必要なわけだが、公式や定理を思いつく時にはある種の直感が働く場合がある。数学的直感主義と呼ばれる立場は昔から存在するようだが、あんな複雑な公式を直感で思いつく人の頭はどうなっているのか、凡人には想像しがたい。

数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞した小平邦彦氏も、数学の教育には論理力よりも数覚を伸ばすべきだという話をしていることを小耳にはさんだことがある。この数に対する直感とはどういうもので、それを持ち合わせている人には世界がどんな風に見えるのか。インドの伝説の数学者、ラマヌジャンの半生を描いた「奇跡がくれた数式」はそれをわかりやすく描いた作品だ。本作を見ると、たしかに複雑な公式を感覚的に思いつく、高度なインスピレーションの世界が存在するのだとわかる。

数学者に見える世界

本作の主人公、ラマヌジャンはインドが生んだ天才数学者。インドでは知らぬ者はいないほどに有名だそうだ。本格的な教育は一切受けていないにも関わらず、独学で数多くの公式を編み出し、後の数学界に多大な影響を与えた人物だ。映画は、インドの貧しい地方で暮らすラマヌジャンがケンブリッジ大学の数学者ハーディに公式を書いた手紙を送り、これを見初めたハーディがラマヌジャンをケンブリッジに招聘し、数学者として活躍する様を描く。

ラマヌジャンに関する最も有名なエピソードの1つはタクシーのナンバーに関する逸話だろう。本作にも描かれているが、ある日、ハーディは病床のラマヌジャンを見舞うためにタクシーで病院に向かった。そのタクシーのナンバープレートが1729番だったのだが、ハーディはこの数字をつまらない数字だと行った。ところが、ラマヌジャンは1729は実に面白い数字だ、なぜならそれは「3乗数2つの和として2通りにあらわされる1番小さな数」だからだと返したと言う。
1729というタクシーのナンバープレートを目撃したからといって、僕の目にはただの数字だ。ところが、この映画に登場する2人の天才数学者には、それは面白いとかつまらないとか品評する類のものに見えている。街に出れば、数字で溢れかえっているが、我々のような凡人にはただの数字にしか見えていないものが、数学者には何か別のもののように見えているのではないかと思わせる。

本作はそんな、世界を見つめる視点を異にする人々の物語だ。

死後、多くの証明がなされ今に生きるラマヌジャンの公式

主人公、ラマヌジャンは特に数学的直感に秀でた人物として描かれている。彼は独学で数学を学び、複雑怪奇な数式をどのように思いつくのは聞かれても、「ナマギーリ神が教えてくれる」などという答え方をしている。それは奇をてらって言っているのではなく、本当にそのようにしか答えられないほどの直感的に思いついているからだ。作中でもラマヌジャンはイギリスのケンブリッジ大学に招聘された後に、公式の証明をしないことを欠点であると指摘されている。しかし、映画でも描かれているが、彼の閃いた公式は確かに証明せずとも恐るべき精度を誇っていた。

ラマヌジャンの直感によって導き出された公式・定理が正しかったことが証明されたのは、彼の死後何十年も立ってからのこと。広島大学大学院理学研究科教授の木村俊一氏によると、ラマヌジャンの発見した疑テータ関数はブラックホールの研究に登場し、整数論的な期限を持つタウ関数についての予想は、ラマヌジャングラフとして回線の切断に強いインターネット網の研究につなが」っているとのこと。また彼がノートに残した公式は、長い年月をかけて証明され、1997年にはラマヌジャン・ジャーナルという研究誌が発行された。

第一次世界大戦のさなか、病によって若くしてこの世を去ったラマヌジャンは、驚くべき直感力で千里眼のように数学の未来を見通していた。こうした数学に関する感性がどういうものか触れるのに、本作はとても良い。『1729』というただの4桁の数字を、面白がったりするような世界を見てみたいと思える。上質な友情ドラマだけでなく、数学の魅力にも気づかせてくれる作品だ。

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