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創作の生みの苦しみと喜び描く「ノーマ 東京」

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世界一のレストランと言われる、デンマークのノーマ。独創的な創作料理で有名で、「世界の世界のベストレストラン50」に2010年・2011年・2012年・2014年には1位を獲得している。4回頂点に輝いたのは、スペインのエル・ブリに次いで2番目に多い数。エル・ブリが2011年に閉店しているので、現役のレストランとしては最も多く世界の頂点に立ったレストランだ。

ちなみに2010年から2012年まで3連覇を達成しているが、2013年には2位に滑り落ち、翌年再び1位に返り咲いている。ドキュメンタリー映画「ノーマ、世界を変える料理」という、その復活劇の顛末を捉えた作品があるが、今回紹介するのはノーマに関する別のドキュメンタリー映画だ。

「ノーマ 東京」は、2015年1月に東京で期間限定店を出した時の様子を捉えたドキュメンタリー映画だ。わざわざ本店を一時閉店にしてまで、東京に来た彼らの思惑と、その創作料理が生み出される過程を丹念に見せてくれる。彼らはただ東京にやってきて、ノーマのいつものメニューを出すのではない、日本でとれた食材を生かして新しい創作料理のチャレンジするのだ。

ノーマは北欧の食材しか使わないことで有名だ。その彼らにとっては、日本の食材は未知の世界だ。「生魚を出すほど愚かなことはない。生魚を我々より扱えるシェフはこの国にゴロゴロいるだろう」と彼らは言う。ではどうしてわざわざ東京にやってきたのか。巨額のオファーがあったから? ノー。持ちかけたのはノーマ側だ。彼らは敢えて自分達の築いてきた得意なフィールドから抜け出し、全く新しい刺激を得たかったのだという。

映画は、創業者レネ・ゼネぴ率いるメニュー開発チームのトライ&エラーを中心に描いている。シェフたちは、ついついいつもの自分たちの成功に縛られ、本店と同じものを作ろうとしてしまう。それをレネが一喝する。それではわざわざ東京までやってきた意味がない、と。

成功体験から抜け出すのは容易ではない。人は経験から判断する生き物だ。それを捨てて、新しいことにチャレンジする、と口で言うのは簡単なことだが、実際にそれを実行に移そうとすると、いつのまにか過去を反復していることがある。全く新しいことを判断するのは本当に難しいことだろうと思う。そうして成功体験をいかにして捨てるか、というのは本作の見所の一つとなっている。

もうひとつの見所は、日本の食材の豊かさだ。レネとメニュー開発チームは、日本全国を足で周り、みずから口にすることで使用する食材を集めていく。彼らがすごいのは、森のよくわからない葉っぱやキノコなどにも興味を示し、それすらも食材として検討してしまうことだ。食材はこうあるべし、という先入観がない。というより、新しい食材に出会った喜びに満ちている。

北海道から沖縄まで周り、自ら集めてきた食材を使って、新しい創作料理を作るため、試行錯誤を続けるスタッフたちを見ていると、創作はあらゆるジャンルにまたがって、トライ&エラーこそが最も重要なことなのだと思わされる。彼らは世界一のレストランのシェフたちだが、インスピレーションなどという軽い言葉で言い表せないような、失敗と探求の積み重ねがある。

本作は料理についての映画だが、広く表現するとはどういうことかと、新しいものを生み出す時の苦しみを描いた作品でもある。あらゆるクリエイティブな職業の人に広く共感できる作品だ。

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