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【インタビュー】もし徴兵制が日本にあったら。石川慶と太賀が思い描く十年後の日本『十年 Ten Years Japan』

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 是枝裕和監督がエグゼクティブプロデューサーを務めたオムニバス映画『十年 Ten Years Japan』が11月3日より公開される。

 本作は、十年後の香港を描いた映画『十年』から始まった国際共同プロジェクトで、日本、タイ、台湾の若手監督たちが十年後の自国を思い描くというコンセプトだ。日本からは早川千絵、木下雄介、津野愛、藤村明世、石川慶が参加、それぞれが思い描く日本の十年後を映像に切り取っている。

 その中の一編「美しい国」は日本に徴兵制度が導入され、その告知キャンペーンを担当する広告代理店の男性が主人公だ。デザインの変更を上司に告げられ、その報告のためにデザイナーの天達の元を訪れる。そこで戦争で父を失った経験を持つ天達から、デザインの真意を教えられる、という物語だ。

 このエピソードを担当した石川慶監督は『愚行録』で鮮烈な長編デビューを飾った実力派で、多くの巨匠監督を排出したポーランドのウッチ映画大学で映画製作を学んでいる。主演の太賀氏は、『淵に立つ』などの深田晃司監督作品の常連でもある実力派俳優だ。

 2人に本作への想いについて話を聞いた。

 

徴兵制を題材にした理由

石川慶監督(左)と太賀さん(右)

――この映画は十年後の日本がテーマですが、徴兵制という題材を選んだのはなぜですか。

石川慶監督(以下石川):徴兵制はモチーフとして考えています。一番やりたかったのは表現の自由について考えることです。僕自身、映画やテレビ作品を作っているわけですが、知らず知らずのうちに自分が何に加担しているのかについて自覚しておきたかったんです。

 昨今では東京オリンピックをまもなく迎えるという状況で、スポンサーなのか他の誰かの意向なのかよくわからないけど、変なものが入り込んできている気がしていたんです。そういう今の状況を踏まえた上で、十年後何が大きく変わっているだろうと考えた時に、徴兵制は意外とあり得るかもしれないと思ったんです。

 
――徴兵制は物議を醸す題材だと思いますが、エピソード全体からは敢えてそれが感じられないような作りになっていると感じました。主人公の渡邊を含め、それが当たり前の日常を送っている印象ですね。

石川:戦時下のピリピリした空気感よりも今の我々の日常をイメージして作っています。撮影当時は北朝鮮が頻繁にミサイル発射していたキナ臭い時期だったんですが、太賀くんには外で戦争が起きていることは意識せずに、普通に日々仕事しているイメージでとお願いしました。

太賀:今の僕と同世代の会社員の方々の延長線上にいる人物を意識して演じました。十年後の日本と言っても日常は地続きだと思うので、そこが乖離してしまうと未来についてのリアリティも無くなってしまうだろうと思ったんです。

 
――本当にリアリティのある芝居でした。徴兵制がもし始まっても我々は何事もないように日常を送っているんじゃないかと思わされましたね。渡邊を演じるうえで、気をつけた点はなんでしょうか。

太賀:監督からは、渡邊はどこにでもいる人として演じてほしいと言われました。個性が強すぎても映画の本質が見えにくくなってしまうので、そこは気をつけましたね。

 
――脚本段階から渡邊は太賀さんをイメージされていたのですか。

石川:そうですね。太賀くんはこの世代ではピカイチだと思っていましたから。

太賀:ありがとうございます。

 
――太賀さんは脚本を読んだ時、どう感じましたか。

太賀:商業映画でこういう題材を扱うことは、なかなかありませんから出たいと本当に強く思いました。僕は、映画はエンターテインメントだけじゃないと思っているので、こんな風に一つのテーマのもとで、しかも他の国とも連動してやれる機会は、映画に関わる人間として参加しない理由はないと思いました。

©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

――石川監督は2003年から2008年までポーランドで暮らしていたそうですが、その頃のポーランドにはまだ徴兵制がありましたよね。普段の生活でそれを実感することはありましたか。

石川:僕は大学にいたので、学生は兵役には行きませんから特に意識することはありませんでした。ただ、徴兵制のあるイスラエルや韓国からの留学生も多かったですし、留学前は兵役に就いていた人もいましたね。世界を見渡してみると徴兵制のある国は結構あって、そういう国の人たちを見てきたので、徴兵制が特別だという感覚は、一般的な日本人と比べると僕は少ないと思いますね。

 
――僕もアメリカに留学していたので、やはり韓国の友人もいました。中には兵役に行きたくないので、こっちで就職して永住するために留学している連中もいました。対照的に兵役終えて来ている人は考え方もしっかりしているし、人として頼もしさもありましたね。徴兵制は一概に良くないものかどうかは議論の余地があると個人的には思っています。

石川:そういう意味では僕も同じ思いで、議論はすべきだと思うんですが、みんな具体的にどういうことになるのか、イメージせずに議論している気がしますね。

 

ゲームはゲーム、現実は現実

©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

――木野花さん演じるデザイナーの天達はVRのシューティングゲームが趣味という設定ですが、この意図はなんでしょうか。

石川:天達にはモデルがいるんですが、その方は80代の人形アニメーション作家です。この人はいつも打ち合わせに行くと、料理をいっぱい出してきてお酒も好きなので飲まされるんですよ。それで全然本題に入らせてくれないんです。(笑) 仕事で来ている渡邊に全く違うものをぶつけてくる人にしたかったので、ゲームがいいかなと。

太賀:天達という人物の骨太な感じがよく出ていますよね。昔の戦争の徴兵でお父さんを亡くしているのに、シューティングゲームに興じているというのはユーモアのある人だなと。

 
――ああいうゲームは表現規制などでよく槍玉に挙げられるタイプのものですね。

石川:ゲームはゲームじゃないですか。物事の本質がきちんとわかっていれば、ゲームとして楽しめるし、その辺がふわっとしている人こそ、ゲームの影響がどうしたと言い始めるんじゃないかなと思うんですよね。太賀くんが言った通り、あれは天達の骨太さです。それとこれとは違うんだということがきちんとわかっている人なんです。

 

いつの間にか自分の仕事に「忖度」が入り込んでいる

――ご自身の普段の仕事に変なものが入り込んできている気がするというお話がありましたが、それは具体的には何でしょうか。

石川:最近では忖度とよく言われますが、暗黙の了解で「これには触れないよね」みたいなものです。誰に言われたわけでもないのに、なぜかそう決まってしまっていることってよくありますよね。

 例えば戦時中、画家や小説家なんかも戦意高揚に協力させられていたわけですけど、それは協力するつもりだったのか、それとも気がついたらそうなってしまっていたのかわからないと思うんです。ですので、自分の普段の仕事の中でもそういうものってあるんじゃないかと思ったのが、今回のアイデアの出発点です。

 
――今のお話が、太賀さんが演じた主人公のあり方に反映されていますね。広告代理店に勤めていて、徴兵制のポスターを仕事だからと言われるままに作っている人物です。

石川:そうですね。忖度は誰かが具体的に指示しているものではないので、やっちゃっても結局だれも責められないじゃないですか。実際、それぞれの人は一生懸命自分の仕事をしているだけですけど、そういう主体性のないものの方が怖いと思うんですよね。

 
――太賀さんは普段のお仕事で、監督がおっしゃったようなものを感じることはありますか。

太賀:世の中には気づいたら流されていることがいっぱいあって、そういう中で自分が選択したことはなんだろうってことは日々考えます。渡邊も今まで疑問を持たずにいたところを、天達に出会ってそのことに気づいたんだと思います。

 
――全然関係ないはずなんですが、僕はこのエピソードを観てなぜか東京オリンピックのボランティア募集のことが頭に浮かびました。監督は東京オリンピックについて何か思うことはありますか。

石川:僕自身スポーツは好きなので楽しみにしていますが、その反面大きなお金の動くものなので、これによって誰が得して、実態はどうなっているのかとか考えてしまいますよね。僕はテレビの仕事もしているんですが、企画募集の時もオリンピックに絡めたものを求められることが多いんですよ。他には日本をアピールする企画も通りやすい傾向にあるので、何か潮目が変わってきているとは思いますね。

太賀:映画でも今回の作品のように、ガッチリと社会と向き合うタイプの作品はなかなかないですよね。そういう作品を是枝さんみたいな立場の方が率先してやってくれることに、僕はすごく希望を感じます。

石川:そうですね。是枝さんよりももっと上の世代の大林宣彦監督もまだ現役で、しかも最前線で戦ってらっしゃるのに、下の世代の僕らがどうせ企画通らないからなんて言っているのは情けないなという思いもあってこの企画を出したんです。

 

ノルウェー人とスウェーデン人の健全な言い合い

©2018 “Ten Years Japan” Film Partners

――作中「落とさないようにね、バトン」というセリフがありますけど、監督は上の世代の映画監督たちからバトンを受け取るような気持ちもあったのでしょうか。

石川:そうですね。主義主張に100%賛同するわけじゃないのですが、こういう議論はもっとすべきだと思うんです。昔の映画界ならもっと活発に議論もしていたんじゃないかと思いますし。

太賀:今はそういう話すらしない方がいいという空気がありますもんね。

石川:今思い出したんですけど、ポーランドの大学で第二次世界大戦の話になったことがあったんです。ポーランドは迫害された側で日本はその逆ですよね。その時韓国人の友人も教室にいましたし、僕はあまりこの話には立ち入りたくないなと思っていたんですが、ノルウェーとスウェーデンの連中が、お前の国は戦わなかったよなとか、ウチは最後まで戦ったぞとか冗談で言い合いを始めたんです。それを見て、ああこれは自粛して話せないよりもずっと健全だなと思いましたね。

 今の日本は、いろんなことが発言しにくくなっていますけど、少なくとも映画はもっと自由であってほしいと僕は思っているんです。

 

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