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アンソニー・ウォン主演『白日青春 生きてこそ』自由のために香港に来た男が、自由のために香港を出る少年を見送る物語

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【1月31日追記】

 冒頭は香港の鴨洲だそうです。ご指摘いただきありがとうございました。霞む香港の街は「香港とは何か」との問いかけに見えるとのこと。

 なので、僕の冒頭の解釈はちょっと違うことになりますが、敢えてこのまま残しておきます。
 
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この映画の冒頭は、アンソニー・ウォンで扮する主人公>バクヤッが河(深圳河?)を見つめているシーンから始まる。うっすらと向こう岸に大きなビル群が見える。多分、香港側から大陸側を見ているのかなと思ったのだけど、合っているかわからないが、この始まり方は重要だ。これと同じようなシーンが終盤にも出てくる。

 この河を見て男は何を想うのか、と観客は考える。冒頭と終盤、二回目撃するそのシーンはそれぞれに異なる観客に与えるはず。

 それは今の香港についての感慨をもたらすかもしれない。香港の名優、アンソニー・ウォン主演のこの映画は今の香港を静かに映し出している。2019年の国安法に対する大規模なデモ以降の香港の一断面をそこに見て取るこもできるし、香港の今と昔、あるいは変わらない部分も写っているように思う。

 直接、弾圧や自由について描写していない作品なのだが、物語の構造によって「香港に今、自由はあるか」という問いが浮かびあがらせている。
 
 

移民の中継地・香港ならではの物語

 パキスタンから香港に移民としてやってきたある家族がいる。ハッサンの夢は香港を経由してカナダに移り住むことだ。香港ではまともな職にありつけていない家族はその日暮らしのような状態で、香港では家族の未来は保証されないと感じている。

 ある日、タクシー運転手のバクヤッはハッサンの父親を事故で轢いて殺してしまう。難民嫌いのバクヤッだったがさすがに自責の念にかられ、家族の様子を見に行くが、ハッサンはギャングに入りびたるようになって家に戻ってきていないという。バクヤッは、母親の頼みでハッサンを探すことに。

 そのプロセスで香港に暮らす難民の現状を知り、ハッサンを守ろうとバクヤッは考える。彼らをなんとかカナダに送り出すために密入船を手配しようと努力する。自由を求める彼らの姿に、バクヤッはかつての自分を重ねていた。チャン自身、自由を求めて大陸から香港に泳いで渡ってきた過去があるのだ。

 
 本作は、かつて自由を求めて香港にやってきた男が、自由を求めて香港から出で行こうとする少年を支援するという物語構造になっている。

 実際に香港は移民・難民の中継地点のようなところで、ここで10年かけてでも申請しても時には10年かかることもあるのだとか。この映画に登場する少年ハッサンは香港で生まれ育ったパキスタン人で、長いこと留め置かれた不自由な状態しか経験したことがないことになる。だからこそ、香港は不自由だと感じている。

 ある意味、自由を求めて香港に来る時代は終わりを告げ、自由を欲する人は外に出ていく時代ということか。移民という特殊な状況におかれた人にだけ、それは言えることかどうか、昨今の香港情勢と重ねると何かそれ以上のことを考えたくなる。

 本作の監督は、移民出身のラウ・コックルイ。これが長編デビュー作だ。ドキュメントタッチの手触りでアジアのハブとしての香港の側面をリアルに切り取って見せた手腕が素晴らしい。移民を描いているということもあるが、全体的にダルデンヌ兄弟の作品に雰囲気が似ていると思った。
 

 

若い世代に香港の希望を託すアンソニー・ウォン

 アンソニー・ウォンには、2020年公開の映画『淪落の人』の時にインタビューした。これが久しぶりの映画出演だったのだけど、なぜ彼が映画に出られなくなっていたかというと、2014年の雨傘運動を支持したことが原因だ。

 『淪落の人』は32歳の新人監督の作品で、フィリピンからやってきた家政婦の女性と心を通わせていく物語だ。『白日青春』と共通点がいくつかある。

 『淪落の人』にはノーギャラで出演したのだが、その理由について彼は笑いながら「中国政府から目をつけられて仕事ができなくてヒマだった」と言っていた。そして、皆が知る「自由な香港映画はもうない」とも言っていた。

 「今、香港はどんどん中国に似てきています。政府は様々な制約を増やしていますが、中でも政府が一番恐れているのは、文化や芸術の持つ力です。例えば、学校の教室で学級委員長を決めるという物語を作ろうとします。そうしたら、政府は『それは一党独裁への批判のつもりか?』と圧力をかけてくるほどに神経質になっているんです」
『淪落の人』自由を失くした香港映画の未来のために。デモ支持で封殺された名優アンソニー・ウォンの思い | ハフポスト コラム・オピニオン

 だから、新しい香港映画を若い世代に作ってほしいと彼は思っている。『淪落の人』も『白日青春』も若手監督による、新しい時代の香港を映した作品と言えるが、こうした映画に出演しているアンソニー・ウォンは有言実行な人だなと本当に思う。新しく香港映画を担う人材に、力を貸そうとし続けているのだ。

 ハッサンに過去の自分を重ねて、香港から送り出す時主人公が河を見つめるその心に何が去来しているのか。それは若い世代に希望を託すアンソニー・ウォンの姿とも重なる。新しい世代に新しい事由を託すようなその眼差しが心に響く作品だ。

 
公式サイト:白日青春 生きてこそ 
 
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