昨日(10/01)現代ビジネス×MIAU主催のシンポジウム「違法ダウンロード刑事罰化を考える」に行ってきました。
2009年の法改正でそれが著作権侵害と知りつつ、ダウンロードすることは違法、となりましたが実際の罰則はない(施行は2010年1月から)、というのが現状でそれでは抑止効果が無いとにらんだレコード会社がさらに踏み込んだ法案を作る動きが出てきています。それに鑑み、MIAUさんの方ではこの動きの背景と妥当性。社会に与える影響などをしっかり考え、ウォッチしてべき、との趣旨での開催。現代ビジネス主催で、開催場所は出版元の講談社でしたが、とても重要なポイントと思います。広くコンテンツへの影響が懸念される法案なので、コンテンツ配信元である出版社がこうしたシンポジウムに協力している、というのは前向きに捉えていい点だと思います。
以前、アメリカで今MPAAとレコード会社を中心にProtect IP法案というのを通そうとしている、という記事でも書きましたが、アメリカでも映像産業、音楽産業は、ネットに対して敵意を持って自分らに都合のいい法律を通そうと様々な力を行使してきます。過去に書いた記事も参照しつつ日米ともに見られるこのネット規制とも云える動きについて考えてみたいと思います。
今回レコード会社より提案されている違法ダウンロード刑事罰化の法案は、非常に厳しい内容になっていますが、このような法案が画策されるに至った経緯を簡単におさらいしましょう。
インターネットが普及し、様々な情報が瞬時にやり取りされるような時代になりましたが、同時に様々な問題を引き起こしました。その一つは著作物の違法な公開、やり取りです。インターネット以前の時代は、例えばCDを友達間で貸し借りしてコピーしてもそれは「私的利用」の範疇で基本的には合法。それを営利目的で大量配布するなどしたばあい、違法だったわけですが、ナップスターのようなファイル交換ソフトの登場でこの「私的利用」の範疇が拡大、ファイル交換ソフトを使ってネットに繋げば事実上タダで著作物がコピーできてしまう状況が出来上がったため、法改正が必要となり、ダウンロードだけなら私的利用だが、アップロードは配布行為にあたるというを基本的な解釈として長くアップロードを違法としてきました。(P2Pの場合、ダウンローダーが知らずのうちにアップローダーにもなり得るとか、そういう技術的な話も大事ですけど、今回は割愛。話せば長すぎるので)
でも、それでも一向に減らないネット上での著作権侵害行為に、更なる法改正が求められ、昨年からそれを著作権侵害と知りつつダウンロードした場合も私的あな目的であっても違法、となりました。ただし、特に罰則規定は無く、実際の摘発件数も0。しかも一般の多くの人がこの法改正について知らず、昨日のシンポでは、国民の半分弱はダウンロード違法化を知らない、という現状です。ダウンロードが違法化されても実際抑止力として効果の出ていない現状を鑑みて、ダウンロードの刑事罰をつけるような法案を議員立法で通そう、という動きが最近になってでました。なんで議員立法で通そうとしているかというと、行政立法だと審議会などと通して、パブリックコメントを取る必要も出てくるから。ちなみに違法化も刑罰化も対象はダウンロードのみでストリーミングは対象外。ただ、昨日のシンポのパネラーの発言によると、レコード会社などはゆくゆくは、ストリーミングも対象にしようと考えているらしい。
コンテンツ大国であり、IT大国でもあるアメリカではこの辺の事情はどうなんでしょうか。
アメリカでも違法ダウンロードはすでに刑罰化されおり、実際に告訴され多額の損害賠償を命じられたケースもあります。人気のP2Pソフト、LimeWireが裁判所によって配布を停止され、実際に楽曲の違法ダウンロードは減ったという統計もあります。でも、実際には正規流通の音楽の売り上げが回復したわけではないという。。。。まあ、Torrentなどの新しいファイル共有に移行しただけ、というのもありますが。実際、こちらのグラフを見るとBit Torrentのアメリカのウェブにおけるトラフィック占有率は結構多いですよね。それ以上にNetFlixという正規のストリーミングがすごいんですが。。。
Bit Torrentを巡る訴訟では、ハリウッドの映画会社、Nu Image社が自社制作のエクスペンダブルズをダウンロードした23000人を相手にした集団訴訟を起こしたなどの事例があります。刑罰化が施行されるとこの手の訴訟が日本でも増えるんでしょうか。アメリカの場合、賠償額がやたらデカいので訴える側のメリットが大きいですが、日本ではどうなるか、告訴に必要な費用や手間隙を考えるとアメリカのようなケースが考えにくいかもしれませんが。
アメリカの事例を見ていて興味深いのは、告訴するには、ダウンロードした個人を特定しなければいけないんですが、IPアドレスは個人を特定するものではない、という判例があるんですね。Harold Baker判事によるケース1-1017 でカナダのポルノ制作会社が、Torent経由でダウンロードした者たちに対して訴訟を起こしましたが、その時の判例ですね。ただ、却下されてもこれって訴訟された側には恐怖です。告訴を取り上げる代わりに和解金をせびるというのが、この手のポルノ会社のやり口で、エクスペンダブルズの集団訴訟にしても、上記の判例がある以上、訴えようあるのかよ?って気がしますが、訴訟をちらつかせれば和解金を取れるという魂胆が見え隠れします。しかもアメリカでのこの手の訴訟の和解金は500〜2000ドルとも云われてますから、仮に1万人が1000ドル払ったら、1千万ドル、日本円で7億から8億くらいになります。一般的な映画の興行収入超えてますね。。。
これはアメリカでの例ですが、日本でも違法ダウンロードが刑罰化されれば、こうした訴訟というのもやはりでてくるのかもしれません。極端な話、わざとダウンロードさせといて後で高額な請求をするということもできるわけで。それがアメリカのポルノ制作会社がやってる手口なわけですが、日本でもそういう動きが出てきたらホントに嫌ですね。刑罰化は、そうしてヒドい状況を生み出す第一歩になってしまいそうで怖いです。
アメリカの場合、違法ダウンロードが現象傾向にあるのですが、それが刑罰化の影響かどうかは、よくわからないところです。なぜならNetFlixやSpotifyのような合法で安価で、便利にコンテンツを享受できるサービスが次々と生まれてきてるからです。LimeWire停止後、違法ダウンロードが現象したと先に書きましたけど、それで音楽の売り上げが上がってるわけでもないです。ということは、ダウンロードをいくら取り締まっても、実際には何の効果があんのよ?って話です。実際、アメリカでも既存のコンテンツ産業は、シリコンバレーに押されちょっと斜陽気味ですが、刑事罰化しても売り上げ戻らんと見るや、次の手をすでに売ってきてまして。Protect IPという法案がMPAAやRIAAのロピーイングから誕生しまして、これは検索エンジンやプロバイダに著作物侵害をしているサイトへのディレクトリをすべてシャットアウトできるようにする、というもの。要点は以下の三点
- 司法省は著作物を侵害、あるいは法に触れる悪質なウェブサイトへのあらゆるディレクトリ、information location toolsを削除するよう要求する権限を持つ。
- DNSプロバイダーは、指定された悪質なウェブサイトのブラックリスト作成し、アクセスを遮断せねばならない。
- さらに著作権保持者は、特定のウェブサイトへのアクセスをブロックを命じるよう裁判所に要求できる。
ダウンロード行為を止めれないなら、そこに至るパスを全て塞いでしまおう、ということですね。これだと現行の法では裁けない海外サーバーを利用したサービスにも影響必至です。だって検索しても引っかからないし、プロバイダにアクセス遮断するよう裁判所を通じて命令することができますから。日本のレコード会社も刑事罰の次はこれをやってくるかもしれませんね。刑事罰も怖いけど、正直ぼくはこっちのが怖いな、と思いますね。
このProtect IP法案に関しては、以前書いたこちらの記事にもうちょい詳しく書いてますんで、興味のある方はどうぞ。
ネットの革新を殺すProtect IP法案と先鋭化するハリウッドVSシリコンバレー
刑罰化されると、実際ダウンロードした人間を一斉摘発なんてことには恐らくならなくて、その都度適用したり、しなかったりとやたらと恣意的な運用をされる懸念があります。別件逮捕の材料に使われることもあり得るかもしれません。何より、ダウンロードが違法で罰せられる、というだけで僕らの中には恐怖感が芽生えて、積極的なインターネットでのコンテンツ利用ができなくなるでしょう。それでこの国の文化が豊かになるとも思えないわけで。白田さんは、逆に既存コンテンツの締め付けが厳しくなれば、UGCによって生まれたコンテンツの需要が増えるきっかけにもなり得るので、むりそ積極的に推進した方がいいかも、という皮肉を仰ってましたが。まあでも、落合弁護士も仰ってましたが、なんでもかんでも罰則で対処する、というのはなんとも寒い社会だな、と思います。ていうか、NetflixもSpotifyもないこの国で、しかもやたらとCDの値段も高くてどうしろってんでしょうかね。そんなんじゃコンテンツ利用利用できないですよ、もう。
参考リンク一覧
現代ビジネス×MIAUシンポジウム「違法ダウンロード刑事罰化を考える」(2011.10.1)Twitter中継(多元中継ver.)
徹底検証!違法ダウンロード刑事罰化 MIAU Presents ネットの羅針盤
現代ビジネス×MIAU 違法ダウンロード刑事罰化を考える 解説資料
著作権を理解するために役立つ本10選