http://imall4frogs.tumblr.com/より転載
インターネットが多くの人を引きつけている最も大きな要因は、そこに自由があるからです。このネットの自由が大きく奪われるかもしれません。
10月26にアメリカ下院議会に提出された法案、the Stop Online Piracy Act(通称SOPA)が現在、アメリカの議会、IT産業、ハリウッドを始めとする著作権産業の間で議論が沸騰しています。この法案は、今年5月に上院に提出されたProtect IP Actの発展系とされており、民主・共和党両党の超党派体制で推進されているネット規制法案であり、司法省と著作権保持者が著作権違法行為を働くウェブサイトにサービスを提供しているISP、検索エンジン、ネット広告提供者や決済システム業者などに対してサービス提供の停止させることを可能にするものです。もしこの法案が議会を通過した場合、あらゆるウェブサイトが検閲の対象となり、今後のインターネットの発展に大きな損害を与える恐れがあります。
この法案の主目的は、アメリカの映画や音楽などの著作物を保護すること、及びそれらの産業に従事する人々の雇用を守ること、とされています。下院司法委員会のプレスリリースは、アメリカの著作物の侵害によって被っている損害額は年間で1千億ドルで、数千の雇用が失われているという発表をしています。
- インターネットサービスプロバイダ(以下ISP)は、実現可能かつ合理的である限り、アメリカの著作物を侵害しているサイト(その違法性がサイトの一部にでも認められれば)へのアクセスをブロックするよう対策せねばならない。その行為は、出来るだけ速やかに、遅くとも法廷からの命令があった5日以内に実行されねばならない。
- 検索エンジンは、実現可能かつ合理的である限り、できるだけ速やかに、遅くともは法廷からの命令があった5日以内に、海外の違法サイト(その違法性がサイトの一部にでも認められれば)を検索結果から除外せねばならない。
- 決済ネットワーク提供者は、実現可能かつ合理的である限り、 できるだけ速やかに、遅くとも法廷からの命令があった5日以内に、海外の違法サイト(その違法性がサイトの一部にでも認められれば)へのアメリカ国内の顧客からの決済プロセスを禁止あるいは一時停止せねばならない。
- 海外の違法サイト(その違法性がサイトの一部にでも認められれば)と広告提供の契約をしている、またはそれらのサイトの広告掲載を請け負っているインターネット広告サービスは、 実現可能かつ合理的である限り、 できるだけ速やかに、遅くとも法廷からの命令があった5日以内に、あらゆる広告の出稿と掲載を停止せねばならない。
- 著作権保持者は、もし違法サイトが著作権保持者の要請に応じなければ、上記の措置を取るよう裁判所に要請することができる。
- アメリカの知財の盗用を目的としたインターネットサイトに対して適用される法であるが、定義が複雑かつ非常に曖昧であること。事実上、地球上のあらゆるサイトが対象になる可能性がある。
- Section 102において、同法案はISPに対してブラックリスト化されウェブサイトへのアクセスを無期限にブロックするよう義務づけている。Protect IP Actとは違い同法案はその義務をドメインのフィルタリングに限定していない。政府はあらゆるアクセス制限措置を、それが「技術的に実現可能で合理的である限り」、ISPへ実行するよう裁判所通じて命令できる。その「技術的に実現可能かつ合理的」とはどの範囲を示すのか、この法案は具体的な言及がなく、IPアドレスブロックやパケットフィルタリング、または今後開発されるかもしれない未知の技術まで含んでしまう可能性がある。
- Section 103は、クラウドコンピューティング、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を支えるプラットフォームサービスにとって非常に重要なSafeGuard規定を覆してしまう。写真やビデオ共有サイト、SNS、ブログなどのあらゆるUGCサービスに影響がある。このセクションの定めるところによれば、それらのサイトはアメリカの知財の盗用であると見なされ、決済サービス、広告などを停止に追い込まれるという法的なリスクにされされることになる。このようなリスクは、著作権侵害を犯したたった一人のユーザーによって課せられてしまう可能性があり、デジタル・ミレニアム・コンテンツ・アクト(通称DMCA)の定めるSafe Harborはこのための防波堤にならなくなる。
- Section 103はしかも、「サイトの一部」だけが著作権侵害をしている場合にも、サイト運営者に責任があると見なされる。この一部という言葉が、サイトのどの程度の範囲を示すのか、ここでも曖昧で、実際にこれを巡って争ったら判決がでるまで何年もかかりそうだが、はっきりしていることは、あらゆる大規模なウェブサイトはたった一つの著作権侵害のコンテンツによって広告収入も決済システムも停止され、サイト全体のサービス停止に追い込まれるリスクに直面するだろうということだ。
- さらにこのSection 103の下においては、あらゆるウェブサイト ―米国内であれ海外のものであれ― を対象にしている。もしあなたのサイトが「米国の著作権侵害を助長していると見なされるのを手の込んだ手口で持って避けようとしていると見なされた」場合、アメリカの知財の盗用を目的としたサイトとされる。これはあらゆるウェブサイトに対して「意図的な見逃し」と見なされることを防ぐために、全てのユーザー生成コンテンツをモニタリングすることを強いることになるだろう。しかし、どんなサイトも毎日数多くのユーザーからアップロードされるコンテンツ全てを監視しきることは到底不可能。
この法案に対してIT産業からは激しく反対の声があがっています。Google、 Twitter、 Facebook、AOL、eBay、LinkedIn、Mozilla、Yahoo!、Zyngaらが署名した連邦政府に宛てた書簡を公開し、NY Timesに共同で1ページ大のこの法案への反対を訴える広告を掲載しています。またtumblrは独自にユーザーに反対の電話やメールを議会にするように呼びかけています。tumblrの公式発表によると、電話は公聴会の翌日11月16日だけで87,834件もされたようです。その他、消費者団体や、パブリックセクター、エンジニアやインディーズクリエイターなどが相次いで反対の声明を出しています。
逆にこの法案を支持しているのは、MPAA、RIAA、や全米映画監督協会、全米映画俳優協会、American Federation of Television and Radio Artists、American Federation of Musiciansなどの著作権産業を代表する各団体、コムキャストやヴィアコムなどの映像産業の大会社などですが、テック系の団体にも支持を表明しているものもあります。ビジネス・ソフトウェア・アライアンス(通称BSA)はこれに正式に支持を表明しています。この団体に参加している主な会社にapple、マイクロソフト、アドビ、Dell、インテル、HPなどがあります。(くわしくはこのWikipediaをどうぞ)このうち、マイクロソフトはSOPAの前身であるProtect IP Actに関しては正式に支持を表明していましたが、今回The Next Webというテック系ニュースサイトがメールにて今回の法案についての考えを質問したところ、「ノーコメント」という返事が帰ってきたそうです。マイクロソフトも主要メンバーに名を連ねるBSAが支持を表明している以上、ノーコメントだから中立的立場、というわけでもないのでしょうが。(11/23追記:11/21 Business Insiderの記事で、BSAはSOPAは、改善が必要との声明を発表したとありました。完全な反対という立場ではなさそうですが、世論を見て立ち入りを変えてきたのでしょう。The World’s Top Tech Giants Are Finally Backing Away From That Online Censorship Bill)
今日、インターネット上で多くのイノベーションが生まれているのは、そこがオープンで自由であるからです。もしこの法案が通過すれば、インターネットで活動する小さな会社やスタートアップは、苦境に迫られることになるでしょう。それどころか、インターネットというもののあり方そのものが根底から覆ってしまうんじゃないでしょうか。クリエイティビティとイノベーションは自由とオープンな公共性に支えられているものです。こういう悪法を許すべきでは絶対にないと思います。そしてアメリカでこうした悪い成功例だ出来てしまえば、当然日本の既得権益産業も追随します。最近話題になった違法ダウンロードの刑罰化が良い例でしょう。
こちらのサイトでこの法案に反対する署名ができるサイトを紹介しています。インターネットの自由を守りたい方は署名しましょう。
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