インターネットを規制する法案にGoogleのようなネット企業が反対するのは、ある意味当然のことです。彼らは利害当事者なわけですから。しかし、インターネットはこれからのあらゆるクリエイティブな活動を支える土台になっていきます。Stop Online Piracy Actのような法案によって被害を被るのはネット企業だけに留まらない可能性があるわけです。それこそこの法案を推進する映画産業にも実は被害が及ぶ可能性があります。そうした観点からSOPAを考えるために、今回はハリウッドではたらくフィルムメーカーであるRoss Pruden氏がTechdirtに投稿した記事を紹介します。翻訳にあたってはRoss氏本人の許諾を得ています。
オリジナルの記事は11/14にTechdirtに投稿されたものです。
なぜ全てのフィルムメーカーはSOPAに対して反対を叫ぶべきなのか
- 1999年当時、私はメディア・コンテンツを違法に利用する海賊版行為に対して強行に反対していた。許可なくアーティストの作品をリップオフすることは間違いであると考えていた。
- 2011年の今、私は(1999当時の)私が間違っていたのだと確信を持って云える。
私は、監督、脚本家、助監督、スクリプター、製作など様々な立場で20年間映画産業で働いてきた。ここ10年間は、インターネットから巻き起こる多くの社会的変化を目の当たりしてきたし、映画産業にも多くの変化起こったのを見てきた。似たような変化を90年代の音楽産業が経験していた。音楽産業や映画産業で働く我々にとって、海賊行為の横行は、スタートレックの惑星の殺し屋がどんどん近づいて来るような差し迫った恐怖であった。
私は、7年ががりでこの時代の変化がいかにして起こっているのかを理解しようと努め、遂に1つの真実を掴んだ。海賊行為を止めるのは不可能なのだという真実を。長期的視野で見ると、メディア・コンテンツの改造行為というのは、まだ多くの人がマネタイズ方法を理解できていない新しいテクノロジー(インターネット)誕生の兆候なのだ。DVDの二時販売によって映画スタジオが築いた帝国は、インターネットの台頭によって脅かされている。もしDVDが何のお咎めもなくコピー可能だとしたら、どうDVDを売ったらいいだろうか?しかし、そういう危惧を抱いている人たちは、VCR(ビデオカセットレコーダー)登場した時にも同じことを云っていた人たちであり、結局VCRは彼らが危惧したような大量破壊兵器ではなかった。実際、ビデオ販売/レンタルは長期に渡って大きな利益を生むことが判明した。
1999年当時の私ならSOPAを支持していただろう。そしてそれは大きな過ちだったろう。もし時をタイムスリップできるのなら、私は以下のこと1999年の自分に伝えたい。
- SOPAはそれがターゲットにしているものに対して効果的ではない。著作権侵害を行っている連中というのは、大抵監視の目が行き届かない所にプライベートネットワークを持っている。だから、仮にSOPAがいくつかのサイトのシャットダウンに成功しても、違法海賊行為は法的機関からはもっと見つかりにくい別の場所に移動するだけだ。さらに重要な点は、違法なファイルシェアを止めたところで顧客の購入意欲の向上には繋がらないということだ。
- ネットは検閲を障害として認識して迂回しようとする。インターネットは軍の機関であるDARPA(国防高等研究計画局)によって作られ、当初のデザインは、核爆発によってネットワークの一部が破壊されても自動修復するものだった。(訳注:タイム詩のこの記事が元ネタだと思いますが、この説は真偽のほどは定かじゃないですね)東海岸が破壊されたとしても問題ない。情報流通の新しいpathが自動的に出来上がる。これがインターネットを定義するものだ。これがインターネットが我々の生活を大きく改善し、あらゆる産業がそれを支持しており、我々がインターネットを使い、愛して止まない理由だ。
検閲が不意打ちのように訪れれば、ネットワークは損傷を受けたと認識し、情報流通のため新しい道が「自動的に」生まれる。「自動的に」というのは、ネットワークそれ自体が傷を自動修復させるという意味ではなく、ユーザーが何らかの情報が突然消されてしまった時にも、前もってその情報を別ルートで利用可能にしてしまうということだ。1つのサイトが閉じられれば、そのミラーサイトが別の場所に出現する。そのミラーを殺しても、また別のサイトが立ち上がる。このモグラ叩きはグローバルスケールで起こっており、モグラの数は叩く人の数を遥かに凌駕している。もし映画スタジオが海賊行為を悪と思っているなら、現在ネット上で共有することに慣れてしまっている子供達の成長を待ってみるのも一興じゃないか。彼らは馬鹿げたDRMを回避するための今よりももっと簡単なツールを開発するだろう。DRM、大抵ソフトがリリースされてから数日で突破される。去年、UbisoftのDRMなんか一日ともたなかった。この傾向は、もはや止まることはない。
- 誰もまだ見ぬ未来を見逃すことはできない。Mike Masnickが我々の将来、どんな職業が生まれ得るかを予測することがどんなに難しいことかを、この素晴らしい投稿で語っている。我々は新しいテクノロジーが社会とどう調和しどう機能するかを予測しきることはできないからだ。ラディカルで新しいものが現れる時、それは我々のあらゆる物事に対する理解を混乱させる。人間は本能的に有益かどうかわかるまで変化に対して抵抗してしまうものだが、この新しい技術が社会にとっての便益を生み出すことはすでに明らかだろう。ただ現在の古い技術をベースとした商売にとってみれば明らかというほどの便益があるわけでない。彼らにとって既存の体制を危険にさらす海賊行為は鎮圧せねばならないものなのだ。映画スタジオを成り立たせていたビジネスモデルは、急速に時代遅れになりつつある。彼らは当然そのベースを守りたいだろうし(守りたくない人はいないだろう?)、彼らはかつてのボックオフィスから産み出されたお金の上にふんぞり返って映画を作っていた、古き良き時代を懐かしんだり寂しがったりしている。
しかし、もし彼らが未来を受け入れ、より多くのコンテンツ、雇用、チャンスを作るためにインターネットを活用したらどうなるだろう?彼らは今日の振り返り、どうしてその切り替えにそんなに時間を要したのか不思議に思うだろう。人々は最初変化に抵抗するが、次第に受け入れ、完全にそれに移行しするものだと歴史は何度も示してきた。最終的には、馬に乗ったり、触れ役の話を聞いたり、手書きの原稿を作ったり、あるいは新聞を読んだりすることをい笑うようになるだろう。未来には大きな可能性がある。しかし、その可能性が何なのかは我々はまだ知らない。だったら、これが映画産業の終わりだなどとどうして云えるだろう?本当の未来がどうなるかも知らずに。1906年、作曲家/指揮者であるジョン・フィリップ・ソウザは当時蓄音機の「脅威」について議会でこう証言した。「あのしゃべる機会は、この国の音楽の発展を破壊する。私が子供の頃、夏の夕暮れ時にはどの家でも若い人々が当時の歌や古い歌を歌っていたものだが、今日では人はあの忌々しい機会を昼夜を問わず聞いている。人が猿から進化した過程で尻尾を失ったように、我々は将来声帯を失ってしまうだろう。」ソウザは大の蓄音機嫌いで(コンサート)録音する時は、オーケストラの指揮を拒否したこともある。今にして思えば、ソウザの思い違いは痛々しいほどよくわかる。録音によって音楽産業は、より多くのファンにより多くの音楽を届けることを可能にし、音楽を世界的に活性化させた。現在のスマートフォン文化は我々にあらゆるものを記録できるようにしてくれた。あらゆる事象は記録されなかったら、それはソウザのオーケストラのように永遠に失われてしまう。ソウザは未来を見ることができなかった。しかし、もし彼が未来にタイムスリップできて、人間の生活が蓄音機のおかげで音楽で溢れかえっているのを見たら、彼はおそらく自分の未来予想が間違っていたと思うだろう。
- 海賊行為は新しいテクノロジーの兆候だ。我々はスパムメールをくい止めれるが、海賊行為はスパムほど簡単にはいかない。誰もがスパムメールを止める、あるいは少なくすることには賛成だろう?ではなぜ海賊行為も同様に止めなくともよいのか。なぜなら、少なくとも海賊版の流通にはファン層の拡大効果もあり、価値を創造する大きなチャンスでもあるからだ。スパムメールにはそんなポジティブな可能性はない。
映画スタジオはコンテンツの海賊版が彼らを崩壊させることをもっともらしい理由で恐れている。鉄壁のデジタルコンテンツのコントロールの独占とボトムラインがどんどんさがっていくのを、スタジオは落胆して傍観している。いくつかの産業では雇用が失われることだろうし、実際、彼らはSOPAが雇用を保護してくれるんだと我々を説得しようとしているが(雇用を守ること自体は良いことに違いからね)、新しいテクノロジーが立ち上がれば伝統的な産業の雇用の多くは失われるのが常だ。実際、私は映画スタジオに対して私に対する一時間あたり約$40~$50の賃金を保証するよう交渉してくれるスクリプター協会を愛している。子供の食事のことなどを考えれば、自分の収入は多い方がいいしそれに反対するのは難しい。しかし、もし私が馬車作り職人か街の触れ役、装飾写本家などで、それらの雇用を保護するよう政府に対してロビーイングしていたら、皆、この議論に対して全く別の見方をするだろう。市場というのは、どの雇用が保護されるべきで縮小してくべきかを、見極めるためのとても有効な機能だ。 - 海賊版はサービスにまつわる問題であって技術的な問題ではない。ここがおそらく一番重要な点だ。なぜならそれはもう実際に証明されているからだ。Valve Softwareという会社を経営しているGabe Newellが例にとってみよう。PC用のゲーム市場は海賊版が横行しており、利益を生むことはほとんど不可能だという主張があった。にも関わらずValveのSteamと呼ばれるソフトウェアプラットフォームでは、PCユーザーに対してデジタルコンテンツを驚くほどにたくさん販売している。Valveがロシア市場に参入しようと考えている時に、あそこの市場は絶望的だ、ロシアは全てのコンテンツの海賊版が出回るぞ、と忠告された。Valveはロシアの立法機関により厳しく海賊版を取り締まるよう圧力をかけたりしたのだろうか?いいや。そのかわり、Valveは海賊版よりも良いサービスを提供した。Newellは云う、「ロシアは現在、ドイツを除き我々にとって最も大きな市場だ」と。NewellがSOPAのような法制度成立のためにロビー活動することは決してないだろう、なぜならNewellはインターネットの特性、人々が海賊版に手を出す理由、そして海賊版とどう競争したらいいのかを熟知しているからだ。
これからも繁栄し続けることの映画スタジオとは、インターネットの本質に共感し、消費者が買いたいと思わせるような価値ある希少性を作れるスタジオだ。その他の海賊版とどう競争すべきかを知らないスタジオは恐竜のように絶滅する運命だ。我々はインターネットがグローバルなネットワークであることを理解する賢いプレイヤーに報いるべきだ。過剰に粉飾された法制度の施行は、大切なリソースを低レベルな中国のファイアーウォールのようにしてしまうだろう。より厳しい法制が海賊版を止めてくれることはない。それどころか、海賊版を以前よりもモニタリングしにくくさせるだろう。しかし、そうした法律は我々が知っているインターネットというものを不自由なものにしてしまう。そんなの私はお断りだ。
インターネットは著作権侵害のおかげで弁護士のための(が稼ぐための)場所になっている。SOPAやProtect IP Act、E-PARASITEのような法制度は、単にインターネットを今までよりももっと訴訟好きな人たちのための場にしてしまうだけだ。そんな未来は、消費者もコンテンツクリエイターも誰も臨んでいない。インターネットの使いこなせるようになれば、たくさんのお金を稼ぐこともできるようになる。もしインターネットの活用法を理解できない人たちがいるなら、彼らは絶滅すべきで、他人のオンラインライフを困難にするような法律を通そうとすべきではない。
- イノベーションの進化の過程で、バリケードを取り除きこそすれ、付け加えるようなことはすべきではない。もしYouTubeが存在しなかったら、(消費者と)全てのフィルムメーカーの生活がどうなっているかを想像してみよう。今日、YouTubeは我々にとってのビデオライフの中心的存在になっている。なぜならYouTubeは、我々の手の届く所に多くのコンテンツを提供してくれるからだ。SOPAの問題点は、YouTubeのようなインターネットサービスに巨額の負債とコンプライアンスコストをもたらすことだ。ポストSOPAの世界は、YouTubeを運営する人は数字と睨めっこして、不思議なことに弁護士と相談して抱えるなければいけないコストと負債を計算に入れなくてはならない。
バーン。YouTubeが死んだ。バーン。Kickstarterが死んだ。バーン。その他の我々がクリエイト、配給、プロモート、マネタイズに必要なツールを提供しているインターネット企業が死んだ。もしこれが特許法の暴走の始まりのように感じるなら、あなたは的外れではない。SOPAの目的は横柄な上、その目的を果たせないだけでなく、ストーリーテラー、フィルムメーカーとして必要なサービスを止めてしまう。結論。SOPAは海賊版を止めない、そしてそれはクールでイノベイティブなものを開発する動機をインターネット企業から奪ってしまう。SOPAは、自分たちだけがコンテンツを提供できる存在だと考えている大きなスタジオの助けにはなるかもしれない、しかし、他の全てのフィルムメーカーにとってSOPAは恐ろしいものだ。
もし5年前にSOPAが存在していたら、我々は今日、YouTubeを知らないだろう。そのことについてよく考えてほしい。
これが1999年の自分に云いたいことだ。結局彼は回り道して理解するのに7年もかかっているから、聞き入れてくれるか怪しいが。
関連記事