南相馬の映画館、朝日座でのイベント、東日本大震災復興支援上映プロジェクト「ともにある Cinema with Us」in 福島で観た映画のレビューを書きます。
「檜枝岐歌舞伎 やるべぇや」
公式サイト
http://yarubeya.com/
東日本大震災の被災地である東北地方は、悲劇を連想させるイメージがつきまとってしまうようになりました。さらに福島に関しては原発の影響で悲劇と合わせて、危険というイメージもついてしまった感があります。
しかし、東北地方は、元々豊かな自然と、歴史ある文化、ローカルコミュニティの強さなどもある土地です。平泉が世界遺産に認定されたりしましたが、そうした東北の本来持っていた素晴らしい面が失われたわけではありません。
このドキュメンタリー映画は、福島県檜枝岐村に伝わる農村歌舞伎、檜枝岐歌舞伎を通じて、東北地方のローカルコミュニティの絆の強さの源が文化を通じて形成されるのだということを描いた作品です。
以前レビューを書いた「究竟の地−岩崎鬼剣舞の一年」と共通するテーマを持った作品ですね。この作品も究竟の地も震災前に作られたのですが、3.11後の地域のあり方を考える上でも貴重な作品です。
東北地方のローカルコミュニティの強さはよく指摘されるのですが、震災以後もその強さを復興の過程で発揮しています。
度々東北地方に取材訪れている津田大介氏は、このような過酷な状況でも、「明るく復興に向けて動いている彼らの姿を見るにつけ、その原動力がどこにあるのか」を考えながら取材を行ってきたと云います。
そして
「その答えは東北の地域共同体――ローカルコミュニティにあった。」
と結論づけています。
津田氏は、思想地図β vol.2のルポで紹介している江戸時代から続く伊里前契約会による復興案の他、「究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年」のパンフレットの寄稿ではスパリゾートハワイアンズの営業再開に向けた地元の人々の努力や平泉の世界遺産に認定された過程での地元の努力などを短く紹介しています。
以下引用。
震災から約3カ月後となる2011年6月、
岩手県の平泉が世界文化遺産に認定されたが、これは2008年の世界遺産認定「落選」後、地元住民たちが落胆せず、政府と共に推挙する資産を再構成するなどの地道な努力を重ね実現されたものである。先日取材で訪れた福島県いわき市のリゾート施設「スパリゾートハワイアンズ」は、震災後原発事故による風評被害に悩まされ(同施設は福島第一原発から約50kmの地点にあるが、風向きの関係から空間放射線量は非常に低く、東京都とほぼ同じ線量だ)、経営的にも厳しい状況が続いているが、昨年10月に営業を再開した彼らを支えたのは、地元の人たちであったという。同施設にはホテルだけでなく、日帰りの温泉入浴や、高齢者向けスポーツクラブも併設されているが、その来場者数は震災以前よりも増えたのだ。
宮城県南三陸町にあるホテル観洋は、昨年7月に営業再開したが、地域の子どものためにホテル内に図書館と「寺子屋」を作った。各地から大学生の家庭教師を招聘し、現在も受験を控えた子どもたちの学習支援を無償で行っている。
◆岩崎鬼剣舞から学ぶコミュニティのあり方と「継承すること」の意味
(初出:『究竟の地 岩崎鬼剣舞の一年』パンフレット、2012年2月)
福島県の山奥にある人口わずか630人の小さな村、檜枝岐村。ここでは江戸時代からこの地にだけ伝わる檜枝岐歌舞伎という農村歌舞伎があります。この260前から受け継がれてきた伝統歌舞伎は現在、演者も裏方も全て村人からなる、檜枝岐歌舞伎を今も受け継ぐ花駒座という劇団によって上演されています。
檜枝岐歌舞伎は鎮守神祭礼の奉納芝居で、花駒座(約30人)が毎年春祭(5月12日)、鎮守神の祭礼(8月18日)、歌舞伎の夕べ(9月3日)で上演しています。上演の際には村の外からもたくさんのお客さんが集まるそうで、この村の観光資源にもなっているようです。
村の中学生たちが文化祭で檜枝岐歌舞伎を上演することになり、花駒座の面々が指導することになりました。始めての経験に戸惑う生徒たちも多く、指導する側もされる側も手探りといった感じなのですが、少しずつ上達していくと、段々生徒たちの目つきも変わってきます。
文化祭当日、大勢の村人が見守る中、生徒たちの上演は大成功。村には高校がないので、中学を卒業したら生徒たちは、別の土地で高校に通います。ある生徒は、この檜枝岐歌舞伎をやるために将来村に戻ってきたいと言います。
映画の中のナレーションでも語られますが、親から子へ、、子から孫へこれを受け継いでいくことでこの村はコミュニティを維持してきたのですね。
岩崎鬼剣舞もそうでしたが、これらの伝統芸能を伝える場は貴重な世代間のコミュニケーションの場としても機能していますし、そこで生まれる文化が人を引き戻す原動力になり得ることをこの映画は証明しています。
空腹を満たすわけでも、瓦礫を処理してくれるわけでもない文化的活動が、復興のためにできることのヒントが詰まった映画です。
予告編