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【ネタバレあり】絶望を突き抜けて救いへと至るCocco、突き抜けれない僕達。映画レビュー「KOTOKO」

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※映画を見てから読むことをオススメいたします。

レビューのプロローグ的に最初に記しておくと、僕はCoccoのファンです。

いや、ファンというか、Coccoという人は存在自体が奇跡だと思っていました。彼女の歌を始めとする表現作品からは「聖なる狂気」のようなものを感じるわけです。表現だけのフェイクとも思えないレベルで。

そして塚本晋也監督のファンでもあります。ファンというか尊敬しております。塚本監督の都市にしか生きれそうにない人間を一貫して描く姿勢が好きあんですね。都市に生きて壊れ、そして救われていく人間たち。そういう風にしてしか生きられない人が確実にいるのです。

というか、東京に関して、時折疑問に思うことがあるんです。これだけ大量の人間が住んでいて、それでもこの街は表向き、システマチックに割とキチンとまわっている。どこかに歪みがあるに決まっている。そうした歪みにハマり、壊れて、しかし救われていく人間たちを塚本監督は描いてきた作家ですね。

そういう歪みにいる人間からはむしろ、キチンとまわっているこの世の中の方が狂って見えることがあるんです。そういう視点を仮想体験させてくれる塚本映画は、社会に対する新たな視点を提供してくれるので、非常に知見作品だと思います。

そんな塚本監督の最新作は何とCocco主演。都市にしか生きれない人間たちを描き続けた男が、都市に生きれない女性と組んで映画を撮るとは。

しかし、もしCoccoさんが映画に出るようなことがあったら、その監督は塚本監督しかいないだろうとも思っていました。ヴィタールという作品を見てそう思ったんですね。Coccoさんがエンディングテーマを手がけていることもありますが、作品中にでてくる沖縄の海でバレエを踊る女が、Coccoさんとシンクロするんです。
あれを見て、塚本監督もまた、Coccoさんを「存在すること自体奇跡」と感じているな、と勝手に確信しました。映画の中でも、その沖縄の女は、あり得ないものの象徴として描かれていますし。

 

ここからがレビューとなります。

大傑作です。塚本作品でも1、2を争うレベルじゃないでしょうか。

まずCoccoのパフォーマンスが凄い。あれは芝居なのか。芝居には到底見えないほどにリアリティがある。ほとんどCocco自身の人生を見せられているかのように錯覚する。

それにしてもあれほど、一つの作品で、多彩な表情を見せることができる人は相当に希有な存在だ。時に女性、時に少女、時に悪魔、時に母親、時に聖なる存在。。。。改めて「存在自体奇跡」だと思った。

あらゆるモノや人が二重に見えてしまう女性、KOTOKO。この女性も塚本作品の主人公らしく、まともに社会を生きれないほどに壊れている。そうした壊れた存在に惹かれる男として塚本監督自身が演じる田中という男が対比として登場している。

有名小説家として、世間的には成功者の部類に入るであろう田中。しかしその表情はまともな感じが無い。俳優としても素晴らしい能力を持つ塚本晋也、ああいう何を考えているかわからない人物を演じるのが本当に上手い。非常に危ない匂いを放っています。

しかし、そんな危なさすら凌駕するKOTOKOの危なさと絶望。様々な映画で使われる絶望を知るもの同士の、繋がりと愛を描く作品かと思いきやそうはいかない。

恐るべきKOTOKOの暴力の後、本来なら安らかとなるべきシーン(KOTOKOが田中のために唄う)の後、突如姿を消す田中。てっきり本物絶望を知り、そして救われるという方向に物語が進むのかと思っていた。

田中はなぜ消えたのかは描かれない。描かれないが最後まで映画を見ると何となくわかる。

KOTOKOは結局精神病院送りとなってしまうのだが、そこで激しい雨に打たれながら踊るKOTOKOは「聖なる」何かなのだ。壊れきった果てに達する聖なる存在。きっと田中は、あそこまで到達することができないことを悟ったんだろう。それはどれだけ救われたいと思っていても壊れる勇気のない僕たち一般人の立場であるかもしれない。

激しい雨の中、肉体と声のみで世界の美しさを描けてしまうような存在になれるものか。

そしてその激しい雨の中の踊りは絶望を通り抜けた希望そのものだ。これほど激しく痛みを伴う映画なのに、最後に救いが突然訪れる。絶望を通り抜けたあとに訪れる上っ面だけのものではない、本当の希望が。

震災と原発事故を経ても東京に住む僕らは、中途半端な絶望を抱えて何となく生き続けている。この映画の中の田中と同じで絶望しきる勇気もない。(田中まで到達している人間すらごく少数)

ゆっくりと社会が壊れていくのに、表向きキチンとまわっているので見て見ぬフリをして生きる僕たち。あるいは本当に気づいていない僕たち。だから救いも訪れない。半端な絶望に半端な希望。

そんな状態に僕たちがある、ということに気づかせてくれる存在が現に存在する。そのこと自体が僕には奇跡に思えるのです。

努力はしてみたが、正直いって全然上手く言葉にできていない。

ただ、こんな凄い人が存在しているだけでも、この世界は生きるに値する、そう思える映画です。

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