イギリスで日本映画を中心に配給しているThird Window Filmsが今後映画の劇場配給をしない、と発表したことが英語圏の映画ライターやファンの間で話題になっています。
Third WIndow Filmsは2005年にアダム・トレル氏によって設立されたアジア映画を専門に配給している映画会社で、イギリスを初めとする欧米のアジア映画ファンの間では知られた存在で、園子温監督作品や、塚本信也監督の作品など海外でも評価の高い日本映画をよく買い付けてくれている会社です。
つい最近もヒミズや悪人などの日本映画をイギリスで紹介しております。
今回の同社の発表は欧州のアジア映画ファンを悲しませているのですが、これは日本の独立系の映画製作会社にとっても非常に厳しい現状を突き付けられた感があります。
貴重な販路が一つ失われたに等しい。
日本の映画会社も劇場公開権とDVDリリース権をイギリスでセットで販売することが難しくなったということです。
そして当然日本同様、イギリスでもDVDセールスの売り上げは減少傾向にあります。
Third Window Filmsの代表、アダム氏がアメリカのインデペンデント映画ニュースサイトTwitchに対して、でその決断に至った経緯を説明しています。
アダム氏はインディーズ系配給会社の現在の苦境に関して3つポイントを挙げて説明しています。
イギリスと日本では、当然映画配給のルールも慣習も違いますが、日本映画の海外における市場の狭さや売る際の苦しみ、それからインディーズ系映画会社の現在の苦境が少しでも伝わればいいなと思い、かいつまんで紹介してみます。
全文はこちらのサイトに掲載されています。
THIRD WINDOW FILMS STOPS WITH THEATRICAL DISTRIBUTION, AND THIS IS WHY.
きっと多くの人はイギリスでインデペンデント映画を劇場配給することがどれだけ大変なのかを想像するのは難しいでしょう。映画配給業を他の国でやっている私の友人でさえも、私が実態を話した時、すごく驚いていました。
私の意見では以下挙げる3つのポイントが我々のような独立配給業者を苦しめてるものだと思います。
1:イギリスでは、全ての映画はBBFC(British Board of Film Classification。イギリスの映倫みたいなもの)からの認証を受けなければいけません。アメリカならMPAAを通さず「unrated」の状態で映画を配給することも可能ですが、通常こうした審査はどこの国でも強制です。ただイギリスの場合、劇場公開とDVDでリリースする際に別々に認可が必要で、ともに非常に高いコストがかかります。
彼らは全く同じ映画を見て全く同じレイティングをしたとしても、2回分の金額が発生します。そのコストは1分につき、8.40ユーロで手数料が一作品につき120ユーロです。例えば園子温監督の「愛のむきだし(上映時間約4時間)」だったら、レイティングしてもらうだけで、劇場分とDVD分合計で4000ユーロに達してしまいます。
2:我々のようなインデペンデント会社は劇場の興業収入から売る配給収入も最低ラインのパーセンテージしか得られません。アメリカなら50%ずつ配給会社と劇場で分け合うのが基本ですが(日本も大体同じ)、欧州の多くの地域ではこれが配給会社が45%から50%ほどの取り分というのが一般的です。
でも私が今までてがけた劇場公開作品ではどうだったと思います?ほとんどの作品で、こちらの取り分が25%しかありませんでした。一番良かった取引でも35%というところです。ヒミズが今週公開されたのですが、もう劇場に飾ったポスター代くらいしか稼げませんでした。
3:イギリスでは、約80%のインディーズ系映画館が2つの会社によって経営されていて、その両社とも自社の配給部門を持っています。ですので、どうしても自社配給作品を優先しがちなのです。これはアメリカでは私が知る限り違法なはずです。(実際違法です。配給会社やスタジオが映画館を直接経営してはいけない決まりがあります)
リドリー・スコット監督のプロメテウスを彼らが配給したとき、その映画は彼らの傘下の劇場のほとんどで上映されます。10年前まではずいぶん今とは状況が違いました。ロンドンには多くのインデペンデント映画が存在しましたが、今はほとんど見かけません。かつて非ヨーロッパ映画を上映していた独立系会社のICAシネマさえ、今では大手の映画を上映しています。ちょうど今はブルース・ウィリス主演の「Moonrise Kingdom」を上映しています。この映画はイギリス全国のメジャー系映画館でも同じように上映されているのですけどね。
私はこうした映画(アジア映画)をメインストリームにしたいのです。しかし、現状オーディエンスがおらず、そのオーディエンスを作るチャンスを劇場が与えてくれないのです。
ヒミズが今週The Prince Charles Cinemaと Curzon Renoirという劇場で公開されましたが、 Curzon Renoirの方ではわずか3日しか上映されず、The Prince Charles Cinemaの方はわずか4回上映しただけです。しかもそのうちの2回は平日昼間の午後1時からの上映でした。
私は20,000ユーロ以上もヒミズの宣伝・マーケティングに費やしましたが、その結果には落胆せざるを得ません。
私はどんな作品に対してもオーディエンスは必ずいるのだと思います。私が最初に日本映画の配給を始めた時、かなりのお金を失いましたが、何度も挑戦をあきらめずにしていくうちに新しいオーディエンスを開拓できることがわかってきました。しかし、映画館側はそうしたリスクを負いたがりません。
批評家も劇場公開していない作品を取り上げてくれる機会は滅多にありませんし、もうこれ以上有名タイトルの権利を購入するのは不可能でしょう。