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ダークナイト・ライジング銃乱射事件。不毛な表現規制ではなく、銃と銃を手放せない社会をどうするのかの議論を。

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金曜夜、コロラド州デンバー近郊の街オーロラの映画館にて、銃乱射事件が発生しました。

12人が死亡、59人が重軽傷を負うという、最近のアメリカの銃被害として最も大きなものになっています。
犯人は黒い服でガスマスクを装着しており、ベストを着用し3つの銃を所持(アサルトライフル、ショットガン、短銃)、発煙筒のようなものを焚いて、映画館でダークナイトライジングを上映中に劇場に入り、一言も発せず発砲し始めたとのこと。
この日はダークナイトライジングのプレミア上映で観客は満席で、小さい女の子などもいたらしい。
当日映画館にいた目撃者の証言によれば、犯人は逃げようとするものから撃っていったとの証言もあります。
Colorado Shooting 2012: Witness Says Gunman Shot Anyone Trying To Leave

犯人は単独犯で24歳のJames Holmes。動機はまだわかっていませんが、NYCのRaymond Kelly氏が犯人は髪を赤く染めており、自分をジョーカーだと名乗っている、ということです。コロラドの事件でなぜニューヨークの警察がそんな証言をしているのかわかりませんが。
NYC top cop: Colorado gunman dressed like Joker — Batman’s foe

映画館から4マイル離れた自分のアパートに爆発物を仕掛けた、と証言したらしいですが、特に何も見つかっていないようです。(追記: コロラド消防署がその後、3つのワイヤーにつながれたコンテナを発見したとのこと。)アパートの住民の証言では犯人が家から出た後、テクノミュージックをかけっ放しにしていたそうです。

犯人の人物像についてはいくつかの証言が出ていますが、最近になって大学院をドロップアウトしており、コロラド大学のある教授は、彼がこの事件に関与していることに、あまり驚きを見せていないとのこと。「非常に静かで社交的ではない」という証言がある一方、学部時代はUCリバーサイドに在籍していたようですが、そちらでは非常に優秀な成績を収めいて「Top of the top」と評されるほどであったということです。

こちらの記事によると、UCリバーサイドを卒業したのち、なかなか就職先が見つからず悩んでいたとのこと。就職に失敗してのでコロラドの大学院に進んだということでしょうか。
Holmes left home to attend UCR, but returned home after graduation and had a hard time finding work. He took a part-time job at a nearby McDonald’s to pay for school, she said.

“He didn’t have a job,”she said. “I felt bad for him because he studied so hard. My brother said he looked kind of down, he seemed depressed.”

彼のソーシャルメディアのアカウントは今のところ一つも見つかっていないようです。


犯人のJames Holmesの顔写真

今のところ、ダークナイトライジングの全米での上映を自粛するような動きがありませんが、サンフランシスコでは同映画を上映中の映画館周辺のパトロールを強化すると発表しています。
Bay Area police step up patrols near theaters showing ‘Dark Knight Rises’ after Colorado shooting

またパリでは同映画のキャスト・監督の舞台挨拶つきのプレミア上映が急遽キャンセルとなっています。
‘Dark Knight Rises’ Paris Premiere Canceled Due to Colorado Shootings

またしてもアメリカでの大規模銃乱射事件。今年に入ってはオイコス大学での銃乱射7人死亡の事件に次いで2度目の大きな事件。いつものアメリカの風景ともいうべきなんでしょうか、もはや。

今年は丸腰の黒人少年が、「自衛」という名目で殺害されるというジョージ・ジマーマン事件もありました。
あの事件は一人の犠牲者ではありますが、アメリカ社会の病んだ側面を強烈に反映した事件であったと思います。差別意識、根底では他者を信用できないゆえの過剰な自衛意識、容疑者のジョージ・ジマーマンは白人ではなく、ヒスパニック系の移民の2世であるので、もしかしたら移民問題にも発展する可能性もあるのかもしれません。

今回の事件を受けて銃規制の議論は少しは進むのでしょうか。それとも銃規制議論の前に表現規制の議論になってしまうのでしょうか。今回の事件の発生場所は単純に暴力描写にフィンガーポイントしたい人間からしたら最高でしょう。しかも自分をジョーカーだと言っているという証言も出て来ている。本質的な銃規制の前にまたしても不毛な表現規制の話が横行するのだと本当に悲しい。

銃とは一部のアメリカ人にとって、たんなる武器を超えた存在です。マイケル・ムーアの「ボウリング・フォー・コロンバイン」で全米ライフル協会の当時の会長、故チャールトン・ヘストンは危険な目に合った事はないが、自宅に装填された銃があると安心を感じると述べています。一部の人間にとっては銃は心の安心を担保する存在なのです。

一部の過剰なアメリカ人ではなくても、やはり根底にある他者を信用できない意識は銃を規制できないアメリカの深い闇です。銃が広がっているから信用できないのか、信用できないから銃で武装するのか。あるいはそれがループしてますます人の心に不信感を増やしているのか。

故に本格的な銃規制の議論は起きないでしょう、またしても。代わりに悪人に仕立て上げられるのは「表現」です。今回で云えば映画でしょうか。テクノミュージックも?
コロンバイン高校の事件の時はゲームとマリリン・マンソンの音楽でしたが。

ダークナイトライジングは未見ですが、前作ダークナイトは、暴力を戒める存在が更なる暴力を呼び込んでしまう理不尽な世界を描いていました。それを肯定するではもちろんなく、その負の連鎖に歯止めをかけるには何が必要かを考え、そのループを止めよう、と訴える内容の作品でしたが、そういう作品の続編の上映でこういう事件が起きるというのは、クリストファー・ノーランの提示した主張がいかに正確にこの現実世界を描写していたのかを証明してしまった皮肉。それでも単純な表現規制を求める声はでてしまう。

そういう不毛なフィンガーポイントが起きる「いつものアメリカの風景」を繰り返してほしくないと切に思います。
社会に対する不全感や他者の対する不信感を表現する手段として銃を用いさせず、不安ベースではなく、信頼ベースでの社会をどう構築するのかという議論をしてほしいと思います。

相当に難しいことだろうと思いますが。

犠牲となられた方々のご冥福をお祈りいたします。

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