アメリカのNBCが、ロンドンオリンピックの開会式をテレビで生放送せず、プライムタイムでの録画放送を行ったことが英語メディアの間で論争になっています。
開会式の他、有力競技においても時差の関係もあり、生放送をすると朝や昼間のテレビを見る人の少ない時間帯にぶつかってしまうため、録画放送をしているのですが、これにネットユーザーは反発をしています。
Twitterではハッシュタグ「#NBCfail」が大盛り上がりを見せています。
しかし、この開会式の録画放送が、歴代オリンピックの開会式の放送の最高視聴率を記録。ビジネスとしてはNBCは大成功を収めたことになります。
この録画放送事件に対して、buzzmachineというブログを運営している有名ブロガー、Jeff Jarvis氏が書いた文章が話題を呼び、ハフィントンポストにも転載されているのですが、多くの支持をソーシャルメディアで集めています。
#nbcfail economics
これに対してCNNが反論を展開。Jeffの記事の一部を引用し、この引用に仕方が恣意的であり、JeffがGoogle+で失望を表明しています。
このG+の投稿にも多くのコメントが寄せられています。
https://plus.google.com/u/0/105076678694475690385/posts/3KQeuYpv6td
CNNの記事はこちらになります。
Is it really #NBCfail?
Jeff Jarvisの見解は次のような感じ。
Jeffの#NBCfailのハッシュタグで交わされる批判をこう総括している。
NBCの決定はおろかで、アメリカ人は世界中の人とあの瞬間の体験を共有する機会を奪われた。そもそも情報を隠してあとでプライムタイムで放送しても、Twitterは巨大な情報スポイル装置なので、留め置くことはできない。
これに対する反論としては、以下のような見解があり得ると述べている。
NBCは広告収入による利益最大化のために尽くす必要がある。五輪の放映権はとても高額なのだから、それをペイするにはエムを得ない措置だと。実際に今回のプライムタイムの放送は過去のどの五輪の開会式放送よりも視聴率が高かった。これは戦略として正しい。
NBCはBBCと違い、その放送資金の源はスポンサーからの広告収入だ。いわば顧客は広告主のようなもの。なら広告主の利益を最大化するためにオーディエンスが何といおうと必要な戦略を取るのが筋、という考えですね。
しかし、広告主とテレビはソーシャルメディアという巨大な「声」を持ったオーディエンスを軽視すべきではなく、彼らの望むやり方でコンテンツを提供する術を考えなくてはならない、もしGoogleが放映権料を獲得していたとしたら、こういうやり方はしなかっただろう、と述べています。
視聴者のリアリティが変わった中、古いビジネスモデルを保護しようとするあまり、オーディエンスの声を聴くことを忘れてしまえば、このような炎上という結果を産むという教訓であり、IOCの課す巨額の放映権料の問題にもオリンピックファンは関心を持つべき、と結んでいます。
これに対しCNNが反論しています。テレビ放送は録画であったものの、NBColympics.comではリアルタイム放送が見れるようになっていた。視聴者は選択できたはずだ、と。その他実際の競技も録画放送をプライムタイムに行っているが、それらのほとんどがオンラインでライブで視聴可能であった、と伝えています。
ようするにNBCはリアルタイムで見たい人のためのチョイスは用意していたということですね。でもネットユーザーはそれを利用していない、もしくは知らずに騒いでると。
CNNはそんなツイッター民は新しいものが好きな割にはなぜオールドスクールなテレビなどで見たがるんだ、ネット配信でみたらいいだろう、と結構辛辣に書いているわけです。
さて、これはどう捉えるべきでしょう。NBCは選択肢は用意していたわけです。開会式はアメリカ時間では明け方の4時とかその辺なので、そこまでの高視聴率は望めないのは確かでしょう。そして、すでにこのご時世、ネットで瞬時にあらゆる情報が出てしまうので、すでに情報の広まってしまったモノをプライムタイムに放送して果たしてどれほど視聴率が取れるのか、という疑問も当然あったでしょう。
しかし、結果的には開会式としては過去最高の視聴率を記録しちゃってるんですね。fail(失敗)どころかビジネス的には大成功です。
CNNのJeffの引用の取り上げ方がちょっとフェアじゃないという問題もあります。以下の引用をJeffの意見として取り上げているが、ちょっと違うんですよね。Twitterのハッシュタグ上で流れる意見を総括するとこんな感じだ、という風な書き方だったんですね。
We in the U.S. are being robbed of the opportunity to share a common experience with the world in a way that was never before possible.
Those arguments have all been made well and wittily on #nbcfail.
この後に一文、「Those arguments have all been made well and wittily on #nbcfail.」と結んでいるので、ハッシュタグ上でこういう議論があった、ということをまとめて紹介しようとしんでしょね、Jeffは。
CNNの云う事は、それはそれで正しく、確かにNBCはオンラインでライブ配信を提供していますが、利用するには条件があります。ケーブルTVかサテライトへの加入が必須です。NBColymoics.comのFAQにもこうあります。
Q: What is required for access to view “Live Streaming” video content?
A: With a cable, satellite or telco TV subscription that includes MSNBC and CNBC, you can access live streams of EVERY Olympic event at no additional charge.
これに対してイギリスBBCはなんの契約などなくてもBBC iPlayerをダウンロードしてすればオリンピックをライブで見ることが可能です。NBCへの抗議としてVPNをたてれ、BBCでオリンピックを視聴している人もいるようです。
JeffのG+の投稿にコメント欄にもありますが、アメリカのネットユーザーの中にはBBCを詳細してる人もけっこういるようです。
NBCはアメリカ3大ネットワークの一つではありますが、国営放送ではなく、広告収入を主としている民間企業です。当然顧客のために仕事をしているということになるわけで、顧客とは広告主であり、広告を見てくれる視聴者なわけです。この辺BBCとは立場が違います。
結果的には広告主に資することができたわけなので、これは失敗でなく、成功でしょう。それに巨額の放映権料はそうでもしないと払えないんでしょね、現実問題。
こうした事件を見てると、どこの国も似たような問題を抱えているもんなんだなあ、と思いますね。インターネット先進国でありソーシャルメディア大国であるアメリカですらネットの怒りの声が必ずしも世論と一致しているわけではないのです。
昔の商売を守ろうとするテレビをネットがdisり、それを受けて有名ブロガーがレガシーメディアに噛みつき、なぜか他社であるCNNが火に油を注ぐと。。。
ネットネイティブな人間はこれからどんどん増えますから、当然真摯にネットユーザーの声も受け問めるですが、これだけネットでボロカスに云われていても、少なくとも今現在はそれがネットだけの世界のことで、実際には最高視聴率をたたき出してしまうという。
この結果はプライムタイムに放送したことだけに起因するとは必ずしも云えないのですが、やはり多くの人が見れる時間帯に放送した事は、一つの大きな要因になっているでしょう。
Twitterユーザーの怒りとは裏腹に、一人でも多くの人が見やすい時間帯に、放送することが公共に資する、という解釈もあり得ます。早朝では見たくても見れない人もいるでしょうし。(でもこれ、SPIDERだったら解決できる問題なんだよなあ。テレビでライブもストックも同時にこなすわけだから。)
NBCとしてはケーブルユーザー向けにオンライン配信も提供していたことでバランスを取ったということなのでしょうけど、なんというか、やはりネットサービスを利用する時に囲い込まれることへの抵抗感ってすごいんだな、と感じますねこの炎上は。
これが逆だったらよかったのかもしれません。テレビで生放送でやって、ネットでストックしておく。加入者だけがネットで見逃し放送を利用可能という風だったら、ここまで炎上しなかったんじゃないかな、これ。生で見たい、という熱心な人は、最高の視聴体験を求めているでしょうから、ネット配信をPCで見るより、テレビの方が単純に放送なら表現力も高いですし。もちろんその決断で歴代最高の視聴率を記録できたかわかりませんけど。
もしかしたら、ネットでの炎上で話題になったから視聴率が上がった可能性も否定できないのかもしれません。テレビというメディアがソーシャルメディアと動向き合わないといけないのかのレッスンですね、これは。
日本のテレビを考えて見ると、今のところネットの悪い評判ゆえにかえって視聴率があがったという事例がないです。というより恐れすぎていてあまり踏み出せないでいる状態なわけですが。
怖いのは米国のテレビ局がこれに味を占めて炎上マーケしかけるようになったら最悪だな、と思いますが。。。
アメリカのテレビは日本以上に扇動的な面がありますし。
しかし、今回のオリンピックはソーシャルオリンピックとか云われてますが、世界炎上大会じゃないですかね。。。
オリンピックは、元々ナショナリズムを煽る要素も強く持ってるし、ビジネス色が大会を重ねるごとに強まってきてますし、火種が一杯あるところに割と無防備な状態でソーシャルメディアがそこの乗っかって来ちゃってる。これから何が起きるのか怖いなあ。。。
イギリスでは体操団体の判定を巡ってやはりTwitterでは差別用語がトレンド入りしたりもしてたようですし、韓国や中国も言わずもがな。
無事に大会が終わってもソーシャルメディアとテレビ、それからオリンピックそのものに深い禍根を残しそうな、そんな気もしています。
この過渡的な状況をどう乗り越えるのかを、テレビは問われているということなのでしょうね。今どういう方向に舵を切るべきかをしっかり見極めないといけない時期ですが、速いとこ動き出さすにまごまごしていても怒られる。難しいですね。