2012年は(も?)テレビ業界にとっては厳しい一年だったように思います。視聴率の下落傾向には歯止めをかけられていないし、テレビ視聴時間数も減少しています。とりわけ2010年から2011年の視聴時間の減少は大きく、この流れを2012年も断ち切ることができていないでしょう。
(参照:12・31【テレビの今と未来は?何をするべきか?…今年を振り返って考える①】氏家夏彦 | あやとりブログ(βⅡ))
それでもその影響力の大きさとリーチ力からメディアの王様であると云えるのですが、現状のままでは将来その座をウェブ発のメディアに取って代わられることになるでしょう。
そうした危機感はテレビ業界の中の人にも持たれていて、2012年はウェブやソーシャルメディアと連動させてテレビの楽しみかたや、作られ方に新しい風を吹き込もうという試みが多くなされました。
大きな流れで分類すると、
1)スマホやタブレットなどの端末をいかに活用するかのマルチスクリーン化、
2)ソーシャルメディアとの連携とソーシャルメディアによる番組評価指標の作成、
3)時間帯によるコンテンツ構成からの解放、ストック型のコンテンツ提供の模索、
といったところでしょうか。
いずれも今年から本格的に取り組み始めたというところですので、2013年のテレビ局は一層この動きが加速させていくことになるでしょう。
1)マルチスクリーンについて
マルチスクリーン戦略にはざっくり云うと2つの意味があります。
テレビ番組を単一のモニタで単に視聴させるのではなく、スマホやタブレット利用して関連情報を示して、番組内容に対する理解を深めたり、番組ハッシュタグなどを追いかけてリアルタイムに同番組を見ている人とコメントを共有しあうソーシャル視聴のためのツールとしてのセカンドスクリーンとしての意味が1つ。
正月の名物箱根駅伝のウェブアプリはなかな面白くて、各チームの順位をGoogleマップでリアルタイムでマッピングし、コースの高低差を可視化する機能も用意していました。箱根の山がいかにキツいかがわかりますね。
via WEBアプリ|第89回箱根駅伝|日本テレビ
そしてemoconやみるぞうなどのモバイルアプリを使えば、番組関連のツイートが一望できて面白いですね。昨年末の衆院選後の選挙特番ではこれらのアプリを頼りにどの番組が一番面白そうか比較して、結果テレ東の池上彰さんの番組を見ていたのですが。
いろんな角度からのTwitterユーザーの突っ込みとともにテレビ番組を見るのも面白いので、僕もたまに利用しています。
この1年でこうしたセカンドスクリーンの使い方もそれなりに浸透してきたのではないかと思います。紅白歌合戦では、番組関連ツイート数が170万を超えたようです。
(参照:2012年紅白歌合戦テレビジン速報値+グラフ : 異聞録 @ikko)
追記:キーワードを追加して分析したところ、もっと関連ツイートあったらしいです。関連ツイートは270万以上だったよう。より正確なデータは以下を参照ねがいます。
2012年紅白歌合戦テレビジンのツイート分析完了版 : 異聞録 @ikko
もう1つは番組それ自体はいつでもどこでも見れるようにするための機能。
前者については日本でもかなり普及してきた感じはしますが、後者は例えばBBCのiOSアプリ、iPlayerなどの充実ぶりを比較するとまだまだやりきれていない感がありますね。NHKオンデマンドもスマートフォンから見れるようになってはいますが、使い勝手とコンテンツの充実さにおいては水をあけられていますね。
BBCのiPlayerは12月22から1月1日にかけてのプログラムのリクエスト数が7700万回を超えるというすごい数字をたたき出しています。
BBC iPlayer celebrates its 5th birthday with 77 million program requests over Christmas 2012
今年は後者に関する取り組みについても、一層テレビ局の努力を期待しています。
2)新たな番組評価指標について
長らく視聴率という単一の指標で一次元的に番組の評価をしてきたテレビ業界ですが、人の趣味も時間の使い方も細切れに細分化してきた現代において、視聴数の量的な指数を示す視聴率だけでは広告効果の指標としては十分ではないのではないかという議論が活発になってきています。
このブログでも昨年、この問題については以下のエントリーで書いています。
ソーシャルメディアは視聴率に代わる番組評価の指標を作れるか
番組の価値は広くその時間にチャンネルをつけてもらえたかどうかだけでは測りきれないのではないか、そして番組に対する視聴者のコミット度やロイヤリティを算出する上でソーシャルメディアのデータは活用可能なのかを論じてみたわけですが、この記事を書いてすぐに日本からはビデオリサーチさんが、アメリカではニールセンがTwitterをベースにしてテレビ番組の指標を実用化へ向けて動きだすと発表しました。
ざっくどれくらいのボリュームの視聴者がいたのかを示すだけの視聴率に対して、ソーシャルメディアを持ちいる番組指標の算出は別の角度から番組の価値を見いだしてくれるでしょう。
シンプルにイメージすると今までは視聴率だけの一次元的な評価だったものが、横軸に視聴率、縦軸にソーシャルメディアでの評価指数を並べて二次元的は評価をできれば、今までは価値無い番組とされていたものに、新たに光りがあたり、よりユニークで多様な番組が生まれる可能性があります。
具体的にはこの図の左上のカテゴリですかね。昨年の例ではTBSの人気ドラマのスペシャル版「SPEC 〜天〜」などがこの左上のカテゴリに該当します。(視聴率良くなかったらしい。。。)
SPECの今井プロデューサーもこの作品はネットユーザーの熱狂的な支持なしにはありえなかったということを昨年のソーシャルテレビアワードでおっしゃっていました。
3)ストック型のコンテンツ提供構成について
先のSPECの話題に触れましたが、SPECは視聴率は振るわなかったのですが、TBSオンデマンドでは歴代1位を獲得しているそうです。ソーシャルメディアの口コミの効果もあってか視聴後に多くの人気を獲得しています。(そこが評価されて劇場版も制作されているわけですが)
地上波の民放は、無料放送の広告収入で成り立っていますが、そのせいでリアルタイムで視聴してもらうことに拘らざるをえない状態になっています。今後のコンテンツビジネスの展開はフローとストックの関係性を抜きには語れないのですが、テレビの現状のビジネスモデルの関係上、なかなかストック型のビジネスモデルを作れていません。各放送局のオンデマンド番組の使いにくさとコンテンツ量がなかなか充実しません。
しかしながら、テレビは現在でも約2000の番組が一週間にあり、それらプロの手で制作された作品がたった1度の放送でTwitterのツイートのように流れていってしまうのはもったいないし、せっかく作ったコンテンツ資産を十分に生かしきれているとは云えません。従来のビジネスモデルはその1度きりの放送で人の時間軸で縛り付け、CMを見てもらうことで成り立っていましたが、すでに現代人の生活のリズムは一定の時間のリズムに縛り付けるのは困難です。
昨年はもっとTVなどテレビ局連合によるオンデマンドサービスが開始されましたが、イマイチ振るいません。一方一昨年日本でもスタートしたHuluにテレ東は独自に参入を決めました。この分野はもっと活発になっていってほしいですね。特にHuluはすでにPC、スマホ、タブレットからApple TV、一部のスマートTVやWii Uなどにもすでに対応していて、マルチスクリーンでコンテンツを楽しめるシステムがすでに出来上がっています。そして非常に出来がいいのですね、Huluは。同じコンテンツを楽しむのでもサービスの利用のしやすさと気持ち良さによってもコンテンツ消費の体験が大きく変わります。映画を映画館で見るかレンタルDVDで見るかでは同じ内容でも違う消費体験となります。オンデマンドの分野で日本からHuluのプラットフォームの完成度がもたらすユーザー体験に匹敵するサービスは生まれるかどうか。テレビのストック型のビジネスモデル構築に関してここに大きな課題があります。
オンデマンドの分野では一週間分の番組を全て録画し、優れた検索技術で見たい番組やシーン、関連情報を抽出できるSPIDERのリリースもいつになるのかも気になるところです。
今後のテレビは、この3つの要素を考えてユーザーにどのような視聴体験を提供できるかを考えていく必要があると思います。そして、これら3つの要素はそれぞれ独立しているものではなく、相互の関連し合った要素です。
スマホやタブレットでマルチスクリーン化がテレビ視聴とソーシャルメディアの同時利用も促進し、さらに多くのデータが集まれば、新しい番組評価指標もより精度が高くなっていく。その番組指標から新しく番組が再発見され、そうしたコンテンツはストック型のオンデマンドサービスでさらなる需要を生んでいく。。。
そうした時代に即したエコシステムが作れれば、テレビもきっとまた面白くなるでしょう。
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