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映画パンフレビュー「ゼロ・ダーク・サーティ」

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新ネタです。映画のパンフレビューです。
今後映画そのもののレビューだけでなく、映画のパンフレットのレビューもやっていきたいと思います。場合によってはパンフだけレビューする時もあるかもしれない。

アメリカに住み始めたときに映画館に初めて行って衝撃だったのは、パンフレットがないことでした。これは日本独自のものだったのね。

パンフレットのレビューをしようと思い立ったのは、映画のパンフレットを購入する決めては対象の映画を好きか嫌いかに集約されるのかなと思うんですが、パンフレットにも出来、不出来があるよなあ、と思ったのと、しかし、そうした情報はあまり多く存在しておらず、購入するかどうかの参考になるような情報ってあまりないんですよねえ。

なので、もしかしたら需要あるかもしれないと思って。映画のパンフという日本の映画業界独自のカルチャーも大事にしたいなという思いもあり。

ところで映画パンフの歴史って一説には大正時代が起源と言われているんですね。そんな時代からあったんですね。
映画パンフレット概論

映画パンフレットの歴史は大正時代まで遡ることができるようです。事始めについては諸説あるようですが、1916年3月、浅草帝国館が発行した「第一新聞」を嚆矢とする説が有力です。

というわけで、映画パンフレビュー第一弾です。まずか先日鑑賞した「ゼロ・ダーク・サーティ」のパンフレットを。

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構成内容

  • イントロダクション
  • ストーリー
  • 俳優紹介とインタビュー(ジェシカ・チャスティンとジェイソン・クラーク)
  • スタッフ紹介とインタビュー(監督と脚本家)
  • レビュー
  • オサマ・ビン・ラディンについてのコラム
  • プロダクション・ノート
  • CIAについてのコラム
  • キャスリン・ビグロー監督についてのコラム
  • キーワード&トリビア

<ストーリー>
ストーリーは、1つの長文を書くのではなく、「尋問」、「分析」、「失敗」などキーワードにそってそれぞれ短い文章でまとめたものを羅列。物語全体はどのように構成されているのかわかりやすいですね。あとで物語を反芻するときにこういう風に整理してくれると非常に思い出しやすい。

<インタビュー>
俳優と監督、脚本家のインタビューは短いながらも非常に読み応えがあります。インタビュアーは映画評論家の町山智浩さん。主演女優のジェシカ・チャスティンのインタビューは鋭いところを突いていますね。
インタビュアーの町山さんがニーチェの「怪物と戦う者は自らも怪物になることを心せよ」という言葉を引き合いにマヤの変貌と最後の泪の意味を訪ねていますが、それに対するジェシカ・チャスティンの答えは、あの涙は虚脱感だ、というのは非常に良い回答だなと思います。達成感はない。主人公マヤもこの事件に関わる前の自分を失ってしまっている、そのことの虚脱感だと。

そして監督と脚本のマーク・ボールへのインタビューも町山さんが担当しています。
脚本作りでの過程、拷問への捉え方などがこのインタビューでよくわかるようになっています。この2つのインタビューは映画を見る前に読んでおくと、より作品と作り手への理解が深まっていいかもしれません。
この映画では激しい拷問のシーンが登場し、それがアメリカでは議論になっています。この映画は拷問を正当化しているのではないか、と。それに対し監督と脚本家は明確にそれは違うと述べています。
僕もこの映画は拷問を正当化は全くしていないと思います。むしろそれをアメリカの恥部として描いていると思いましたね。

<コラム>
レビューとコラムですが、こうした事実を基にした作品は、やはりその背景を知っていると知らないとでは、楽しみ方の深さが違ってきますんでやはり必要ですね。
このパンフレットでは2本、背景の解説を目的としてコラムが掲載されています。
1つはこの映画の「影の主役」とも言うべきビン・ラディンについて。日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究理事の保坂修司さんによるコラムです。
ここではビン・ラディンの生い立ちとアルカイダの成り立ちについて解説しています。ソ連からアフガンを解放するための義勇軍でであったビン・ラディンがどのような経緯でアメリカを敵を見なしていくかをわかりやすく解説しています。この辺は映画では全く触れられることのない部分ですが、作品を深く楽しむためのポイントの1つでしょう。

もう1つのコラムはCIAについて。「知られざる巨大諜報機関の実像」という見出しで戦史研究家の白石光さんが担当しています。
CIA誕生からの歴史と、実際のCIA局員の活動内容について書かれています。曰く現場で活躍する「工作員」はCIAの全体の数パーセントしおらず、局員の大半はマヤのように日々情報やデータとのにらめっこなのだとか。

映画そのもののレビューは小西未来さんが担当。いささか褒めすぎだと思いますが、まあパンフレットに載せるくらいのレビューはこれくらいで丁度いいかも知れない。読んだら盛り上がるし。

<プロダクションノートとトリビア>
こういうのを読むと、映画って本当に情報量が多いんだな、と感心させられる部分です。ここに挙げられているものはわずかなものでしょうが、こうしたディテールの積み重ねが映画を面白くしていくんですね。

トリビアで面白いと思ったのは「タバコ」。知的業種であるはずのCIA局員が前半ではやたらとタバコを吸うシーンが目立ちますが、時間が経過していくにつれ、中盤以降ではタバコを吸う人は中東の登場人物ばかりになる、というもの。このタバコでアメリカ人のタバコに対する10年間の意識の変化を表現していたらしい。

他にもアメリカの特殊部隊SEALsの組織体系や装備、射撃術などのトリビアなどが載っています。

概ねこんな感じ。
ハイライトは町山さんのインタビューですかね。「虚脱感」という言葉を引き出したのは良かった。
作品のレビューにも書きましたが、マヤのビン・ラディン捜索に対する執念は凄まじく、また薄い根拠で作戦決行させるほどにビン・ラディンを殺害することが悲願であったはずのアメリカにとって、この映画に描かれた内容は「達成」であるはずだったのですが、いざ終わってみると空しさが漂っているという。ビン・ラディンを追ったアメリカの10年は空しかった。

この映画はアメリカ国内で絶賛されているわけですが、なるほど、アメリカという国もどこに向かっているのか、アメリカ人自身もよくわかっていないのかもしれないですね。

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