とても良かった。新海誠監督の良さが存分に出ています。自然現象としての演出オプションの雨ではなく、雨自体に表情がある作品。
文脈に依存する物語を深めるよりもテイスト重視。
ストーリーはとてもありふれたもの。靴職人になりたい高校生と、職場に居場所を失った女性が雨の日の新宿の緑園で心を通わせる。夢を追いかける背伸びしたい少年と大人になりきれない27歳の女性の一夏だけの恋と別れを描いています。
花澤香菜さんの芝居も良かった。少女役ではない役柄はとても新鮮でした。
監督自ら「雨は3人目のキャラクター」と言うほどにこの映画の雨の存在感はすごい。そして映画ではほとんどお目にかかれないリアルな雨なんですね。
アニメにおいて雨の描写はほとんど同じ雨粒のリピートですが、この作品は違います。落ちてくる雨粒の大きさが不揃いになっていて、ウェイトもそれぞれ違う。重たい雨は垂直に落ちていくし、小さな雨粒は風に揺られたりしている。水たまりに落ちる際に広がる波紋の大きさまで丁寧に描き分けている。さらに普通のアニメなら雨は同じ位置に連続して落ち続けているだけですが、この映画の雨は1つ1つの雨の落ちる位置まで微妙に変えている。雨の描写1つに随分と手間隙をかけています。
こういう雨描写は普通のアニメでは手間がかかりすぎてやらないし、実写映画でも無理。雨降らし機を使ってもあんな多彩な動きはつけることができないでしょう。これほどリアルな雨はアニメも実写も含めて初めて見ました。
雨の降らし方もすごい多彩で、土砂降り、小雨、お天気雨、風が吹いて横殴りなど「雨」と一口に言ってもこんなにもたくさんのバリエーションがあるんだな、と感心しました。そうした雨をシーンに応じて使い分けているので雨が語りかけてくる印象を観る人に与えます。主人公の2人の心が高ぶっている時は激しい雨が降るし、心の距離が近くなった時にはほんのり虹が出たりする。穏やかなシーンでは風もなく、静かに垂直に雨が降っていたりetc…
終盤の花澤さん演じるユキノの感情が溢れ出すアパートの階段のシーンは圧巻。激しい土砂降りと風も強い中の雨は、大きな雨粒は奥行きが見えないほど激しく降り、小さな雨粒は横に殴るように降っていた。
日本列島が梅雨入りするこのタイミングで公開したのは大変素晴らしい判断。この時期にこそ観る映画ですね。できれば新宿で見るといいかもしれない。映画館を出て雨が降ってたらもっと最高。映画が終わってもまだ映画の中にいるような気分が味わえると思いますよ。
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言の葉の庭
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そして、もうブルーレイもiTunes配信も始まっているという。
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