ダークナイトの製作会社が中国の製作会社と提携
アイアンマン3が中国で大きなキャンペーンをはったり、ハリウッドの映画スタジオが中国にもスタジオ建設したりと最近のハリウッドの中国シフトがかますびしいです。
最近も、ダークナイトシリーズを製作したレジェンダリー・エンタテインメントが中国の大手製作会社、China Film Co.共同製作の契約を結んだというニュースがありました。
Legendary East Finds Key Partner in China Film Co. | Variety
実際に契約を結んだのはレジェンダリー・エンタテインメントの子会社であるレジェンダリー・イースト。中国での製作の拠点として2011年に作られた新しい会社ですが、中国の大手製作会社との複数年(3年契約のようです)の大型契約が実現しました。レジェンダリーの中国進出計画にとっても大きな意味がありますが、China Film Co.にとっても海外の企業と長期のパートナー契約を結ぶのは初めてのことだそうで、今後共同で何本かの映画を製作していくとのこと。中国市場向けだけでなく、世界マーケットで勝負可能な作品を製作してくようです。
どういった作品を共同製作するのかの具体的な発表はまだありませんが、レジェンダリーは新スーパーマンのヘンリー・カヴィル主演を予定している「The Great Wall」という作品をやるのでは、という予測を上述のバラエティの記事では載せています。
さらに中国国内では外国映画は厳しい検閲を経ないと公開できないのですが、中国の会社との共同製作であれが外国映画とはみなされない可能性もあるので、中国国内での展開もしやすくなるでしょう。
ちなみに China Film(中国語では中国电影集团公司と書く)という会社は、中国で最も大きく、最も影響力のある映画製作会社です。
ちなみにこの会社、中国の国営の製作会社です。
ハリウッドの中国シフトはクリエイティビティにどう影響するか
さて、ハリウッドの各会社がこぞって中国マーケットを意識した動きを見せていますが、これは今後のハリウッドの在り方を変えるのでしょうか。北米に次ぐ世界第2位の映画市場になった中国ですが、まだその成長の衰えは見えません。
世界で最も成長している市場に投資するのはビジネスとしては当然の選択と言えますが、この動きによってハリウッドにはどんな変化が訪れるんでしょうか。
イギリスのガーディアンは、中国市場と当局を意識しすぎるあまり、クリエイティビティを犠牲にするのでは、との懸念を寄せています。
Be nice to China: Hollywood risks ‘artistic surrender’ in effort to please | Film | The Guardian
ハリウッドの脚本化、ウィリアム・ゴールドマンは、「中国に対して良くすることが今唯一わかっているすべきこと」という言葉を紹介しているこの記事によれば、映画の中に中国の悪役がいれば、その国籍を変更しないといけないし、中国のシーンを追加する必要もある。そして中国当局が気に入らないシーンがあれば、カットするしかない。現在のアメリカ映画はそうして露骨に中国を意識し始めています。
「007/スカイフォール」にも上海のシーンがあります。ジョゼフ・ゴードン=レヴィットとブルース・ウィリス主演のSF映画「LOOPER/ルーパー」も上海のシーンがありますが、中国上映版はもっと上海のシーンが多いらしい。元々構想の段階では中国のシーンはなかったらしいですが、この映画。
現在アベンジャーズ2の脚本作業中のジョス・ウィードン監督も、「誰かが僕にアベンジャーズ2を中国の要素で埋め尽くせと言われたら、それについて考えるしかないだろうね」と語り、ジェームズ・キャメロンもアバタ―の続編で中国の要素を加えることを検討しているとのこと。
これだけハリウッドが中国を意識せざるを得ないのは、中国の映画市場の急速な成長があります。すでに書いた通り、世界市場2位の座を日本から奪い取り、まだ大きな伸び代を見せています。昨年の中国の映画市場の利益は前年比30%の増加。スクリーンの数も大きく伸び続けており、10年以内に北米市場を超えて世界の映画市場の1位になるとの予測もあるようです。
もしそうなれば、ハリウッドは中国市場を前提に映画を作らねばなりません。そして、それは創作の大きな制約を課すことになるかもしれません。
中国には検閲がりますので、当局の気に入らないものは上映できません。ハリウッドという世界最高峰の創作集団が中国当局の顔色を常に伺いながら映画を作る事態になるかもしれない、ということになります。
中国公開バージョンと他のバージョンを分ければ済む話かというと、コスト的にはあまり合理的じゃないでしょうし、なによりアイアンマン3が積極的に中国市場に受けるような内容を作って、しかもそれが中国では大ヒットしているのですから、どういう方向に競争が向かうかは想像可能ですね。
それでなくても外国映画は中国では年間34本しか上映が許可されていません。その枠にはめられないようにするには、中国映画を作るしかない。つまりレジェンダリー・エンタテインメントのように中国の製作会社と共同で製作をするということになります。その内容は当然中国寄りの作品になりますね。「The Great Wall」的な。天安門事件とかダライ・ラマはハリウッドは題材にできないです。
アイアンマン3の中国版は悪役であるマンダリン(ベン・キングスレー)は登場しませんし、ヒロインまで中国人女優に変えてますし、トニー・スタークを助ける中国人キャラクターまで登場します。CNNは「プロパガンダぎりぎり」との映画ライターのコメントを紹介しています。
中国は、自分たちでわざわざプロパガンダをする必要がないのかもしれんですね。ハリウッドが中国市場欲しさに勝手にやってくれるから。国際的なイメージアップにこれ以上最適なパートナーはいないでしょうね。
しかし、こういう姿勢はハリウッドのクリエイティビティを殺すことにつながらないか心配です。ハリウッドが世界1の映画製作能力を持っているのはお金の他、世界中から才能が集まるから。この極端な中国シフトが続く場合、ハリウッドを敬遠する人も出てくるかもしれない。
そんな昨今のハリウッドの現状を皮肉って、ジョージ・ルーカスやロバート・ゼメキスを排出した映画の名門校USCでは、映画を中国向けに脚色することを教え始めた、なんてジョークのニュースがバラエティに掲載されています。
ジョークで済めばいいんですが。
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