ブロゴスが珍しく映画の試写会の募集をしていたので応募。
先週一足先に見てきました。
ノンフィクション作家の門田隆将さんと防衛省防衛研究所戦史研究センター主任研究官の小谷賢さんのトークショーつきの試写会なので普通の試写会よりもお得でした。
戦史の専門家、小谷さんも「細部までよく作りこまれていて、感銘を受けました」と語っておられますが、時代考証は大変よくしっかりしていて、変な色眼鏡で日本を見ていない作品ですね。
変に誇張された日本でもなく、変に美化された日本でもなく、アメリカから見た日本人の精神性の謎な部分をちゃんと考察しようという意志が伺えます。
それだけに少し惜しいと感じるのは創作部分のメロドラマパートが安易すぎた点。主演のマシュー・フォックスも存在感がイマイチ。対照的にマッカーサー役のトミー・リー・ジョーンズは圧巻。はまりすぎている。豪放な野心家、それでいて計算高く、判断には感情よりも合理的計算をしっかりと働かせる冷静さを合わせ持った指揮官として描かれています。
この映画、日本人の不思議な精神性をアメリカ人が真剣に考える映画ですね。
冒頭、厚木の基地に向かう飛行機の中か始まるこの映画。すでにこのシーンで映画全体で重要な台詞が登場します。主人公フェラーズが「天皇降伏せよ、とは言わずに、耐えがたきを耐えよと言い、戦争を集結に導いた」と言いますが、このハッキリとはしない、しかし強い意志のこもった昭和天皇の言葉が冒頭に出てくることが重要です。
フェラーズ准将は、マッカーサーからの特命で真の戦争責任者を探すよう指示を受ける。そして高橋という専属の通訳権ドライバーをあてがわれる。ここでフェラーズは高橋に「プライベート」な人探しを依頼する。アヤという女性を探せという命令だが、この女性との関係は、作中でもフェラーズのアキレス腱のようなポイント。フェラーズのライバルの同僚もこの女性との関係を密告したりして妨害するようなシーンもある。
さおれだけに会ってすぐに、信頼できるかもわからない高橋に自分の最も重要なプライベート案件を任せる、というのは脚本の弱点になってしまっている。ここはもったいなかった。高橋は最後に重要なアドバイスをしたりもするし、ストーリーの中盤ではフェラーズと家族の話などでわかり合う関係だけにもっと描写を積み重ねた方がよかったんじゃないか。
この映画はそうしたドラマパートの弱さが時折目立つ一方、物語の骨格である戦争責任と日本人の精神性の点ではきちんと掘り下げているし、史実にも忠実。
この映画は最終的に天皇に戦争責任があったもなかったとも結論づけていません。その部分は日本人の曖昧な意思決定の中で行われており、永遠に謎であろう、としています。ではなぜ連合国側は天皇を処刑するという結論を出さなかったのか。本国ワシントンの政治家の中では天皇を処刑せよ、という声も大きかったのに。
それは天皇に戦争責任があるかどうかはわからない。しかし、戦争終結に大きく貢献したことだけはわかっているから。「耐えがたきを耐えよ」の言葉が冒頭に出てくる意味がここに生きてくる。自らの野心のために日本統治をスムーズに行いたいマッカーサーは、日本統治に天皇の力を「利用」することを合理的であると判断したわけですね。
しかしながら、単に合理的に利用できるという計算だけが動機であるとも描いておらず、天皇の「私が全責任を…」の言葉に感銘を受けている部分もあります。この昭和天皇とマッカーサーの会談はマッカーサーの回顧録に沿った描写になっています。ただこの映画では握手を申し出たのはマッカーサーになっていますが、史実では天皇じゃなかったかな?映画の展開的にここはアレンジが入っています。天皇が出てくるのは映画の終盤になってからですが、それまである種のミステリアスな存在として描かれています。そのミステリアスなイメージに覆われた天皇の人間性をマッカーサーの握手の申し出で突破した、みたいな展開にしたかったのでしょうかね。そこは少しアメリカ寄りなのかもしれないけど、瑣末な部分かもしれない。
全体としては見応えある作品に仕上がっています。戦後日本社会の礎となった意思決定がどのような理屈でなされたのか、そして永遠に変わることのない日本人の本音と建前の精神性を正面から見据えようとという製作陣の意志は素晴らしいと思います。
安易に日本は、日本人は変わらないといけない、と言う人がいるのですが、ここに描かれているように日本人は変わらないんですよ。というか歴史ある国の、そこに住む人々の精神性は日本に限らず変わらないものです。
そして完璧に理解することはできない「永遠の謎」という断絶があるのだという理解に至るのですね。理解しきることはできないという理解に達することはとても重要なことではないでしょうか。この映はそういうことを教えてくれる映画です。
集英社 (2013-05-17)
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