映画のオンデマンド配信の市場も少しずつ成熟してきたかなあと感じる今日このごろですが(日本ではまだまだかなあ)、インディーズの映画作家にとってもこのオンデマンド市場の成長は見逃せないものです。作り手がユーザーに直に映画を販売するシステムの台頭は、従来の映画配給には乗りづらいマイナー作品にもスポットを当てる可能性があります。映画作家のセルフビジネスの時代がやってくるんでしょうか。
9月に開催されていた北米最大級の映画祭「トロント国際映画祭」で、オンデマンド配信サービスと映画祭を繋げた新しい試みがなされました。
それは動画配信サービス、Vimeoがトロント国際映画祭に出品された150作品に1万ドルの前払いを行い、映画祭での上映終了後から即、新サービス「Vimeo on Demand」でのオンライン配信を独占的に行うというもの。
1万ドルの前払いというのはけっこう凄い。インディーズの映画作家からしたらかなりありがたいことですね。
Vimeo on Demandは、今年の3月に始まった新サービスで、主に映画作家向けで有料動画配信を世界中に向けて提供できるサービスです。
Vimeo Pro(年間199ドル)のアカウントを登録する必要がありますが、基本的にだれでも有料配信を行うことが可能となっています。
このサービスの優れた点は、価格設定はもちろん、どの国で配信するかを細かくカスタマイズできるところ。全世界(ワールドワイド)に配信も可能ですが、日本のみや、日本以外など特定の国のみに向けて配信する設定が容易にできるところです。これの利点は、どこかの国の配給会社が自国でのオンライン配信の権利を購入したいとなった場合、その国には配信権を売って、残りの国のみ自分で配信するなどの措置が取れる点。従来の映画の配給ビジネスと共存できるということですね。
さらに手数料も安い。Vimeo側の手数料はわずか10%で、iTunesやYouTubeの30%と比較して、クリエイター側の分配率が多くなっています。
詳しくは以前書いた以下の記事を参照してください。
高品質の動画を提供するVimeoが有料配信サービスを開始。利益配分はクリエイターが90%
今回のトロント国際映画祭での提携では、150もの映画祭出品作に対して、1万ドルを前払い。一応条件があって、30日間、Vimeoでの独占配信権を認めること、あるいは前払いの1万ドルをペイするまでVimeoで独占配信すること。
独占配信の期間が終了すれば、その後は従来の配給会社に上映権や配給権の販売は問題なく行えます。ここでも従来の配給システムとの共存をはかろうという意志が見えています。
映画祭でのプレミア上映後にすぐに配信をスタートさせることができるので、映画祭で大きく話題となった作品をいち早く世界中の映画ファンに届けることができるわけですね。
従来の配給システムですと、映画祭で大きく話題になっても、公開は1年後だったりすることがザラです。大量の情報の中で生きている現代人は1年前の話題をあっさりと忘れていることも多々ありますし、せっかくの映画祭という大きなプロモーションの場で獲得した評判は新鮮なうちに使っていきたいものです。
それに最近の日本でもけっこう多いのですが、海外映画祭で評判になった作品が日本国内の配給会社の買い手がつかずに、上映もDVDの販売ももちろんオンラインの配信もなくスルーされてしまうケースがあります。このVimeoの手法であれば、そういう作品でも見ることができるようになります。(字幕の問題はありますが)
同様の手法で、Vimeo on Demandで配信中の作品に「Some GirlI(s)」という映画があります。この映画は今年のSXSW映画祭で、大きく話題となった作品で、ゾーイ・カザン(ルビー・スパークスのヒロイン。エリア・カザンの孫)やエミリー・ワトソンが出演しているコメディ映画。結婚を間近に控えた男が、過去に別れた恋人たちを訪ねて旅をするというストーリー。
この作品はワールド・ワイドで世界中どこからでも以下のリンクから視聴可能です。期間限定のストリーミングで5ドル。ダウンロード購入で10ドル。
英語、フランス語、ロシア語、スペイン語、ポルトガル語、ドイツ語、イタリア語の字幕が提供されます。
Some Girl(s)
予告編はこちら。
“Some Girl(s)” – Trailer from Some Girl(s) on Vimeo.
映画祭のアーティスティックディレクター、Cameron Bailey氏は、この施策はトロントに作品を出品する映画作家にとって良いボーナスになるだろう。そして、オーディエンスと繋がろうと努力する映画作家にとって、これはとても素晴らしい機会だ」と語っています。
映画祭に出品だけで1万ドルのボーナルがついてきたら、映画作家もこの映画祭を目指すより強い動機が得られますし、クリエイター側にはもちろん、映画祭にとってもメリットがあるでしょうね。世界中に配信期間限定で配信することで、そこで映画祭に来られなかったどこかの国の配給会社の目に留まる可能性もあります。
Vimeoのやり方は従来の伝統的な配給ビジネスをつぶすのではなく、上手く共存してやっていこうという姿勢があるのがいいですね。
キネマ旬報社
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