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フラッシュバックメモリーズ3Dレビュー、甦る過去も記録する斬新なドキュメンタリー

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ヴィム・ベンダース監督の「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」のレビューでも書きましたが、3Dの魅力は奥行きを表現できることによりリアリティの獲得ではなく、むしろ違和感にあるのだと思います。ベンダース監督はその違和感と距離感を見事に効果的に使っていましたね。その違和感で持って、異空間を創り出して、ピナ・バウシュが目の前の観客に提示したであろう、幻想的な世界を映像で見事に再現していました。

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松江哲明監督の「フラッシュバックメモリーズ」もその3Dの持つ違和感を見事に効果的に用いています。ベンダースは舞台上に再現される異空間を演出するために(舞台は目の前の生身の肉体を持つ役者が、異世界を見せる空間)、3Dを使いましたが、松江監督が3Dで表現しようとしているのは人の記憶。

この映画は、アボリジニの楽器であるディジュリドゥ奏者、GOMAさんの過去の記憶を追体験するドキュメンタリーです。GOMAさんは交通事故に会い、記憶の一部が消えてしまったり新しいことを覚えづらくなるという高次脳機能障害になってしまいます。
友人のことも思い出せない、家族のことも自分がディジュリドゥ奏者も思い出せないという深刻な状態に陥り、新しいことをしてもすぐに忘れてしまいます。映画「メメント」のような症状を思い浮かべるとわかりやすいかもしれません。
懸命のリハビリによって、再びディジュリドゥを演奏できるようになったGOMAさんのライブの映像のバックに彼が撮影した過去の映像が流されます。ここに松江監督は3Dによって、演奏するGOMAさんと映像に奥行きを作り、映像の中にGOMAさんが浮き上がっているように見せています。これが劇的に効果を上げていて、まるで走馬灯のように記憶が甦るっているように見えるんですね。
2Dの予告編ではいささかわかりにくいかもしれないけれど、イメージは掴めますかね。ディジュリドゥの長さを強調する意味でも3Dは効果的でした。

文字情報も前に後ろに距離を作って浮かべるように表示しているのも大変印象的です。

ドキュメンタリーの基本は記録することにあります。それ故に現在カメラの前で起こっていることしか撮れないものです。せいぜい過去を知る人のインタビューや文献にあたることでしか過去を参照できないドキュメンタリーが、こういう形で過去を取り戻す過程を現在として描けるというのは大きな発見だと思います。
この映画はGOMAさんの現在の姿を単に捉えるだけでは足りず、記憶を少しずつ取り戻す彼の内面をもまた現在として描かなければ成立しません。それを3Dによって見事に実現しています。
かなり演出された手法ですが、たしかにこの方法以外には撮れない何かがこの映画にはありますね。

素晴らしい作品でした。そして3Dで映画館の暗闇で見なければ意味のない作品でもあります。

松江哲明監督からのメッセージ via 公式サイト

ドキュメンタリーは「現在」しか記録することができない。そこが劇映画と決定的に違う点だ。GOMAは交通事故に遭ってから多くの過去を無くし、新しい記憶を維持することさえ困難となった。現に彼は本作の撮影時のことを覚えていない。今を生きる彼をドキュメンタリーの手法で撮影することは必然だったが、彼が無くした過去も「現在」として同時に表現しなければいけない、と僕は考えた。そのためには3Dをパーソナルな表現として捉え、立体感や奥行きをレイヤーとして認識する必要があった。本作がジャンルとしてのドキュメンタリーに当てはまるかは分からない。だがGOMAと出会ったことによって生まれた「映画」であることは間違いないと思う。

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