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夢と狂気の王国レビュー、不思議の国ジブリを旅する映画

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スタジオジブリが日本映画最大のヒットメイカーであり、この創作現場の裏側に密着、という体の映像番組や作品はかなりたくさんあります。やはり多くの人を惹き付けるジブリ作品がどう生まれているのかはクリエイターじゃなくても気になりますから。
そうした作品は、「あのシーンはこう作られていた」、というようなメイキング的な要素を帯びることが多いですが、エンディング・ノートが話題となった砂田麻美監督による「夢と狂気の王国」はそうしたドキュメンタリーやメイキングとはちょっと違いますね。
今作は、ドキュメンタリー作家、砂田麻美の視点で見た「不思議な国ジブリ」の体験談であって、創作の秘密をひとつひとつ明かすということはしていません。その代わり、ジブリという場に流れる不思議なテイストを捉えています。

スタジオジブリは東小金井にあります。この映画の主な舞台も当然そこになるのですが、とても中央線沿いの住宅街の中にあるとは思えない空間としてジブリを捉えています。
ほとんどジブリのスタジオとアトリエ内が舞台だからなのですが、スタジオジブリの中は西東京の郊外にありながら、そこから切り離された異国の地のような印象を与えます。
いつのまにかスタジオ内に住み着いてしまったネコが我が物顔で闊歩していて、屋上には緑の庭園があって、螺旋階段も印象的。丸窓もあったりする。
そうした異国感を強調するように砂田監督は非常に絵心ある印象的なインサートショットを多様しています。ドキュメンタリー作品ですが、前編に渡ってしっかりとした構図で撮影されていますし、音も綺麗。
砂田監督自身がナレーションを担当し(キレイな声)、監督自身はカメラの前に登場せず、カメラは彼女の視線の代わりとなって見ている人が、「不思議な国ジブリ」に迷い込む様を追体験させるような作品です。

一言でいうとジブリの創作の秘密を説明する作品じゃなく、あの作品達が生まれた場所を体験させる作品。こういうアプローチでジブリに迫ったドキュメンタリーは今までになかったですね。

作品製作の過程の本音も見えるのでそういう意味でも見所はたくさんあります。主人公の声優を庵野秀明さんに決まった過程を捉えていますが、宮崎監督と鈴木さんの思いつきから始まったアイデアに、キャスティング担当のスタッフが凍り付いていたのが印象的です。 笑

引退会見直前の控え室で、砂田監督に語るちょっとした小話を非常に印象的に「演出」しているのもグッドです。カッチリとしたインタビューも撮っていますが、それよりもこうした何気なく語る言葉に創作の秘密を見つけようとした姿勢も面白い。
ネタバレは控えますが、あの言葉にああした映像を被せるのはあざとくも上手い。あれは聞き流したらなんでもない言葉ですが、ああやって見せることでとても「躍動的」になりましたね。

一方できちんとスタジオジブリの歩んできた道程を、人と人との繋がりの縁を便りに追いかけています。ジブリ作品が日テレでしか放送されないのはなぜか、宮崎さんと高畑さんの出会い、日テレの奥田さんとの出会いが「千と千尋の神隠し」に繋がったことetc…

砂田麻美監督はエンディング・ノートの成功が決してフロックではないことを、この作品で証明しました。宮崎駿や鈴木敏夫のような業界の傑物を題材にして、自分のカラーに染上げる。なかなかできることでありません。

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