僕はガラポンTVを愛用しておりまして、以前もこのようなエントリを書いたこともあります
(ガラポンTVがTVをネットと同じ自由度を実現してくれて驚くほど素晴らしい件)。
そんなガラポンTVの産みの親、保田歩氏が本を書いたというので読んでみました。
本のレビューの前にガラポンTVとは何かを簡単に説明してみます。
ガラポンTVはテレビにおけるGoogle
これは、家庭のテレビアンテナにつないで設定すると、あとは自動で地上波のテレビ番組を全て録画し、スマホ、タブレット、PCから録画データにアクセスして、いつでも視聴可能にするもの。ワンセグデータを記録し、内蔵のHDDで2週間分、外付けHDDを取り付ければ最大3ヶ月分のテレビ番組にいつでもどこでもアクセスできます。古いデータから順に削除し、どんどん自動的に新しい番組を録画していきます。全ての番組を録画して、いるでもアクセスできるようにすることで、テレビ視聴の時間と場所の制約を取り払うことが可能にする端末です。
このガラポンTV、巷では録画機と紹介されることが多いのですが、ミスリーディングな気がしています。いや実際録画してるのだから録画機で間違っているわけじゃないのですが、そのサービスの本質は「録画」ではありません。
例えるならGoogleのテレビ版。
Googleは日々世界中のサイトを巡回し、そのデータを巨大データセンターに保存しています。それによって同社は検索サービスを提供できるわけですが、Googleが検索サービスを提供するために行っているのは世界中のwebサイトの記録。でもGoogleをデータ保存会社と紹介したりはしませんね。
ガラポンTVも一緒で、地上波全番組を自動録画してローカルなストレージに保存して、検索サービスその他を提供しています。なのでGoogleがデータ保存会社じゃないように、ガラポンTVも録画機じゃなく、検索サービスなんですね。録画された番組が永遠じゃなく、ストレージの容量が限られるので、自動上書きされるという違いはありますが、両社の指向性は一緒。いつでも&どこでも情報(あるいはコンテンツ)にアクセスできるようにする。Googleの対象は世界中のWebサイトでガラポンTVの対象は日本のテレビ番組。ガラポンTVは番組の字幕データ検索まで可能なので、頭出し再生も可能だし、Googleの手の届かない部分を検索可能にしてるんですよね。
その意味でガラポンTVは、本家の作ったGoogle TVよりもよっぽどGoogleっぽいことをテレビで実践してると思います。
本書から引用するとガラポンTVのポイントは5つ。
- 時間の制約がない
- 場所の制約がない
- 優れた検索機能(番組の中まで検索する)
- ソーシャル機能(番組の評価やレビューを通じて自分が見るべき番組がわかる)
- オープンプラットフォーム(第三者の力を活かす仕組み)(P65)
今日インターネットで当たり前といえるこの5つのポイントをテレビでも実現可能にするのがガラポンTVです。
さて本書はそんなガラポンTVを作ったベンチャー社長、保田歩氏の創業記です。創業に至るまでの人生、起業や仕事に対する考え方、苦労話などを忌憚なく語っています。ハードウェアのベンチャー、というまあ、普通に考えたら面倒くさそうな道をあえて選択した著者の人となりがよくわかる内容になっています。タイトルにもある通り、文系でパソコンも就職活動の時に初めて買ったというレベルの著者がこんな俺でも起業できるんだ、という応援メッセージのような内容です。漠然としておらず実体験と明確なビジョンを掲げて書かれているので、わかりやすいし、いろんな気づきがあると思います。
想い通りにいかないことを楽しむこと
目標を立てても想い通りにいかないことがあって人は挫折するものですが、著者は想い通りにいかないことを楽しむことを推奨しています。ガラポンはハードウェアのベンチャーなので、想い通りにいかないことは多々あったそう。
製造原価が想定以上に膨らんだことで、利益確保のラインが上がり、販路を限定されたことや、不具合の発生によるクレームなどなど。。。
「おい、社長の保田!ハードをなめんなよ(P137)」と名指しでネットで批判されたりもしたそうです。
しかし、そんな苦しみを1つ1つ乗り越えていくと、まさに山を超える楽しみが生まれると語っています。
クレーマーと真摯に改善を求めるユーザーを線引きする
またユーザーとのつき合い方も参考になります。ユーザーの声が重要なのは当然のこととして、問題は真摯に問題を投げかけるユーザーとクレーマーの線引き。単なるクレーマーには毅然とした態度で接すること、そして製品とサービスに愛着を持って改善を求めるユーザーはまさに「炭坑のカナリア(P149)」のごとくありがたい存在として大事にすべしとのこと。
クレーマー、面倒ですよね。でもサービス業をやってるとこの線引きが意外と難しい。どうしてもクレーマーの方が声がデカくて目立つので、そっちにエネルギーを割きがちになりますが、本来大事にすべきは真摯なユーザーの方なんですよね。
将来のテレビ像を設計する
最初にガラポンTVは、Googleのテレビ版というような紹介をしましたが、実際にはガラポンはデータを個々で設置したローカルなストレージにためている状態。自宅の端末が壊れたら二度とアクセスできなくなります。これではGoogleには及ばないですね。
しかし、この著者の中で保田氏はガラポンの最終的な形に言及しています。それはテレビ番組の録画機能のクラウド化。
「ユーチューブ」に全てのテレビ番組の映像データが載っているようなイメージ(P168)
と書いていますが、これはまねきTVやロクラクが著作権の侵害にあたるとされてしまう現在の日本の現在の法制度では、提供不可能なサービスですが、これがガラポンの最終形態だと言います。これの実現は非常に壁が高く、テレビ局の理解を得るのも難しいのかもしれません。でもできないとは決めつけず、現状どんな形であれば、提供可能なのかを徹底的に考える、そうして完成したのが今のガラポンTVなのですね。(ローカルストレージに個々のユーザーがアクセスする。これなら私的利用の範囲内)
今可能な範囲でもいいので、具体的に提示する、そうして新しい可能性を開いていく姿勢がこの会社にはあります。実際、クラウドにアクセスするのも、ローカルにアクセスするのもユーザー側からすれば、その利用体験には特別な違いはありません。ここまでとりあえず実現しておけば、クラウド化した時のメリットももっと説明しやすくなってますね。クラウド化すれば、端末いらなくなるから設定が楽になりますし、壊れる心配はしなくていいし、事業者側的にもクラウドへのアクセス解析で視聴者の把握がしやすくなるしetc…
本書内でも比較対象として引き合いに出していますが、米国のNetflixは当初、オンラインでのDVDレンタルから事業を初めました。ネットでレンタルDVDを注文して、数日後にDVDが自宅に届くのですが、その数日のタイムラグをなくせたらもっと使いやすいですよね?とストリーミングのメリットをより具体的に提示できる土台を自ら創りあげていました。これも現状で実現可能なことを具体的に示して理想に近づく好例ですね。
ビジョンを一歩ずつ形にしていくわけですね。
よく起業家にはビジョンが大事だ、よく言われますが、このガラポン株式会社の保田氏はビジョンを非常に具体的に持っていることが本書を読むとわかります。具体的なテレビの未来像を設計して、それを少しずつ形にしていっているのがこのガラポンという会社。ユーザーとしてそれに参加できるのはとても楽しいですね。
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