聖者は時に狂人に見える。この映画はそれを描いているんでしょうかね。
レスラー、ブラック・スワンのダーレン・アロノフスキー の超大作は、ノアの方舟伝説の映画化。創世記をそのまま忠実に映像化ではなく、かなり脚色を加えて、ノア本人も含めた人間の罪深さを浮き彫りにするような展開にしています。ノアは「ヤハウェに従う無垢な人」というよりも、神の意志にとらわれすぎて凝り固まった人、という感じに描いています。単純に救世主とは描かず両義的に見せる点は、いささか現代的な解釈すぎるかもしれませんが、ドラマに深みは与えてくれています。
創世記と大きく異なる点は方舟に乗り込むノアの家族構成。創世記では3人の息子の妻も一緒に乗り込みますが、映画ではノアとその妻、三人の息子の他には後に長男の子を身ごもるセムの恋人イラしか乗り込みません。それぞれの動物のオスとメスのつがいを乗せた舟に乗り込んでいるのに、自分は独り身であることで嫉妬を覚えるハムは父に対して複雑な感情を抱いています。そして無垢な人ノアは、そうした次男のねたみや長男セムの欲望、さらには自分たちだけ助かろうという自分自身の行為を見て、人間は悪だという思いにとらわれ、神の意志に従い家族まで殺そうとしてしまいます。
この辺の豹変ぶりがこの映画のキモ。いやむしろ無垢な人ノアはブレずに神の意志に従うからこそ、家族まで手にかけようとするということですね。変わらないからこそ変わってしまう。人間とは複雑な生き物ですね。
ノアと敵対するカインの末裔トバルカインは傲慢な独裁者として映画に登場しますが(ちゃんと鍛冶はやってます)、ノアが闇落ちしたあたりから、むしろ彼の方が人間の可能性を信じているようにも見えてきて、状況が変われば善悪の見え方も変わるものだなあ、としみじみ感じさせます。
メル・ギブソンのパッションのような、ヘビーさはなく、むしろエンタメに徹した演出でそれほど身構えずとも鑑賞可能。洪水のシーンなどはかなりの迫力。
でも画面サイズは、ビスタじゃなくシネスコがよかったなあ。
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