グザヴィエ・ドランは久々に登場した世界のアート映画のスターだろう。演じてよし、監督してよし。そしてまだ25歳。同性愛者であることを公言していてその言動も進歩的という印象だ。世界のハイカルチャーシーンでも重要な存在になれるだろう。
監督2作目の「胸騒ぎの恋人」以外は見ているが、母親との関係、同性愛やトランスジェンダーを題材にすることが多い。自身のパーソナリティを色濃く反映しているようだ。自分を描くということは若い監督にはありがちで、それが上手くいくときと、「そんな事知ったこっちゃねーよ」と引かれたりするときもあるのだが、ドランの場合は見せ方にセンスもあるし、なにより役者の芝居が高レベルなので、あんまり拒否反応が起きない。19歳のデビュー作「マイ・マザー」でも彼の演出力はすでにかなり高い次元になった。子役をしていたので、演技の経験は長いとはいえた大したものだと思う。
さて、そんなドランの監督5作目の「Mommy マミー」は、カンヌで審査員特別賞にゴダールの「さらば、愛の言葉よ」と共に輝いている。大御所ゴダールとともに受賞というところにカンヌ側のメッセージを感じなくもないが、決して過大評価というわけでもないと思う。若さに頼った斬新さとエネルギーだけで押した作品では決してなく、むしろ成熟さを感じさせる。
本作は、インスタグラムでお馴染みになった1:1の正方形のアスペクトで構成される。映画としては相当珍しい。最も一般的な映画の画面サイズはアメリカンビスタの1.85:1(ヨーロピアンビスタは1.66:1)で、シネスコは2.35:1、最近は多くは見かけないがスタンダードサイズでも1.33:1だ。1:1は相当狭い。役者をバストショットで撮ると、ほとんど役者しか映らない。さらに徹底して背景がフォーカス外になっている。必然的に観客は役者に一挙手一投足に集中する。それでいて集中をきらすことなく134分の長尺を見せきっている。役者の芝居が見事なのだ。
ドランのスタイル、心理に合わせて画角を変更することやスローモーション、シンメトリーの構図、音楽の挿入の仕方などユニークな点はたくさんあって、それらがドランの作家性を作っているのはもちろんだが、役者の芝居を引き出す力も相当に高いと思う。役者がひどかったら1:1の画角で、人物だけ切り取られたら、見てられないが、それだけで作品を引っ張っていけるほどに登場人物が魅力的だった。本人の演技経験は長いとはいえ、まだ25歳でこれだけできるのはすごい。母親役のアンヌ・ドルバル、隣に住む休職中の教師カイラ役のスザンヌ・クレマンはともにドランのデビュー作「マイ・マザー」にも出演していて、勝手知ったる部分もあるかもしれない。
このインタビューによると、役者と現場に接するときとはとにかくたくさん会話する、とドランは語っている。これは役についてのディスカッションということなのかな。インタビューから受ける印象ではもっとカジュアルな感じだが、彼流の役の掘り下げ方なのかもしれない。
※ドランの映像スタイルについては、この10分のミニ・ドキュメンタリーがわかりやすい。