
名作のデジタル・リマスター安定したビジネスか?
今実は静かに往年の名作のリバイバル上映ブームが起きている。このブームの火付け役はなんといっても今年で7年目になる午前十時の映画祭だろう。7年目を迎えて動員はまだまだ伸びているようだ。
午前十時の映画祭、「ティファニーで朝食を」が動員新記録を樹立 動員&興収も昨年から大幅アップ : 映画ニュース – 映画.com
午前十時の映画祭も当初はフィルムでの上映だったが、2013年以降は高画質のデジタル・リマスターによる上映に舵を取っている。今後の映画館がデジタル上映のみになっていくため、往年の名作をデジタル化すつ動きがここのところ活発になっている。
午前十時の映画祭の他、現在「愛と哀しみのボレロ」のデジタル・リマスターが上映中だし、他にもエミール・クストリッツァ監督の傑作の特集上映「ウンザ!ウンザ!クストリッツァ!」、フランシス・フォード・コッポラの「地獄の黙示録」も最近リマスターが公開されている。
往年の名作をスクリーンでもう一度観たいという声は熱心な映画ファンの間では根強い。優れた映画は何年たっても魅力が色褪せることなく人を魅了することができる。映画ファンとしてこうした作品を見られるのは大きな喜びだ。
こうしたリマスターブームは配給会社にとってのビジネス上の都合もあるようだ。5月21から公開開始のホウ・シャオシェン監督の往年の傑作「冬冬の夏休み」と「恋恋風塵」のデジタル・リマスター制作と配給を手掛ける熱帯美術館の池田史昭氏は、名作の再上映は安定して集客が見込め、パッケージの販売数もある程度数字が読みやすいと語る。むしろ新作の方が売れるか売れないか分からないので博打の要素が強いのだとか。ハリウッドメジャーならいざしらず(いや国内ではハリウッドメジャー作品すら苦戦しているか)、最近ではカンヌで賞を受賞した作品でも日本国内の興行は苦戦するケースも多々ある。その点、すでに映画ファンに名の通った名作上映の方が安定して収益が出しやすいという事情もあるそうだ。
これはもしかしたら、一部の映画ファンが新しいものを積極的に求めず、保守化しているということかもしれないが、名作が美しいプリントで蘇り、それを観賞する機会は大変に貴重なものだし、映画作品を保存していくことは、文化の継承という点からももっと促進されるべきことだ。今後もどんどんこの動きが広まっていくといい。(現在の映画作家は過去の名作と競わねばならないので、より過酷な競争を強いられることになるけど)
巨匠の瑞々しい青春映画の傑作
熱帯美術館は、なぜこの2作を選んだかというと、2014年の「三大映画祭週間」で「恋恋風塵」がもっとも多く動員した作品だったからだという。今回、この2作のDCP(現在のデジタル上映規格デジタル・シネマ・パッケージの略)の上映素材は世界で初めて制作されたという。台湾でも状態の悪いネガプリントしか残っておらず、修復は大変な作業だったようだ。
「恋恋風塵」と「冬冬の夏休み」はホウ・シャオシェン監督の青春四部作のうちの2作だ。ベネチア国際映画祭で金獅子賞を「悲情城市」で受賞してからは重厚な作風が多くなったが、悲情城市以前のこの2作は軽やかさと瑞々しさに満ちていて、台湾の田舎の市井の人々の暮らしぶりがよく伝わってくる。
そして、両作品とも美しくなつかしさを感じさせる。単に古い作品だからでない。人のノスタルジーを刺激する要素にこの2作は溢れている。当時の台湾の地方と都市の空気感がとてもリアルに感じられるし、画面の中の人間たちがどれもこれも地に足のついている。台湾は近いような遠いような場所だが、僕らの隣人となんら変わらぬ葛藤を抱え、子供は無邪気にたくましく生きている。名作として生き残るには時代も国も超えられる普遍性が不可欠だが、この2作にはまさにその普遍性にあふれている。
そんな名作が美しく蘇り、観賞できる機会が得られるのは文化の熟成という点からみても大変に喜ばしいことだ。東京では5/21から上映開始。是非ともスクリーンで見て欲しい。