アクション映画はやはり悪役が魅力的でないといけない。アクション大作の醍醐味は破壊の享楽にこそあるわけで、それを実行するのは大抵悪役の方。ヒーローごっこ遊びでも悪役やりたがるタイプの子はいるけど、やっぱり悪役のが好き放題できるからね。
悪役が輝く映画は、昨年だと『マッドマックス 怒りのデスロード』があった。あの映画を見終わった観客のほとんどはマックスではなく、イモータン・ジョー側に感情移入している。劇場出たらみんなヴァルハラに行ってきたみたいな気分になってたし。
もう少し遡ると『ダークナイト』のジョーカーあたりか。ジョーカーは、物語の都合上バットマンに敗北するが、精神的には全く敗北していなかった。こういう悪役はシビれる。るろうに剣心の志々雄なんかもこういう感じ。一本気が通っているというか、ブレずに己の道をゆく感じにもシビれる。
桜井画門の漫画を原作とする「亜人」三部作は、間違いなく悪役が輝く映画だ。佐藤がとにかくかっこいい。魅力的なキャラクター揃いの本作だが、佐藤の魅力は飛び抜けている。
原作の展開にほぼ忠実だった1部と2部に比べて3部はオリジナルの展開を見せるが、むしろ佐藤の魅力は原作よりも増しているのではないか。世直し的なスケールの大きなことを実は全く考えてもいない佐藤だが、映画版ではそれがむしろ一貫している。声優の大塚芳忠の芝居がかなり良かったせいかもしれない。
亜人だから死なない時点で無敵だが、とにかく強い。そしてブレない。彼は「心ゆくまでワクワクしたい」だけなのだが、そのためには手段を選ばず殺戮も破壊も一切躊躇しない。世直しのつもりもなければ、亜人の権利にも興味なく、自分の楽しみのためだけに行動する。言葉で書くと単なる狂人に感じられるが(いや、実際狂人だけど)、非常に計算高く行動できる冷静さもある。自分が狂人だという自覚はあるのだろう、それでいて狂気と上手くつきあっているようにも見える。ああいう狂気のまま正気を保っているようなキャラはなんであんなに魅力的に見えるんだろう。バットマンのジョーカーなんかもそうだけど。
もちろん主人公サイドのドラマも見応えある。主人公永井の成長も見所だが、戸崎と下村泉のドラマのほうが今回は感動的だった。3部の泉ちゃんは大変カッコ良い。あんなに戸崎さんのこと考えていたのね。
全編3DCGの作画に関しては、違和感は拭えない部分はある。同じポリゴン・ピクチュアズが手がけた『シドニアの騎士』と比べても違和感がある。『シドニアの騎士』の場合は、あの世界観と少し人工的な3DCG作画がマッチしていたけど、今回は現代日本が舞台なので、その人工的な感覚が残っているのはマイナス点といえばマイナス点か。しかし、本作のアクションの迫力は2Dアニメではなかなか出せないものかもしれない。IBMの質感は実に素晴らしく、空気のようにフワフワしたものなのに、破壊力は高い感じがよく出ていた。この点は音響チームも素晴らしい仕事をしている。
脚本も破綻なく、トータル完成度の高いアクション映画だった。あの終わり方なら続編もできそうなので、続編も作ってほしい。
(C)桜井画門・講談社/亜人管理委員会
講談社 (2016-10-07)
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