9/14に欧州委員会が発表したEU改正著作権法が波紋を読んでいる。
[FT]デジタル著作権改正案はEUを後退させる(社説) :日本経済新聞
今回の改正著作権は、主にデジタルコンテンツの著作権を整理するのが目的。現在のEUの著作権法は、加盟各国の著作権法が適用される状況にあり、バラバラなのだが、国を超えてやり取りされるオンラインコンテンツの運用の不透明性をなくし、EU統一のルールを作り、「EUデジタル・シングルマーケット」の創出が狙いだ。
全文はこちら。(英語)
DIRECTIVE OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL on copyright in the Digital Single Market [PDF]
EU全体で統一運用したい、というのはわからなくもない。著作権法はただでさえ複雑だし、その上さらに各国別々の著作権法があれば、全ての国の法を逐一確認しなくては、事業展開できない。統一してくれた方がありがたいだろう。
波紋を読んでいるのは、改正著作権法の通称「リンク税」と呼ばれるものだ。
もっとも物議をかもしているのは、法案に盛り込まれた「副次的著作権」の項目だ。新しいEU法案では、コンテンツ出版後20年にわたって出版社が許諾を取っていないコピーに使用料を請求することができるという、あたらしい著作権が盛り込まれている。
ここで問題となっているのは、この著作権が「オンラインにアップされているコンテンツ」にも適用される、というところだ。たとえば、ニュースキュレーションサービスがオンラインにアップされたコンテンツにリンクを貼ることにも使用料を請求できてしまうことから、この法律は「リンク税」としてつよい非難を浴びている。
EUの新著作権法がもたらす「閉じたインターネット」 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
これはオンライン企業などには大きな打撃となるが、旧来のメディアの価値観を引き継ぐものと言える。フィナンシャル・タイムズは以下のように指摘する。
改正案は、著作権制度を改正し、従来型メディアの力の向上を狙っている。フィナンシャル・タイムズ紙などのニュース発行者は、「グーグル・ニュース」などの情報収集サイトがコンテンツを一部でも表示した場合、料金の請求権を得ることになる。
[FT]デジタル著作権改正案はEUを後退させる(社説) :日本経済新聞
コンテンツホルダーの方ばかり向いて、ユーザーの利便性を考えていないと、Open Rights Groupなどは批判しているが、そもそもコンテンツホルダーにとっても今回の改正がプラスに働くのか疑わしい。
Newsweekは、ドイツとスペインで以前導入された、ニュースキュレーションサービスが抜粋を表示することに、出版社が請求できる仕組みを導入したが、結果はgoogleが運営を停止し、コンテンツホルダーのサイトへの大きな流入源を失った前例を紹介している。
じつは2014年、同じような法律がドイツとスペインで導入されたことがあった。両国では、Googleニュースなどのニュースキュレーションサービスがニュースにリンクを貼り短い抜粋を表示することに対して、出版社側が使用料を請求できるというあたらしい著作権を導入。このとき課税義務を課されたGoogleは、ドイツとスペインでGoogleニュースをそれぞれ運営停止して対抗した。出版社はGoogleニュースからの検索流入がなくなりトラフィックが10~15%ほども激減し、この「副次的著作権」の導入を取りやめた、という経緯があった。
EUの新著作権法がもたらす「閉じたインターネット」 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
すでに失敗の前例がEU内にあるにも関わらず、どうしてこんな改正案がでてくるのがよくわからないが、これが施行されれば、再びgoogleは撤退しコンテンツホルダーのサイトへのトラフィックは大きく減少することになるのではないか。ニュースの導線を提供する新サービスも登場しにくくなるだろう。
加えてこのような判決があったばかりだ。リンクを貼るだけの行為も著作権侵害となり得るという判決が欧州裁判所でついこないだ下された。
「無許諾コンテンツにはリンクを貼るだけで著作権侵害」–EU判決とリンクの自由 – CNET Japan
リンクを貼る行為は日本においては、それ自体が著作権侵害を問われることはない。リンク先のサイトが著作権侵害を犯していたとしても、リンクはそこへの導線を示したにすぎないとする解釈だが、欧州はこれをも著作権侵害とするのということらしい。少なくとも「営利目的の場合にはリンク先の適法性をチェックする義務を負う」そうだ。
著作権侵害サイトの撲滅が重要な問題なのは当然だし、世界を席巻するのがは米国の企業ばかりで、以下に自国の産業を守るかは欧州だけでなく、日本でも課題となっている。一方でユーザーのアクセスの自由の保障も同じく重要だ。EUのようなラディカルな対応は本当に表現の自由のためになるか、回り回ってコンテンツホルダーを苦しめることになりましないか。注視する必要がある。
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