映像もさることながら、音声が明瞭になったと評判の「七人の侍」4Kデジタルリマスターを見てきた。確かに音も画も大変美しかった。
これまでに「七人の侍」劇場では2回見ている。1回目は今は亡き大井武蔵野館にて。落ち武者狩りが発覚して菊千代が怒鳴り散らす場面あたりで音声トラブルがあり、無音状態になってしまい、その後復旧に30分くらいかかっていた。初めての「七人の侍」がそんな体験だったのだが、その後、アメリカ留学中に見る機会があり、きちんとトラブルなく観ることができた。プリントの状態は、まあ50年代のプリントであるから、それなりに傷ついてはいた。音も劣化したプリントだと、ブツッと音がしたり、ジジジ・・・と妙なノイズが混じったりといろいろ気が散る要素が多いのだけど、アメリカのプリントもやはりそんな状態ではあった。ただ、セリフの内容に関しては、英語字幕があるから、日本で見た時より理解がしやすかった。
野上照代さんによると、「七人の侍」はセリフが聞き取りにくいと公開当時も言われていたそうだ。今回のリマスターでは、聞き取りにくい台詞も明瞭にし、かなり聞き取りやすくなっている。ただ、過剰にわかりやすくしているわけでもなく、あくまで原音に忠実に美しい音に仕立てている。ノイズがないだけで、環境音も際立つし、強く風の吹いているシーンが多い映画なのだが、風の音もハッキリと聞こえる。今回のリマスターのよって台詞よりも恩恵を被ったのは環境音の方かもしれない。
今回音声の復元に使用されたのは、スイスのSONDOR社のResonancesという装置だそうだ。音のレストアは音声用のネガからポジを起こしてデジタル録音していくが、Resonancesは音声を信号としてではなく、映像としてスキャンしていくらしい。画像として得られた波形トラックからデジタル音声を得ることだ可能だそうで、ポジを起こす手間を省けるし、デジタル上で補正することでノイズなども除去でき、アナログコビーで発生するような音の劣化も防げるので、フィルムを焼いた時の音声よりも原音に近い音を再現できる可能性もあるようだ。(参照)
映像に関しては、劣化したフィルムは全体的に白っぽくなり、それによって濃淡がつぶれることがあるが、今回の補正は非常にはっきりした陰影が再現されていた。黒澤映画の特徴である望遠パンフォーカスは画面全体がくっきり見えるるので、すみずみまでゴミがないととても気持ちよく見られる。劣化フィルムプリントでは、屋内シーンがかなり暗かったような憶えがあるが、今回は全く気にならなかった。
映像も音もクリアになり、今まで一番良い鑑賞体験になった。本作は何度も見返しているが、今まで一番作品世界に没頭できたことは間違いない。3時間半の長時間全く飽きさせないし1カットたりとも目が離せない。文字通り207分釘付けになってしまった。
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