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NHKドキュメンタリー、人工知能の痛覚と宮﨑駿の生命観

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昨日(2016年11月14日)放送のNHKドキュメンタリー「終わらない人 宮崎駿」が面白かった。宮崎監督のドキュメンタリーが放送されると大抵話題になるが、また長編作品の構想を練っていることがすでにニュースにもなっている。

[宮崎駿監督]長編アニメ復帰に意欲 「何もやっていないで死ぬより…」 | マイナビニュース
「何もしないで死ぬより、やっている最中に死ぬ方がまし」と語っていたり、親しい人やともに映画を作ってきたスタッフの訃報があったりと命や生きるということについて考えさせるような内容の番組になっていた。番組の中心となるのは、宮崎監督が現在取り組んでいる短編CGアニメ「毛虫のボロ」の制作過程なのだが、この制作においても生命をどう扱うのか、どう描くのか、が問いになっている。

若いCGクリエイターとの仕事に新鮮な希望を感じて取り組み始めた短編企画だが、どうにも細部の動きのディテールに生命の躍動感や息吹が吹き込まれないことに苛立ちを憶える宮崎監督。アニメーションの仕事は、造り物に生命を宿すことだとすれば、どんな優れた物語を作ることよりも、ひとつひとつの動きに生命の息吹が宿っているかどうかは最も重要な点だろう。
あらかじめ生きている役者を相手にする時よりも、アニメーションのように無機物を相手にする時の方がそのことを強く意識せねばならない。役者はそもそも生きているが、アニメはゼロから生命を与えねばならない。生命と向き合うのがアニメの仕事という、宮崎監督の挟持がよく見て取れる。

番組の中で、Twitterなどでもっとも話題になった場面は、ドワンゴ川上量生さんとUEIの清水亮さんが人工知能によるアニメーションを宮崎監督にプレゼンして、監督が怒る場面だった。人工知能に速く移動することを学習させて、自動で動く絵を作るプログラムのプレゼンだったが、川上さんはここで、「基本痛覚とかないし、頭が大事という概念がないので、頭を足のように使って移動している」モデリングを披露している。
これに対して宮崎監督は、人間の痛みなどを何も考えないで作っていることに不愉快で、生命に対する侮辱だと言い放つ。

川上さんはこれをゾンビゲームなどに使えるのではないか、と説明していて、実験段階でこれが今すぐになにか表現として活用できるという話ではなく、試作としてこんなことをやっているよ、と説明しに来ただけのようだけど、特に成果物でもなく、目指すものも明確でないものをどうしてわざわざ見せにきたのだろうと思った。技術畑出身の人なので、技術の進歩それ自体に大きな意味を見出す人なのだろうと思うが、宮崎監督とはそのあたりの考え方には根本的な違いがあるのかもしれない。鈴木敏夫さんが何を目指しているのか、と質問して清水さんが「人間が描くのと同じように絵を描く機械」と答えていた。

ここで、人間が描く、ということはどういうことだろうと思った。人間は痛みを知っている、しかし、痛覚を無視した動きが人工知能ならばできるとプレゼンしていた。それが人間が想像できない動きであるとも言っていた。ということは人間が描くのと同じではないということになる。痛みを無視しているから、あのようなグロテスクな動きが平気で描けてしまう。しかし、人間と同じように描くなら、痛覚の学習もまた必要になるのではないか。

アニメーションは生命のないものに、生命を吹き込む。人工知能にも生命がない。人間が描くのと同じように、ということはある意味では人工知能に生命を与える、ということでもあると思った。長年生命を吹き込む仕事に従事してきた宮崎監督には、あの人工知能の作ったアニメーションが生命を吹き込むつもりがないように見えたのだろう。

個人的には、あの人工知能のアニメーションは面白いと思った。人にできないことを人工知能がやれるという可能性を示そうとしたからだ。人間ができるなら人間がやればいいと思う。人工知能には人知の及ばない領域での活躍を期待しているので、人間と同じように描くよりも別の可能性を模索してほしいとも思っている。あの気持悪さはなかなか人間には出しにくいだろうと思った。その人間にできそうにないところに可能性を感じるのだが、やはり目指しているのは「人間と同じように」描くことなのだろうか。

番組は、宮崎監督が鈴木敏夫さんに長編企画書を提出し、長編作りを再び目指すところで終わる。構成上、川上さんと清水さんへの怒りによって、再び火がつき長編に向かったようにも見えるが、それは多分編集の都合でそう見えるだけだろう。(全く関係ないわけじゃないだろうけど、それだけがトリガーではないだろう)宮崎監督は、骨の髄まで映画監督なのだな、と思った。生きる本能で映画を作っているで、本人が言うとおり、死ぬまで作り続けてしまうのではないか。

いろいろな角度で生命に対する考えを深められる、良い番組だった。そして宮崎監督の長編企画を楽しみに待ちたい。川上さんと清水さんの人工知能研究も素晴らしいものになるといいなとも思う。
 

宮崎駿の雑想ノート
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